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第28話 ユーリヤ=スヴォーロフという少女

 すざくは目を覚ます。いつの間にか寝てしまっていたらしい。自分のベッドの横によりかかり、制服のまま寝てしまったらしい。

 最初に目に入るのは、直立する唯依ゆよりの姿。そしてその先には――白い寝間着を着た背の高い女性――小銃を構え、唯依ゆよりに銃口を向けている。肩は震え、息も絶え絶えな状態ではあったが。

「ユーリ」

 唯依ゆよりがそう呼ぶ。眼の前の女性の名前だろうか。

「落ち着いて、大丈夫。安心して」

 まるで動物でもたしなめるような、唯依ゆよりの呼びかけ。

 何度も何度もそれを繰り返す。

 すざくはなんとかしようと思うものの、手が出せない。

 どのくらいそんな時間が過ぎただろうか。

 大きな衝撃音。床にはそれまでユーリが握っていた小銃が転がっていた。

 そしてユーリは倒れ込むように、唯依ゆよりに身を預ける。

 それを受け止める唯依ゆより

 すざくは目の前の出来事にただ驚くばかりであった――


「ユーリ、この子は」

 再び寝てしまったユーリを両手で、抱きながら唯依ゆよりはそうつぶやく。

「ロシアで出会った子さ」

 すざくは思い出す。唯依ゆよりは革命ロシアにお父さんといたという話を。

「白軍側――つまり反革命側に属していた魔法少女のユーリは、革命側の赤軍と懸命に戦っていた。しかし、白軍が不利なのは明らか。力尽きて倒れていた彼女を匿ったのが僕さ」

「じゃあ......なんで......」

 銀色の髪をなでながら、唯依ゆよりは答える。

「この子は感情がうまく表せなくてね。気づいてほしかったんだろうよ。『私はここにいる』って」

 なんとも面倒なことだな、とすざくは心で思いつつも安心しきったユーリの寝顔を見るとなんとなく合点がいく気もした。

「ウラジオストックに居たはずなんだけどなぁ、どうやってここまで来たのか。十歳の子供が」

 不思議そうに唯依ゆよりがユーリの顔を見ながら、そうつぶやく。

 十歳......?すざくの頭の中に、その数字が回転する。

「今何歳って?」

「十歳だよ。ユーリは。魔法少女はある年齢で成長が固定される。何年前に魔法少女になったかは分からないが、永遠に十二歳さ」

 体つきから見ても、どう見ても大人の女性であるユーリ。

 自分の体を見比べるすざく。今年十五歳になった自分と比べても――

 首を横に振るすざく。

「でも、見た目は――」

「これは魔法少女云々とは関係なく成長が早いいんだろうね。外国人はみんなそうだからね」

 ひとまわり大きなユーリを抱きかかえる唯依ゆより

 すざくは腑に落ちないものを感じつつも、ユーリの無邪気そうな寝顔になにか安心するものを感じていた――

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