──そこは、不思議な空間だった。
世界の、更に上位空間。
神と呼ばれる存在たちが、存在する場所。
そこに、彼女──ソラリスはいた。
「────……」
彼女の目の前に、大きな画面が見えている。
分神──ソラから見えている映像だった。
その映像には、あの“炎の四天王”の姿が映っている
「────……」
そんな彼女の手元には、また小さな画面が浮かび上がっていた。
それも一つではなく、複数の画面。
まるで立体ディスプレイのように展開されたそれらの中で、彼女は画面をタッチして映る情報をスライドし続けていく。
「────っ! 見つけた……!!」
目当ての情報を見つけた彼女は、急いで同期を開始する。
現場にいる、自身の分神へと見つけた情報を転送して──
☆★☆
「──とは言ったものの! どうする気だ! このバリアを解除したら、全員やられるぞ!?」
メタルマンが空中からそう声を上げてくる。
そう、ボクが戦うと誓ったのは良いものの。状況は依然切迫した状態。
いまだに炎の四天王が攻撃を取りやめる様子が一切無い。
「くそう、忌々しい奴らめ!! 未だになお生き残っているとは!! だがしかし!! 焦っている様子が手に取るように分かるぞ!! フハハハハ!! そのまま焼け死んでしまえぇぇぇ!!」
くそ、流石は魔王四天王。その馬鹿げた強さは伊達じゃ無いという事か……
向こうの高笑いが、盾越しに聞こえてくる。まずはこの止まらない攻撃を、どうにかしなければ……
「ユウカさん! もう大丈夫なんですよね!!」
「ああ、世話になったよ!! とても助かった!!」
「じゃあもう、この盾どかしても大丈夫ですよね!!」
「おい待てマホ! 確かにそうなんだけど、今メタルマンが言ってたろ!? 解除したら全員やられるって……」
マホのその確認の声に、カイトが否定の声をあげる。が……
「え? 違います、解除はしません」
「へ? だって、今どかすって……」
「だから……」
そう言って、マホは杖を持った腕を大きく振り上げた。
それを──
「こうするんです!!」
──大きく振りおろす!!
すると魔力の盾は、上から大きく“奥へと傾いていく”……
『は?』
全員が、疑問の声をあげたその時。
ズシィィィィーンッ!! と、大きな魔力の盾が、倒れ込んだ。
炎を防ぎながら……炎の四天王を、潰して。
「グァああああああアアアアアッ?!!!」
「“シールド・ドミノ”です!! どうですか!?」
「マホ、スゲエ!?」
こ、れは……!?
盾の魔法を、こんな風に使うなんて……
思わず片手で口を塞いでしまうほど、驚きの表情をしてしまっていた。
カイトも感嘆の声を上げている。
「よし、今のうちに……」
アイツを潰している、今がチャンス!
そう思って、ボク達が走り出そうとすると……
「ん? ──────あぁアアアっァァアアアアアアアッ??!!!」
「何だぁ?! どうした、ソラ!?」
急に、ソラ様が叫び出した。
まるで何かに気づいたような大声で。
「来た、来た!?」
「は? 何が!?」
「──本体から、情報が送られて来たのよ!? “炎の四天王”の情報について!」
──は?
「は? ……なんで? そして今? 今!? 今更か!? いや、何でこのタイミング!? 言うならもっと早く言えよ!?」
「知らないわよ!? 本体から情報送られてくるのってすっごい久しぶりだったし!! この間喧嘩したから話ずらかったとかじゃない!?」
「それでもクッソ重要だろうが!? せめてユウカを脅迫した時に伝えろよな!?」
「あの、ごめんなさいソラちゃん、お兄さん!! 喧嘩は後でいいので!! その情報って何ですか!? 先に教えてくれませんか!?」
そうして、マホの声に二人はハッとなって、正気を取り戻す。
そうだ、炎の四天王の情報……!!
この際、ソラリス様が何を考えているかはどうでもいい。あの一見無敵に見えるアイツの攻略情報を!
「そ、そうね……!! 炎の四天王、イフリートの情報ね!!」
「ああ!」
「まず第一に! アイツはゴーストに近い分類らしいわ!!」
ゴースト。幽霊。
なるほど、確かに以前腕を切っても簡単に再生する。
炎そのものと考えればそれほどおかしく無いが、幽霊とまで言ったか。
「けれど、あくまで近い分類! ちゃんと本体が存在する! カイト、メタルマン!!」
「ああ!」「何だ!」
「二人の思いついている、炎対策の方法! あれを実行して来なさい! そうすれば、本体が見つかるはずよ!!」
「「──了解!!」」
そう言ったあと、カイトはボクに振り返ってくる。
「ユウカ、俺達が先に行く! お前はタイミング見て遅れてやってこい! お前は切り札だ、トドメは任した!!」
「それは良いけれど、大丈夫かい!? よりによって君が先頭に立つなんて!?」
「大丈夫だ、対策はある!! フハハ、50回のループ中にある程度効くことは確認済みだ!」
そうして、多少テンションがおかしくなってるカイトは例の“赤い金属製の筒”を見せびらかしてきた。
そういえば結局それはなんなんだろう? カイトの世界のものだというのは予想が付くけど……
って、それどころじゃない! 気づいたらカイトとメタルマンは既に飛び出している!
