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第14話 DAY10

 大会後、俺はピー也と京橋にあるカラオケに来ている。今日はレースがなかったので体がだいぶ楽だからだ。中央大会の時もこんな感じで歌っていたし、地区大会のあとは1500mを泳いだあと15分後には歌っていた。


 ピー也と読んでいる先輩は、音楽一家の家系に生まれ、中学時代にピアノで全国4位を取っている。しかも独学で。また、めちゃくちゃ音楽好きなので、話が合う。先輩というより、親友とか相棒とかそんな感じの存在だ。


「何から歌う?」

「叫ぶわ。」

「耳塞いどくな。」


まずはピー也の1曲目。最近流行っているラッパーと俳優のコラボ曲だ。俺だったら絶対に息が持たない自信がある。それはピー也も同じらしく、息苦しそうに歌っていた。


 俺たちは基本的に点数は気にしないスタイル。点数が低けれど楽しんで歌う。もちろん出にくい声も出すし、終わったら喉は確実に潰れている。


 曲が終わって次は俺のターン。スロースターターの俺は、まずは声出し代わりにアニメの高校生バンドの通称イノハリの曲を歌う。声が少し高めの俺はこれくらいのキーが丁度いい。気持ちよく歌って、ピー也にバトンタッチ。ピー也は東京〇種の1期のOP曲を歌う。もちろんシャウトして。


 元々歌う予定だった曲を歌いきってあと1時間くらいになった。俺は、夏にピッタリなサウンドを選択。イントロが始まって曲が分かったピー也は「ナーナーナーナナナーナナー!」と叫ぶ。ラップ調の曲は非常に歌いやすかった。


 次のピー也は休憩として、髭男のアポトーシスを歌う。さっきとは別人に間違えるほどのしっとりとした歌声で歌い上げた。


 喉を癒した俺たちは再びシャウト曲。俺は1つ前のワンピの映画の主題歌エンディングテーマを歌う。軽く喉を潰して、ピー也にパス。ピー也は男女2人で歌うはずの曲を1人で歌い上げ、俺に戻す。俺は東京〇種の3期のOP曲を歌う。ガラガラの声で出す裏声は、不協和音と錯覚させるほど汚い。でも気にしない。ピー也はそのあとKEYTALKの曲を1曲歌う。1番で何となく合いの手が分かったので、俺が合いの手。初めて聴いたがノリやすい曲だった。


 そのあとも俺たちは歌い続け、最後に俺が


「It’s Flash!」


と叫んでお開きになった。


 会計をしていると後ろから聞き馴染みのある声が聞こえてきた。


「あれ?奏、何してるん?」

「何とは?同じだろ。」


やはり楓だった。帰るルートは同じだから、今日の帰りはこいつと一緒ということになる。なんだろう、自然と涙が。


「頑張れよ。」


そう俺を慰めるピー也の目にも、また違った涙が浮かんでいた。

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