「──金がねえ!!」
ドンッ! と、俺はテーブルを両手の握り拳で叩く。
そんな叫び声を出さないとやってらんねー、と言う状態だった。
「ちょっとカイト、何叫んでるのよ。ご近所迷惑でしょーが」
「それはごめんだが、お前に言われるのは凄く腹立つ!? しゃーねえだろ、ガチで金がねーんだから!!」
漫画本を読みながら視線も向けずにそう言ってくるソラに対して、俺はかなりガチ目の本音を曝け出していた。
だって真面目に財布の中が空っぽなのだ。自由に使える貯蓄も含めて、かなり切羽詰っている。
「全く、金銭管理がなってないわねー。そんなんでよく一人暮らし今まで出来てたわね。ポンコツにも程があるんじゃないの、甲斐性なしー、って、いひゃいひゃいひゃいーッ?!」
「うっせえ!? 出費の大半は主にお前の私服や生活費だ、この突撃居候が!! 他にも異世界人メンバーも理由だが、そもそもお前の本体が呼んで来た奴らだろうが!?」
俺の事をバカにし始めるソラに対して、そもそもの責任の発端はお前だとほっぺをグニーっと引っぱった。
振り返ってみても、マジで諸悪の根源こいつなんだけど!?
「か、金遣いが荒いのは元からでしょー!? 私はセーブポイントの管理を命じただけで、お金の使い方に関しては命じた覚えはないわよ!! ポンポン買い与えるカイトの自業自得でしょー!?」
「へー、そんな事言っちゃうんだ。じゃあ今後、お前の私服と料理は無しでいいんだな? よっしゃもう面倒見ねえ、助かるよ」
「あー!? DV、DVよ!! 子供虐待よ!! そう言う言い方子供に対して絶対やっちゃいけないんだから!? 子供傷ついちゃうでしょ、私泣くわよ、泣いちゃうわよ!?」
「お前もう自意識子供になってるじゃねーか!? あーあー、悪かった、悪かったよ! けどお前も、育児放棄の男ってレッテル貼られるようお前から普段脅迫してるようなもんなんだからな!! 放っておく選択肢自体ねえ事自覚しろよな!?」
そんな言い争いを、ガチで涙目になったソラと繰り広げた後、俺たちはぜいっぜいっと呼吸が荒くなっていた。
暫く呼吸を落ち着かせる事に集中して、大分整った後に改めて話を進める。
「ったく……改めて言うけど、最近出費が馬鹿にならないほど激しいんだよ。お前の居候開始は勿論、ユウカの私服、メタルマンの工具や壊した窓壁の修理、マホのお菓子や遊園地代。今月どころか、二ヶ月先の出費予定額まで超えちゃってるんだよ」
「合わせて3ヶ月分ね。ッハ!? これが給料三ヶ月分って奴かしら!? 私達、カイトにプロポーズされちゃってる!? ダメよカイト、私は女神なのよ!! それにハーレムどころか、男も含んでいるのはどうかと思うの!!」
「やべえな、これから急いで耳鼻科の出費が重なると思うと頭が痛くなるな。いや、これどっちかって言うと脳神経外科か? どちらにせよ、医者に見せる必要あるなー」
俺の言葉に、「カイト頭悪いの? 大丈夫?」と宣う幼女に対して、お前の事だよと全力で頭グリグリしながら、今後の事を考える。
ひとまず、急いでまとまった金をある程度補充する必要は確かだ。
このままだと、他にトラブルが発生した際、ガチで対処出来なくなる。
ったく、俺まだ一応学生なのに……外国の親からの仕送りでなんとか出来る範囲超えてんぞこれ……
以前ユウカにもらった鉱石は、全部メタルマンに上げちゃったし。
ナイフに関しても、レア過ぎる武器的な意味でもユウカの気持ちと言う意味でも、到底売っていい代物じゃねーし。そこまで人の気持ちを蔑ろにはしたくない。
そこまで考えて、俺はハアッ……とため息をつく。
「……しゃーねえ。アルバイト始めるか。幸い、今は大学は春休みだ。今の内に何か短期でもいいから何か仕事するか」
「え? じゃあ私のご飯どうするの? ちゃんと朝昼晩帰って作ってくれるんでしょーね?」
「心配するのそこかよ。少しは作ってやるから、何食かはカップラーメンとかで済ませろ。それが嫌なら、自分で作れー」