カイトは倒れたシールドの上を。メタルマンは、空中を!
カイトは全力で走りながら“赤い金属製の筒”を構え、炎の四天王のいた場所より奥に行って、振り返った!
「よし! マホ、盾を解除しろ!! 後は何とかする!」
「了解です! リリース!」
マホの呼び声と共に、倒れたシールドがフッと解除される。
そして起き上がってくる炎の四天王。
「き、貴様らぁ……俺様を、コケにしやがって!! もう許さん! 全て燃やして──」
「させねえよ!!」
「アァ?」
立ち上がり掛けた炎の四天王の背後から、カイトが“赤い金属製の筒”を構える。
そこに繋がっている太めの紐のようなものを、炎の四天王に向けており──
「火元は消火だ!! くらええええ!!」
ブシャアアアアアッ!!!
「グアアアアアぁぁぁぁァァアアアッ?!!」
その音と共に、白い何かが炎の四天王に対して放たれていた!
それを受けた炎の四天王は、まさかの苦しんでいる!?
「“消火器”だ!! 火そのものであるお前には効くだろ!! 発達した文明の器具、舐めんな!!」
「き、きっ様ぁぁぁ!!?」
カイトの世界の道具!? 火そのものに対する特攻!?
そんなものもあったなんて!?
効果は抜群で、炎の四天王の炎そのものが小さくなっているのが見える! けど……!
「ググウぅ……!! だ、だが、この程度で完全には消えはしない!! それだけで俺様を倒そうなんざ甘いわ!!」
「ッチ、そうだよな! これ一つだけで決着は付かねえもんな!! 何回も試したから知ってるよ!」
「ああ? 貴様の発言は一々分からんが、その通りだ!! このまま貴様を返り討ちに──」
そうして、炎の四天王が腕をカイトに向けて振りかぶろうとして──
「──じゃあ、さっきのとコンボならどうよ?」
「アン?」
「好きだらけだな!! “アイス・レーザー!!”」
「ッ?!! ぐぎゃあああああああああああぁぁああアアアア??!!!」
空中から、メタルマンのさっきのアイス・レーザー!!
それが炎の四天王に再度モロに当たっている!
しかもカイトも、消火器と呼んだ道具の放出を止めていない!
二重による炎特攻攻撃!!
「ぐ、が、ああああああああああああああああアアアアアッッッ??!!!」
悲鳴を上げて、炎の四天王の体が小さくなりだす。
身を包んでいた炎が消えていき……一見、何も見えなくなった。
「やったか!?」
「違う! カイト、見ろ!!」
メタルマンが指差した先には、炎の四天王がいた場所。
──そこには、“巨大な“赤い宝石””があった。
見たことないくらいの大きさで……そして、禍々しい魔力を垂れ流している不気味な宝石。
「あれよ!! あれがイフリートの本体!! “赤いダイヤ”!! “宝石そのものが本体”よ!!」
あれが、本体……!?
今までの炎の体は、全て偽り!! 宝石に纏っていた炎なだけ!?
通りで、腕を切り落としても手応えが無かったわけだ!?
「あれがある限り、アイツは復活し続ける!! ユウカちゃん!!」
「はい!!」
ソラ様の声に従い、ボクは飛び出す!
この時こそ最善のタイミング!! みんなが作ってくれたチャンス!!
ボクは聖剣を構え、全力で走り出す!
「──き、きさ、きさま、らあァァ……!!」
すると、宝石からまた再度炎が少し湧き出てきて、また四天王の体に戻ろうとしていた!
もう復活しようとするのか……だけど!!
「そうは!」
「させるか!!」
「っ?! がああアアアアア?!!」
カイトの消化器と、メタルマンのアイスレーザーが再度放たれる!
彼らが、炎を消し続けてくれている!!
このチャンス、逃さない!!
「はああああああああァぁぁぁ────ッ!!!!」
「がああああ、や、止め────ッ?!!」
「やれええええ!! ユウカあぁあああ!!」
ボクは、聖剣を大きくふりかぶり。
──全力で、“赤い宝石”を叩き切った。
真っ二つに、綺麗に分けて。
「が、あ、ア────?」
そうして、割れた“赤い宝石”が地面に落ちて、カンッカンッ、コロン……と、転がって行った。
「………………やった、のか……?」
……実感が、沸かない。
あれほど、苦しめられた。何度も何度も、殺され続けたあの炎の四天王が。
カイト達の助けもあったとはいえ……この程度で、倒せた?
「…………ユウカ?」
「どうだ……?」
「……え? 終わったんですか?」
カイト達も、終わってみればあっさりとした決着に、違和感を感じていたらしい。
戸惑いの中、念のため警戒を解かずにいると……
「──?! やばい、まだよ!?」
背後で、ソラ様のその叫び声が聞こえてきた。
バッと、ボク達は割った宝石に視線を向き直す。
──その割れた宝石は、それぞれ禍々しい魔力を再度垂れ流し始めていた。