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第47話 総力戦

 ──そこは、不思議な空間だった。


 世界の、更に上位空間。

 神と呼ばれる存在たちが、存在する場所。


 そこに、彼女──ソラリスはいた。


「────……」


 彼女の目の前に、大きな画面が見えている。

 分神──ソラから見えている映像だった。

 その映像には、あの“炎の四天王”の姿が映っている


「────……」


 そんな彼女の手元には、また小さな画面が浮かび上がっていた。

 それも一つではなく、複数の画面。

 まるで立体ディスプレイのように展開されたそれらの中で、彼女は画面をタッチして映る情報をスライドし続けていく。


「────っ! 見つけた……!!」


 目当ての情報を見つけた彼女は、急いで同期を開始する。

 現場にいる、自身の分神へと見つけた情報を転送して──


 ☆★☆


「──とは言ったものの! どうする気だ! このバリアを解除したら、全員やられるぞ!?」


 メタルマンが空中からそう声を上げてくる。

 そう、ボクが戦うと誓ったのは良いものの。状況は依然切迫した状態。

 いまだに炎の四天王が攻撃を取りやめる様子が一切無い。


「くそう、忌々しい奴らめ!! 未だになお生き残っているとは!! だがしかし!! 焦っている様子が手に取るように分かるぞ!! フハハハハ!! そのまま焼け死んでしまえぇぇぇ!!」


 くそ、流石は魔王四天王。その馬鹿げた強さは伊達じゃ無いという事か……

 向こうの高笑いが、盾越しに聞こえてくる。まずはこの止まらない攻撃を、どうにかしなければ……


「ユウカさん! もう大丈夫なんですよね!!」

「ああ、世話になったよ!! とても助かった!!」

「じゃあもう、この盾どかしても大丈夫ですよね!!」

「おい待てマホ! 確かにそうなんだけど、今メタルマンが言ってたろ!? 解除したら全員やられるって……」


 マホのその確認の声に、カイトが否定の声をあげる。が……


「え? 違います、解除はしません」

「へ? だって、今どかすって……」

「だから……」


 そう言って、マホは杖を持った腕を大きく振り上げた。

 それを──


「こうするんです!!」


 ──大きく振りおろす!!


 すると魔力の盾は、上から大きく“奥へと傾いていく”……


『は?』


 全員が、疑問の声をあげたその時。

 ズシィィィィーンッ!! と、大きな魔力の盾が、倒れ込んだ。

 炎を防ぎながら……炎の四天王を、潰して。


「グァああああああアアアアアッ?!!!」


「“シールド・ドミノ”です!! どうですか!?」

「マホ、スゲエ!?」


 こ、れは……!?

 盾の魔法を、こんな風に使うなんて……

 思わず片手で口を塞いでしまうほど、驚きの表情をしてしまっていた。

 カイトも感嘆の声を上げている。


「よし、今のうちに……」


 アイツを潰している、今がチャンス!

 そう思って、ボク達が走り出そうとすると……


「ん? ──────あぁアアアっァァアアアアアアアッ??!!!」

「何だぁ?! どうした、ソラ!?」


 急に、ソラ様が叫び出した。

 まるで何かに気づいたような大声で。


「来た、来た!?」

「は? 何が!?」

「──本体から、情報が送られて来たのよ!? “炎の四天王”の情報について!」


 ──は?


「は? ……なんで? そして今? 今!? 今更か!? いや、何でこのタイミング!? 言うならもっと早く言えよ!?」

「知らないわよ!? 本体から情報送られてくるのってすっごい久しぶりだったし!! この間喧嘩したから話ずらかったとかじゃない!?」

「それでもクッソ重要だろうが!? せめてユウカを脅迫した時に伝えろよな!?」

「あの、ごめんなさいソラちゃん、お兄さん!! 喧嘩は後でいいので!! その情報って何ですか!? 先に教えてくれませんか!?」


 そうして、マホの声に二人はハッとなって、正気を取り戻す。

 そうだ、炎の四天王の情報……!!

 この際、ソラリス様が何を考えているかはどうでもいい。あの一見無敵に見えるアイツの攻略情報を!


「そ、そうね……!! 炎の四天王、イフリートの情報ね!!」

「ああ!」

「まず第一に! アイツはゴーストに近い分類らしいわ!!」


 ゴースト。幽霊。

 なるほど、確かに以前腕を切っても簡単に再生する。

 炎そのものと考えればそれほどおかしく無いが、幽霊とまで言ったか。


「けれど、あくまで近い分類! ちゃんと本体が存在する! カイト、メタルマン!!」

「ああ!」「何だ!」

「二人の思いついている、炎対策の方法! あれを実行して来なさい! そうすれば、本体が見つかるはずよ!!」

「「──了解!!」」


 そう言ったあと、カイトはボクに振り返ってくる。


「ユウカ、俺達が先に行く! お前はタイミング見て遅れてやってこい! お前は切り札だ、トドメは任した!!」

「それは良いけれど、大丈夫かい!? よりによって君が先頭に立つなんて!?」

「大丈夫だ、対策はある!! フハハ、50回のループ中にある程度効くことは確認済みだ!」


 そうして、多少テンションがおかしくなってるカイトは例の“赤い金属製の筒”を見せびらかしてきた。

 そういえば結局それはなんなんだろう? カイトの世界のものだというのは予想が付くけど……

 って、それどころじゃない! 気づいたらカイトとメタルマンは既に飛び出している!

