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第2話

       2


 武闘会から、およそ三週間が経過した。ジュリアは第二学年に進級し、リィファも同じ学年で入学していた。また武闘会以降、ジュリアに異変は起こっていなかった。

 入学時、リィファは、地球から来たという自らの経歴を堂々と口にした。しかし、シルバたちへの襲撃は語らなかった。

 リィファに責任は存在しない、飛来以降のリィファには危険性がない、という理由を挙げてシルバたちが止めていた。シルバたちの真摯な助言を、リィファは幸せそうに微笑んで受諾していた。

 リィファの生活について、武闘会終了後には孤児院に行く選択肢も提示された。しかしリィファはシルバとの同居の継続を望み、シルバも受け入れていた。

 シルバはアストーリ校の教師として正式採用になり、一つしかない学級の担任となる。夜勤警護の仕事は、就任と同時に辞めていた。

 アストーリ校での生活の基点である各学級の教室は、円形闘技場の道を挟んだ隣、アストーリ校本校にあった。校舎は白を基調とした石製で、さながら荘厳な小型の城である。

 午後四時半、正面の階段を上り、シルバは本校に入った。仄暗い木の廊下を抜けて、一階の第二学年の教室の扉を開ける。

 ほぼ正方形の教室は、一辺が歩幅で十歩分もないほどの大きさだった。木製の二人掛けの机が所狭しと並んでいて、赤茶の制服を着た生徒たちが席に着いていた。

 一部の机の上には犢皮紙の筆記帳があり、本日の最後の授業、史学に関する書き込みがなされている。

 シルバが教卓に着くと、気付いた生徒たちは雑談を止めてすうっと前を向いた。

「全員いるな。では終礼を始める。明日は祝日、学校は休みだ。知らない者もいるから、説明しておく」

 後ろから二番目の列の右端では、背筋を伸ばしたリィファが真剣そうに耳を傾けていた。シルバはリィファを意識しつつ、淡々と話し続ける。

「四月十二日は、この国が生まれた日だ。ちょうど百五十年前、より強固な共同体を欲する民意に押されて、三人の人物が生活圏の周りに壁を設けると宣言した。――って、そのあたりの経緯は、少し前に学んだよな。俺からもう一度聞く必要はないか」

「はいはい! シルバセンセー! さすらいのニューカマー、リィファちゃんはそのあたり全然知らないよ! みっちりばっちり説明してあげてよ!」

 ジュリアはぴんっと右手を上げて喚いた。シルバを見つめる視線はこの上なくきらきらしている。

(すっかり元気になったな)シルバは内心ほっとする。

「わかった。リィファには後で俺からもう少し詳しく説明しておく」

 シルバは端的に返答した。

「ありがとうジュリアちゃん」

「どういたしましてリィファちゃん! こんぐらいはお安いご用だよ!」

 真摯に礼を告げるリィファに、ジュリアは弾んだ声で返した。

「当日は国の各所に市が立ち、夕方からは三角行進トライアングルマーチがある。参加者をランダムに、建国の功労者の三人を象徴する色の組に分けて、国の三方から中央に向かって行進を開始。各組に一つずつの色付きの球を、他の二組のどちらかのスタート地点に置いた組が勝利となる」

 シルバが告げると、生徒たちはにわかに活気づいた。(年に一度の祭だもんな)と、シルバは納得する。

「蹴る殴るも許されてるから、危険ではあるからな。参加は禁止はしないが、後に引く怪我だけはないようにしろ。以上だ」

 シルバが扉へと歩き始めるや否や、生徒たちは楽しげに談笑を始めた。


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