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第14話 ローハンの秘密

 旅の中で、ローハンはこれといった特殊能力を発揮することがなく、仲間達の中で自分が役立たずだと感じていた。


 アストリアやマチルダの強さを目の当たりにしては、自分との違いに劣等感を抱くことも少なくなかった。


 それでも、彼は明るさを装い、仲間とともに旅を続けていた。


 しかし、ある日、荒野で野良ゴブリンの群れに遭遇したとき、事態は一変した。


 敵の数は多く、戦いは激しさを増していく。


 アストリアやマチルダが応戦する中、突如としてどこからともなく大地を揺るがすような力が溢れ出した。


「フロル・テルリス(大地の怒り)!!!!」


 ローハンの叫びとともに、足元の大地が爆発的なエネルギーを放ち、巨大な土の柱が敵を次々と打ち砕いた。


 ゴブリン達はその猛威に成す術もなく、あっという間に蹴散らされてしまった。


 戦いが終わった後、ローハンは肩で息をしながら、満面の笑みを浮かべた。


「やったぜ....ついに俺も....!」


 彼の顔にはこれまでにない自信と喜びが見て取れた。


 しかし、その目の奥にはどこか陰りがあり、呼吸も浅く、苦しそうな様子だった。


 アストリアとマチルダはすぐにその異変に気づいた。


「ローハン、本当に大丈夫なの?」


 マチルダが心配そうに問いかける。


「お前、無理してるんじゃないか?」


 アストリアも目を細めて彼を見つめた。


 しかし、ローハンはいつもの調子で笑い飛ばした。


「大丈夫、大丈夫! 心配するなって、これくらい余裕だぜ!」


 その微笑みはどこか不自然で、無理をしているように見えた。


 ローハンの中に何か隠された秘密があると感じながらも、二人はそれ以上追及しなかった。


 しかし、セラフィスだけは、何かを感じ取っていた。


『アストリア、気をつけて、彼の魔力の量は異常だ』


 それからというもの、ローハンは次々と魔物との戦闘で「フロル・テルリス(大地の怒り)」を駆使し、驚異的な力で勝利に貢献するようになった。


 巨大な魔獣をも大地の柱で押し潰し、敵の群れを一瞬で蹴散らすその姿に、仲間は、ただ目を見張るばかりだった。


 ローハン自身も、


「もう、これからは誰にも俺を足でまといだなんて言わせないぜ!」


 と胸を張って笑っていた。


 しかし、戦闘の度に彼の顔は青ざめ、息は荒くなり、汗が滝のように流れる。


 時には膝をつくほど消耗している様子を見せながらも、ローハンは「大丈夫」と言い張り、無理を通していた。


 とうとう、アストリアとマチルダはローハンに真実を聞く決心をした。


「ローハン、いい加減に隠すのはやめて!」


 マチルダが鋭い声で迫る。


「そうだ、お前の体、どう考えても普通じゃないだろ。俺達には何でも話せって、言ってただろ?」


 アストリアも真剣な目で彼を見据えた。


 ローハンは一瞬目を逸らし、曖昧な笑顔を浮かべたが、二人の真剣な表情に観念したのか、ふと視線を落とした。


「…本当に、何でも気づいちまうんだな、お前らは。」


 そう呟くと、彼は腕をまくり上げた。


 その肌には、黒く不気味な模様が浮かび上がっていた。


 それは呪いの紋章だった。


「これ…いつから?」


 マチルダが息を呑む。


 ローハンは少し苦笑しながら答えた。


「ドラキュラとの戦いの時だ。俺が足を引っ張らないようにって必死だったんだけど…あのとき、ちょっと油断してさ。ドラキュラの奴、俺に呪いをかけてきやがったんだ。」


 その場に静寂が訪れた。


「じゃあ、この突然の覚醒も…?」


 アストリアが聞くと、ローハンは小さく頷いた。


「そうだ。呪いのせいで魔力が異常に増幅してるんだ。これがなかったら、俺なんてただの平凡な奴さ。」


 彼の言葉には自嘲が混じっていた。


「でも、大丈夫だから。呪いに負けるつもりはない。それに、この力だって仲間のために役立てるなら…悪くないだろ?」


 そう言って笑うローハン。


 しかし、その笑顔が無理をしていることに、アストリアとマチルダは気づいていた。


「ローハン…呪いを解く方法を見つけよう。一緒に。」


 マチルダが静かに言う。


「でも、俺達には感情の魂を回収する使命がある」


 ローハンは思い詰めたように言った。


「馬鹿か、お前は。お前が平気なフリしても、俺達はお前を放っておけるほど冷たくねぇよ。魂の回収はそれからでも遅くはない。」


 アストリアはローハンを元気付けるように彼の背中を優しく押した。


 ローハンは一瞬驚いたような顔をしたが、次の瞬間にはいつもの笑顔を浮かべた。


「本当に、お前らはどこまでもお人好しだな。でも…ありがとう。」


「さあ、そうと決まれば早速行動開始だ!」


 アストリアは元気よく前を歩いていく。


 しかし、その背中は動揺を隠し切れてはいなかった....。


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