「何言ってるのよ!? もう私の体、カイトの料理で育っちゃってるのよ!? 美味しいもの食べる喜びを知っちゃったのよ!! そんな私からカイトの料理を取り上げるなんて、女神に対してなんて仕打ち!? 自分の価値を実感しなさい!」
なんか文句言ってるようで、割とベタ褒めなセリフを吐いているソラに対して悪い気はしなかったが、それはそれ、これはこれ。
流石にアルバイトしながら今まで同様の世話は無理だ。少しは自立して貰わないとこっちが困る。
「極力自由度の高いアルバイト選ぶつもりだから、お前も家の事くらい協力しろ。ちょっとは手伝ってくれ。と言うか留守番頼むつもりだから、その間家の事は頼んだ」
「えー、私家事炊事出来る自信がないんだけど……」
「家事全部やれとは言わないから、自分の飯くらいは用意してくれ。お小遣いやるから。というか、メインは異世界人メンバーの相対だな。ユウカ達多分また来るだろ? その時お前が相手してくれよ」
そう、俺がアルバイトの最中に、ユウカ達が再度来ないとも限らない。
そうなった場合、流石に家に誰もいないという状況は好ましく無い。
もしかしたら、完全に見知らぬ新しい異世界人メンバーがやって来る恐れがある以上、事情を知ってるソラを留守番させ続ける事は必要不可欠となっている。
その言葉を聞いて、ソラはうーん……と頭を捻らせ。
「……分かったわよ。しょーがないわねえ」
「よし、決まりだな」
「……ユウカちゃん達に、家事の手伝いをお願いすれば良いしね。私、あったま良い〜」
「……極力迷惑掛けないようにしろよ。あいつらこっちの世界の家具の使い方分かってなさそうだから」
実際、手伝わせた影響で家具がボカーンと爆発、なんてオチは……考えられなくも無いが、可能性は低い、か……?
というか、改めて考えてみよう。
ユウカは、王道なファンタジー世界出身だから、当然家具電化製品なんて身近に無いだろう。
うっかり操作を誤ってしまう可能性はあるが、本人自体は素直で真面目だから、そこまで致命的な事は起こさないと思う。
メタルマンは……正直家事自体手伝うか一番微妙だ。ソラ以上に手伝う事無さそうじゃ無いか?
というかあいつ、家事自体出来るのか? あいつがそんなのやるイメージ全然湧かないんだけど。
マホは多分、魔法少女って事以外は、俺の世界に限りなく近そうだよな。
電化製品の使用とか、そこまで心配することはないだろう。
敢えて言うなら、最新機器とかで使い方が分からない、といったところか? まあそれならそれで、説明書を置いておけば良いし、そこまで無理して手伝ってもらう必要も無い。
ふむ? こうして考えてみると、実際そこまで恐れる必要は無さそうだな?
この3人に関しては、そこまで心配する必要はないだろう。
やっぱり、この3人以外の新しいメンバーが来た場合荒れる可能性を一番心配した方が良さそうだな?
「ようし、ソラ。やっぱりお前が新しいメンバーを対処してくれるかどうかが心配だから、しっかりしろよ」
「はいはい、ちゃんとやりますよー」
「何かあったら、俺のケータイに電話してくれ。これ、俺のケータイ番号のメモな」
りょーかい、と言いながらソラはメモを受け取った。
正直まだ心配だが、今はこれくらいが出来ることの限界だろう。
そもそもアルバイト先が決まってない以上、取らぬ狸のなんとやらだ。
まずは早速今日から探さないと。
「それじゃあソラ、俺はバイト先まずは良いのないか探して来るから、早速留守番よろしくな」
「まっかせなさい。これでも女神よ? 大船に乗ったつもりで安心なさい」
「不安だ……まあ良い、行ってきまーす」
そういって、俺は玄関の扉を出て鍵を閉める。
さーて、なんかちょうど良い仕事ねえかなーっと……
家の事は……まあ、なるようになるか。
そうして、俺は毎日アルバイト探しに出かける事になり、何度もソラに留守番を任せたのだが……
まあ。案の定、家で問題が起きる事になるのだが、この時の俺は何も知らないままだった……