──クソぉ、クソぉ、クソォっ!!
なんだコイツらは!? ──本当に、一体何なんだこいつらは!?
俺様は、突如現れた侵入者達に対して、そんな思いをせざるを得なくなっていた。
初めは、ただ迷い込んできたかのような一人の鎧の女だけだった。
そいつは、俺様を見て今にも死にたそうな表情をしていて、絶望したかと俺様は良い気になっていた。
……今思えば、俺様を直接視界に入れる前から俯いていたような顔だったのが気になるが。
そんな事より。問題は、後から来た奴らだ。
鎧の女の次は、変わった服装をしていた男。
豪華というわけでは無いが、人の文化に疎い俺様でも分かる変わった材質の服を来ていた奴だ。
こいつが俺様の炎を防いだ時は、目を疑ったぞ。
俺様の炎が、よりにもよって、こんな冴えない男に防がれるなんて、とな!!
次に俺は、少しだけ本気を出した。
逃げ場の無い炎。“フレイム・ウォール”。
これならあの変なバリアを壊せるだろうと放ったそれは。
しかし、次にこれまた変な格好の女によって阻まれる事になる。
今度は派手派手でフリフリの、明らかに文化自体が違うだろと言いたくなるような格好の女が。
俺様のプライドは、この時点で粉々に砕かれたと言っても良いだろう。
そう思ってると、空中からまた変な奴が現れる!!
今度は、鎧の女以上の全身鎧の奴だ!! おそらく声からして男だろうが、空中を移動する鎧など聞いたことが無い!! 魔王軍のゴーストを利用すれば再現出来るかもしれないが、熱感知からして間違いなく人間が入っている!!
こうして、俺様はよく分からないまま、謎の侵入者達と戦うことになった。
そうなったとは言え、所詮は人間。俺様の敵では無い。
そう思っていた。そう、思っていた、が……ッ!!
『『『なんなんだ……っ、なんなんだ、貴様らはあああああ!!!』』』
俺様は、激怒した。
俺様の炎を一時的とはいえ、かき消せるような能力を男二人が持っていた事。
俺様の炎を一切通さないようなバリアを持っている女がいる事。
絶望していた筈の女が。あの片方の男に話しかけられて、立ち上がって来た事。
そして、あろう事か俺様のコアを、叩っ斬った事をッ!!
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなッ!!
何故寄りにもよって、人間なんかに俺様のコアが半分にされなくてはならない!?
こんな事、四天王の座争奪戦の時に、寿命が1000年から半分になった時依頼だ!!
俺様は、100数年ぶりに“本体の分裂”を行う事になった!!
これは文字通り、俺様そのものが増える行為だが、寿命が完全に分かれてしまう諸刃の能力!!
しかも俺様は、あまり自分が増える事は嫌いなんだがな!!
当然だ、全く同じ性格の自分が目の前に現れるなど、嫌悪感しかない!
しかし、それでも俺様は俺様。
だからこそ、俺様が二人になれば圧倒出来ると踏んでいた。いた、が……
……まさか、更に片方を半分に斬れられ、3人に分けられるとは!!
もうこの時点で、こいつらに対する怒りは頂天だ!!
俺様を増やしただけでなく、寿命を更に削る行為、許すまじ!!
だからこそ、鎧の女が何かしようとしている事を気づいた時、邪魔してやろうと思ったのだが──
「──そんなに人間に邪魔されるのが怖いんだ? たかが人間如きに足止め──いいえ、違うわね。“さらに寿命を削られるのが”。魔王四天王ともあろう立場の人が? ──ふふ。可愛らしくて、笑っちゃう」
「「「──────」」」
あの、小娘。
いつからいたか分からん5人目の、人間。
頂天だった筈の怒りの、その先がある事を知った。
──ふざ、けるな。フザ、ケルナ、ふざけ、ルナァァアアアッッッ!!!
その言葉は、俺様に対する否定だ。
その言葉は、魔王郡四天王である俺様の埃を傷つけた。
そして……その言葉に、ほんの少し、事実だと感じてしまった自分自身への怒りが!!
全て、全て、全て! 全て、燃やし尽くしてやるうううう!!!
だからこそ!!
変わった服装の男!!
浮かぶ全身鎧の男!!
ヒラヒラの女!!
こいつらをまず片付け!!
次に、鎧の女を止め!!
そして最後には!! あの幼女を!! 俺様の存在そのものを馬鹿にしたあの幼女を!!
あっさりとは終わらせん!! 苦しんで、苦しんで、苦しんで!! 苦しみの中で、後悔の念を抱かせたまま!! 細胞一つ残らず燃やし尽くしてやるうううう!!!!
──ああ、そうだ。そう意気込んでいた!
なのに。なのに……っ!!
──変わった服装の男に、コアを粉々に砕かれた。
──浮かぶ全身鎧の男に、あろう事か俺様以上の炎でコアを燃やし尽くされた。
──ヒラヒラの女に、閉じ込められて自身の炎そのもので逆にコアを燃やされた。
何故だ。何故だ何故だ何故だッ!? 何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だッッッ!!???
何故こうも上手くいかぬ!?
何故ここまで俺様の寿命が削られる!?
何故俺様を、“勇者でも無いのに”消滅させられる!?
消滅されたのは、まだたった一体だが、俺様の警戒度を引き上げるには十分だった。
もはや既に、こいつらをただの人間と侮ってはならぬ状況となってしまっていた。
俺様のプライドが、それを許す事は四天王としてあり得ぬ事だと自覚しながらも。
こいつら全員が、勇者だと言われてもおかしく無い──
……ゴウッ!
──直後、感じる悪寒。炎のこの身に、感じるはずの無い感覚。
気がつくと、鎧の女から発生した魔力の本流が原因だった。
魔王軍でも、滅多に見たことが無い程の魔力の束の迸り……
──ようやく気づいた。こいつらとは比べ物にならない。アイツこそが、本当の勇者だと。
魔王軍で口酸っぱく言われ続けた、警戒すべき“敵”だと。
今だけ俺様は、プライドを捨てた。
あれは、ヤバイ。
全身全霊で、アレの発動だけは止めなくてはならない。
──それこそ、俺様の“死”が直接形となって襲いかかって来ようとしているのだから。