「悪いな。どうやら俺はお前を『始末』しないといけないみたいだ」
缶ビール片手に、今日の仕事もキツかったと思い返しながら家に帰る途中の路地。
突然目の前の暗がりに現れた男からそう言われ、銃を向けられた。
「は?」
突然の出来事に、俺が間の抜けたリアクションをするが、相手は問答無用で発砲してきた。
だが、何発か撃った銃弾は全て外れた。
「…少し距離もあるし、相手から離れれば大丈夫かも」
そう考えて反対側に振り返って逃げようとしたが、酒のせいか少し足がもつれてしまった。
次の瞬間、背中への熱い感覚と突き飛ばされるような強い衝撃を覚えた。
どうやら銃弾が命中したようだ。
「…足がもつれなかったら外れてたのかなぁ」
とか考えながら、俺は意識を失った。
「目が醒めたか?」
目を開くと、見たことのない爺さんが俺の顔を覗き込みながら言った。
「あんた、誰?」
俺の質問を爺さんは無視して、
「お前さんにやってもらいたいことがある」
そう前置き抜きで話を始めたかと思うと、横になっているベッドの上に一丁の拳銃を放り投げた。
全く状況を理解できないでいる俺に、爺さんは、
・今は俺が撃たれてから50年が経っていること
・その間、俺はコールドスリープ状態だったこと
・俺が撃たれた次の日、ある研究の失敗で世界が滅ぶこと
・世界が滅ぶ前に、原因となる人物を「始末」する必要があること
・それがちょうど50年前の明日で、今日が最後のチャンスであること
・その人物の目の前に、これから俺を送り出すこと
・今は時間移動の技術が確立されていて、過去や未来へある程度自由に行き来できること
俺の身支度を進めながら口早に説明してくれた。
「で、何で俺なんだよ」
素朴な疑問を口にすると、爺さんは
「これ以上説明している時間はない、さあ急ぐんだ」
そう言いながら、見たこともない機械の中に俺を放り込んだ。
次の瞬間、目の前の風景が歪み始めて、
「他人を殺せば罪になるが、自分で自分を…」
という風に聞こえる謎の言葉に送られて、せっかく目覚めたばかりなのにまた意識を失うことになった。
しばらくして意識が戻ると、どこか見覚えのある場所に立っていた。
体に異常がないかを調べてみると、銃を握っている手が少し透けて見えていた。
…なるほど、このままだと俺は…
何となく状況を理解した俺は銃を握り直して、
「悪いな。どうやら俺はお前を『始末』しないといけないみたいだ」
俺はそう言って、目の前にいる男に銃を向けた。