「あー、暇ねー……」
私はソラ。女神の分神よ。
カイトがアルバイト探しに出かけ始めて三日間が経ったところ。
まあカイト自身はちゃんと毎日帰って来てるんだけど、まだ働き先は見つかってないらしい。
私はその間頼まれた留守番をしっかりしてるんだけど、なーんにもイベントが無くて、暇でしょうがないわ。
「んー、なーんかちょうど良い暇潰しないかしらねー」
そう呟きながら、私はスマホをポチポチと弄る。
ちなみにこのスマホはカイトの中古品だ。電話は繋がらないけど、無線環境は家に揃っているから、ネットサーフィンくらいなら問題無く使う事が出来る。
電話自体は固定電話あるから、一旦は問題無いだろうとの事。
でもあの様子だと、もう少しゴネれば専用のスマホ買ってくれそうなのよねカイトの奴。
最大限彼を利用している私が言うのもなんだけど、あの怒りっぽい性格のように見えて駄々甘な性格、いろんな意味で大丈夫なのかしら?
いつか詐欺とかに引っ掛かりそう……あ、女神という私に引っかかってるか。アハハ。
「ん? あ、これちょうど良さそう。インストールっと」
それは、最近流行のソシャゲのタイトルの一つだった。
過去の英雄達が、現代で願いを叶えるために競い合うゲームのスマホゲーム版。
ストーリーが重厚で、時間が有り余っている私にはピッタリだ。
課金すれば直ぐに最強パーティが出来そうなソシャゲあるあるなシステムだが……
「……ま、課金は止めておきましょう。カイトここにいないし」
流石に金欠を嘆いている彼の現状で、ここで無駄に浪費を重ねるような愚策はしない。
迷惑を既に掛け続けている自覚はあるし、不必要に追い込む必要も無いだろう。
ここにカイト本人がいたならば、“課金するフリ”をして反応を楽しむくらいはしていたのは否定しないけど。本人がいないならそれをしてもつまらないし。
「さーてと、早速物語を開始っと……」
「──カイト、ソラ様。いるかい?」
そう始めようとすると、ユウカちゃんがガチャリとリビングの扉を開けて入って来た。
どうやら、マーカーからまたこの世界にやって来たらしい。いつものように全身黄金鎧姿でやって来た。
「あ、ユウカちゃん。おひさー。」
「うん、そうだね。──カイトは? 彼はいないのかい?」
「ちょっとお出かけ中ー。夜まで帰ってこないわね」
「そっか……それは残念だ」
ユウカちゃんはキョロキョロとあたりを見渡した後、残念そうな表情をしていた。
むう、私だけじゃ不服なのかしら? こんなプリティーな女神がいるのに。
まあ良いわ、ここは女神として寛大な心で許してあげましょう。
「ところで、今日きたのはやっぱりセーブポイント使用?」
「そうだね。後は、休憩も兼ねてかな。丁度“カンセダリー王国”に到着して、そこを拠点に暫く準備するつもりだよ」
「へー。と言う事は、旅は順調な感じ?」
「まあ、そうかな? と言っても、ちょっと怪しい話もあるけどね」
「怪しい話?」
ユウカちゃん曰く、道中“ロビーホ要塞”の簡単な調査をしたらしい。
“魔王四天王”の痕跡があると言う話で調べたが──少なくとも、魔王軍らしき存在は確認したとの事。
巧妙に隠されてはいたが、結構な規模の軍隊の痕跡がそこにあったらしい。
深入りは危険と考えて、一旦王国に向かうのを優先したと。
「それで、“カンセダリー王国”に報告をした所なんだ。情報の裏取りをした後、近々大規模な討伐隊が組まれる筈。……そこに、ボクも組み込まれると思う」
「なるほどねー……ま、心配はいらないわ! あなたには女神であるソラリスと、セーブポイントがあるのだから! ちょっとやそっとじゃ負けないわ!」
「……そう、だね。うん、頑張るよ」
そう言ったユウカちゃんは微かに自信がなさげだったけど、とりあえず見た目は何でもなさそうに振る舞っており、セーブポイントにセーブを行なっていた。
それをした後、鎧をガチャガチャと取り外していく。
「……ふう。やっぱり鎧は頑丈だけど、窮屈なのが辛いね。やっぱり戦い以外は、軽い服の方が良いや」
