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第46話 女勇者、立ち上がる

 ──心が、暖かく感じる。


 彼の、その誓いの言葉を聞いてから。

 指先に、感覚がはっきり戻って来る。何かを握りしめる力が、戻って来る。


「────あー、すっきりした……」


 落ち着いたような表情になった彼が、私の顔から両手を離す。

 喉が痛い……とぼやきながら、赤い金属筒を持ち直そうとしている。


「それじゃあ、言いたいことはそれだけだ。じゃ、お前はもうしばらく休憩してろ。俺はこいつを持って向かうから……」

「──待って」


 そう言って、離れようとする彼の服の裾を掴む。

 振り返った彼は、疑問を浮かべたような表情を浮かべていて。


「“ワタシ”、も……」


 自分の息を、整えて。


「──ボクも、戦う」


 はっきりと。そう、口にした。

 その言葉に、カイトは目を見開いて……直ぐに真剣な表情になり。

 心配そうな声を、沢山掛けてくれた。


「……大丈夫なのか? お前何十回も殺されてるんだろ? トラウマになってないか? さっきはああ言ったが、もう少し休んでいてもいいんだぞ?」

「……ありがとう。大丈夫……もうこの手に、力は入る」


 そうして、グッとボクは立ち上がり。

 聖剣を握り直して、よく見えるように見せた。


「……そうかよ。だったらまあ、大いに頼りにさせて貰うぜ!! 俺も、出来る範囲で協力してやるからさ!」


 それを見たカイトは、ニカっとした笑顔になって、ボクに微笑みかけてくれた。


「……ところで。それをいうなら、カイトだって……君だって、戦いを知らない無辜の民だった筈だろう? 何故そんなに戦いに行けるんだい?」


 ふとそう問いかけると、カイトは……


「へ? ああ、いや……なんかもう、50回以上アイツに殺されたら、逆にアイツに対して普通に殺意が湧いてくるっていうか……倫理観が狂ってきちゃって、もうアイツぶっ殺したいかなーって……そう思うと、なんか普通に戦いに禁忌感が無くなった」

「可哀想……」


 その言葉を聞いて、普通に同情心が湧いて来てしまっていた。

 なんて事だ。普通だった彼が、“ワタシ”のせいでこんな考えになってしまうなんて……!!

 彼は優しさそのままに、敵に容赦無いバーサーカーの側面が生まれてしまった……!!

 その事に悲しみを感じながらも、今は置いておくとしか無い、か……

 ひとまず、気持ちを切り替えようとして……ボクは、ふと考える。


「……協力、か」

「……? ユウカ、どうかしたか?」

「……ねえ、カイト」


「──“勇者に協力って言ってくれた人”、今までどれだけいてくれたと思う?」


「……は?」


 ボクは思わず、カイトにそう問題を投げかけていた。

 ごめんね。でも、思わず聞いてしまったんだ。


「……勇者ってさ。基本的に、“一人”なんだ」

「…………」

「街や国が、支援する事はよくあるよ? ……けどね、こと戦いにおいて、“勇者と肩を並べて戦う”という事は、滅多にないんだ」


 ボクは思い返す。

 “ローダスト村”の依頼で、オークの討伐に行った時。

 実は村にも、警備兵といった存在は何人かいた。

 でも、彼らは置いていった。強さが、足りないから。


「……今回は、国を上げての戦争だから、ちょっと別かも知れないね。けれど、それは軍対軍の話であって、ボクに直接一緒に協力して戦う人は、殆どいない」


 例え軍対軍の戦争でも。ボクは総指揮官の指示により、単独行動が殆どだ。

 それだけ強さが信頼されている、と言い換えられるかも知れないけれど……

 ……人が沢山いる中でも、ボクはどこか、孤独を感じていた。


 勇者とは、強くあるべきだ。常に誰かに頼まれる側で、勇者から頼む事はほとんど無い。

 ……勇者が、誰かに頼る姿を見せたら、人類の象徴としてモロくなるからだ。


 そもそも、元々強い勇者を手助けしようと言い出す人なんて、ほとんどいなかった。


「──だから。君たちが……カイトが、初めてなんだ。勇者に対して、ここまで直接、一緒に戦おうとしてくれたのは」

「……お、おう?」


 そういうと、カイトはちょっと照れ臭そうに頭を掻いていた。

 それをボクは、クスリと笑ってしまい。


「──ありがとう。その気持ちが、とても嬉しくて。……嬉しくて、嬉しくて、堪らない……!!」


 “ワタシ”は、ギュッと聖剣を握る力が強まって……ボクとして、カイトに向き合う。


「……だから、ボクも戦う。頼れる仲間が、こんなに出来たんだ。一緒に戦う。いや、戦ってみたい……!!」


 信頼出来る仲間と、一緒に戦う。

 これは、ボクにとって初めての経験になる。

 こんな状況に何だけど、それがすごく、凄く楽しみで堪らない……!!


「……そっか。よし、ならいくぞ!!」

「うん!」


 そうして、カイトとボクはその場から飛び出した。

 向かうのは、盾の魔法を展開しているマホの後ろへ。


「悪い、待たせた!!」

「“クイック・ロード!!” もう、遅いわよカイト!? もうあと“クイック・ロード”1、2回使えるかどうかなんだけど!? ちゃんと対策札考えて来てくれた!?」

「さあな! でも、メタルマンと合わせて使う価値はある!!」


 そう言って、カイトは例の赤い金属製の筒をソラ様に見せていた。

 そういえば、結局聞けてなかったんだけど、それは一体何なんだろうか?

 っと、それはそれとして……


「ソラ様……」

「っ! ユウカちゃん……」


 驚いた表情で固まるソラ様に対して、ボクは一呼吸置いて……


「……ソラ様。ここまで来てくださって、ありがとうございます。……ボクも戦います。もう、大丈夫です。お待たせ致しました」

「──そう。そっか。うん! ごめんね、本体があんな態度で!!」

「いえ……ショックでしたが、ソラリス様のいう事も正論でした。けれど、カイトの……みんなのおかげで、戦えます」


「何何!? ユウカさん戦えるようになったの!? すっごく助かりますー!!」

「ふん。ようやくか。遅い重役出勤だったな」


 背中越しにマホが。空中から見下ろし気味にメタルマンが。そう言って来た。


「……ふふ。君たちも、ありがとう。おかげさまで、もう大丈夫さ」


 そう言って、ボクは聖剣を構え直す。

 今まで以上に、しっかりとした力で握り込んで。


「──我が名はユーカ・ラ・スティアーラ。これより、参る!! 行くよ!!」

「おう!! みんな、正念場だ!! 全力で頑張るぞ!!」

『おうッ!!/はいッ!!』


 そうして、ボクにとって初めての。信頼出来る仲間と一緒の戦いが、ようやく始まったのだ……


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