 カイトは倒れたシールドの上を。メタルマンは、空中を!

 カイトは全力で走りながら“赤い金属製の筒”を構え、炎の四天王のいた場所より奥に行って、振り返った!


「よし! マホ、盾を解除しろ!! 後は何とかする!」

「了解です! リリース!」


 マホの呼び声と共に、倒れたシールドがフッと解除される。

 そして起き上がってくる炎の四天王。


「き、貴様らぁ……俺様を、コケにしやがって!! もう許さん! 全て燃やして──」

「させねえよ!!」

「アァ?」


 立ち上がり掛けた炎の四天王の背後から、カイトが“赤い金属製の筒”を構える。

 そこに繋がっている太めの紐のようなものを、炎の四天王に向けており──


「火元は消火だ!! くらええええ!!」


 ブシャアアアアアッ!!!


「グアアアアアぁぁぁぁァァアアアッ?!!」


 その音と共に、白い何かが炎の四天王に対して放たれていた!

 それを受けた炎の四天王は、まさかの苦しんでいる!?


「“消火器”だ!! 火そのものであるお前には効くだろ!! 発達した文明の器具、舐めんな!!」

「き、きっ様ぁぁぁ!!?」


 カイトの世界の道具!? 火そのものに対する特攻!?

 そんなものもあったなんて!?

 効果は抜群で、炎の四天王の炎そのものが小さくなっているのが見える! けど……!


「ググウぅ……!! だ、だが、この程度で完全には消えはしない!! それだけで俺様を倒そうなんざ甘いわ!!」

「ッチ、そうだよな! これ一つだけで決着は付かねえもんな!! 何回も試したから知ってるよ!」

「ああ? 貴様の発言は一々分からんが、その通りだ!! このまま貴様を返り討ちに──」


 そうして、炎の四天王が腕をカイトに向けて振りかぶろうとして──


「──じゃあ、さっきのとコンボならどうよ?」

「アン?」

「好きだらけだな!! “アイス・レーザー!!”」

「ッ?!! ぐぎゃあああああああああああぁぁああアアアア??!!!」


 空中から、メタルマンのさっきのアイス・レーザー!!

 それが炎の四天王に再度モロに当たっている!

 しかもカイトも、消火器と呼んだ道具の放出を止めていない!

 二重による炎特攻攻撃!!


「ぐ、が、ああああああああああああああああアアアアアッッッ??!!!」


 悲鳴を上げて、炎の四天王の体が小さくなりだす。

 身を包んでいた炎が消えていき……一見、何も見えなくなった。


「やったか!?」

「違う! カイト、見ろ!!」


 メタルマンが指差した先には、炎の四天王がいた場所。


 ──そこには、“巨大な“赤い宝石””があった。

 見たことないくらいの大きさで……そして、禍々しい魔力を垂れ流している不気味な宝石。


「あれよ!! あれがイフリートの本体!! “赤いダイヤ”!! “宝石そのものが本体”よ!!」


 あれが、本体……!?

 今までの炎の体は、全て偽り!! 宝石に纏っていた炎なだけ!?

 通りで、腕を切り落としても手応えが無かったわけだ!?


「あれがある限り、アイツは復活し続ける!! ユウカちゃん!!」

「はい!!」


 ソラ様の声に従い、ボクは飛び出す!

 この時こそ最善のタイミング!! みんなが作ってくれたチャンス!!

 ボクは聖剣を構え、全力で走り出す!


「──き、きさ、きさま、らあァァ……!!」


 すると、宝石からまた再度炎が少し湧き出てきて、また四天王の体に戻ろうとしていた!

 もう復活しようとするのか……だけど!!


「そうは!」

「させるか!!」

「っ?! がああアアアアア?!!」


 カイトの消化器と、メタルマンのアイスレーザーが再度放たれる!

 彼らが、炎を消し続けてくれている!!

 このチャンス、逃さない!!


「はああああああああァぁぁぁ────ッ!!!!」

「がああああ、や、止め────ッ?!!」


「やれええええ!! ユウカあぁあああ!!」


 ボクは、聖剣を大きくふりかぶり。


 ──全力で、“赤い宝石”を叩き切った。


 真っ二つに、綺麗に分けて。


「が、あ、ア────?」


 そうして、割れた“赤い宝石”が地面に落ちて、カンッカンッ、コロン……と、転がって行った。


「………………やった、のか……?」


 ……実感が、沸かない。

 あれほど、苦しめられた。何度も何度も、殺され続けたあの炎の四天王が。

 カイト達の助けもあったとはいえ……この程度で、倒せた?


「…………ユウカ?」

「どうだ……?」

「……え? 終わったんですか?」


 カイト達も、終わってみればあっさりとした決着に、違和感を感じていたらしい。

 戸惑いの中、念のため警戒を解かずにいると……


「──?! やばい、まだよ!?」


 背後で、ソラ様のその叫び声が聞こえてきた。

 バッと、ボク達は割った宝石に視線を向き直す。


 ──その割れた宝石は、それぞれ禍々しい魔力を再度垂れ流し始めていた。



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