「早速、この間買った服着ちゃう?」
「うん。そうしようかな……そうだ。この鎧なんだけど、ひとまずこの家に置いていって良いかな? “カンセダリー王国”で色々準備するつもりなんだけど、暫く戦闘が無さそうだし重たい鎧を置いて置きたくて」
なるほど、確かにその鎧は見ただけでも重そうだ。
勇者としてユウカちゃんも鍛えられているだろうけれど、女の子である事には代わりない。
少しでも身軽になれる時間があるならなりたいだろう。
「良いわよー。その辺に適当に置いておいてー」
「それで良いのかい? どこか置き場所とかカイトに確認した方が……というか、カイトのお出かけって買い物かい?」
「ううん。金欠を嘆いて金策中ー。あんまり成果は芳しく無いけど」
「……それは、もしかして、この間ボクの服を沢山買ったから……?」
「女の子の服は必需品で消耗品よ。湯水の如く使わないといけないわ」
冷や汗を垂らすユウカちゃんに、気にする必要無いと言っておく。
私は女神だけど、女の子にとって大事なものは何か分かっているつもりよ。この世界の文化に詳しい出来る女神なのです。
そもそも、あなたは勇者装備のナイフとか言うとんでもない価値のものをカイトに渡している筈。
そのお礼であげた服なんだから、釣り合いはちゃんと取れていると私は指摘する。
それを聞いて、ユウカちゃんは気難しい顔をしながらも、ひとまずは飲み込んだようだ。
「そっか……それでも、彼が困っているようなのは見過ごせないから、今度何か出来ないか相談してみるよ。金策の手伝いなり、何かお礼の品以外での何かを。以前の鉱石は、あまり価値がないんだよね? それ以外だと……」
「あー、あれ。あれ結局、めっちゃ役立ったわ。ありがとうー、やっぱり何が必要になるかわからないものね」
「そうなのかい? それなら良かった、嬉しいよ」
その言葉を聞いて、ユウカちゃんは本当に嬉しそうな表情になっていた。
うんうん、良い笑顔ね。
「どうせなら、何かいらない装備品とかあったらついでに置いていったら? リサイクルも兼ねて活用出来るかもしれないし。それをお礼の品として受け取るわよ」
「そうかい? じゃあ、使わなくなった銅の剣とか、色々ひとまず……」
そう言って、ユウカちゃんは旅の袋の中からゴソゴソと色々な装備品を置いていく。
どれもかなり使い込まれていて、ボロボロだ。それが沢山。
でもメタルマンなら、溶かして使いそうだから関係無いわね。
鎧とは離れて置かれたそれらを見て、ユウカちゃんは冷や汗を垂らし……
「……なんか、ただ私のゴミを押し付けてるだけのような……何か、何か他にやる事はないかい? 逆に申し訳なくなって来る……」
「律儀ねー。……あ。それなら丁度良かった。この家の家事を手伝ってくれない? カイトいないから、留守番の私が少しはやっとけって言われてるのよ」
「そうなのかい? 分かった、頑張るよ」
──そうして、私はユウカちゃんに洗濯機の使い方を教えながら、洗濯物を一緒に干して貰う。
自動洗濯機の機械に驚きながらも、なんとかユウカちゃんは戸惑いながらもしっかり作業を完了してくれた。
「ふー……これで洗濯完了ね。ありがとう、ユウカちゃん。お礼に一緒にお菓子でも食べましょう?」
「良いのかい? 恩返しのためにやったのに、結局お礼を貰ったら意味ないような……」
「これくらい細かい事は気にしない方が良いわよ? 冷蔵庫にプリンがあったから、一緒に食べましょー」
「……じゃあ、お言葉に甘えて。それもシュークリームみたいなお菓子なのかい? ちょっと楽しみだね」
そうして、私は冷蔵庫にいつの間にか入っていたプリンを2つ取り出して、一緒にユウカちゃんと食べたのだった。
うんうん、留守番順調ね。さっすが私。勇者さえも自分の利益の為に手駒にするこの交渉術に、我ながら恐ろしいわー。
この調子で、完璧な留守番をこなしていくわよ。見てなさい、カイト!
そう私は誓い、これ以降もこんな感じにこなしていくのだった。
全ては順調だった。……そのように、思えていた。