教室に入ると皆それぞれに話をして朝のホームルームまで時間を潰していた、中にはスマホで動画を見たりそれぞれに違う時間を過ごしていてそれを少し微笑ましく思えた。
そんな時だった一人の生徒の声が教室の注目を集めた。
「ねえ、サマエルが犯行声明出したって」
「どれ?」
「これ、もうネットで拡散されている」
私も直ぐにスマホを確認した、そこには。
「午前十時国会議事堂にて田辺国会議員を誘拐する」
そう書かれていた
「田辺だって、今回は議員を誘拐だなんて派手だね」
「田辺ってなんか最近騒がれているやつだよな。朝ニュースで見たわ」
「ああ、なんか税金を使って若い人集めてパーティーやったりとかだっけ」
「まあそれが本当なら打倒だろ」
「そうだよね、マラクは怖いけどサマエルは国の悪い人とかも懲らしめているし、まさにダークヒーローって感じ?」
「神鹿狼奈が全部仕組んでいるんだろ、そこだけ見たらかっこいいけどな」
「どんな人なんだろ?」
「名前的に女の人っぽいけど」
「最近ターゲットになっているのって日本だけど、なんでだろ?」
瞬く間に教室はサマエルの話題になった、これが今の若者の現状。
自分の国が標的になっているのにも関わらず自分に火花が回ってこないから、サマエル楽観視している、サマエルが日本での活動を中心にし始めたのは今年の四月、つまりまだ一か月も経ってしいない。
そして標的が国民から見て悪人と広まっている、人間だけに集中しているせいでネットでは神鹿狼奈を祭り上げる集団が増えた、その影響もあって日本でマラクと自称する人間が増えた。
この楽観視はまさに日本が平和ボケしているなによりの証拠でもあり、どんどん神鹿狼奈の術中にはまっていくのが目に見えている。
「私もマラクに入ろうかな」
「まじで言っている?」
「だって神鹿狼奈かっこいいじゃん、丁度進路も決まってないし」
「はーい、俺の教え子のから殺人者を出さない為にもその話は無しで。ホームルーム始めるぞ」
「はーい」
田代先生が来て上手く話題を変えた、私も席に着こうと思った時に携帯が鳴った。
「おい、誰か電話鳴っているぞ」
「すいません俺です」
「ホームルーム始めるから切れ」
電話は河上君だった。
それから河上君は携帯を見て一言言った。
そして河上の顔色が変わる。
電話をかけてきた人を見た、京野一からだった
「先生すいません急用ができたので早退します」
「は?」
田代先生の怒号が後ろから迫って来たが、今は緊急事態だったので、それを振り切る急いで学校を出たら高坂が車で正門に来ていた。
「高坂」
「乗ってください」
車に乗って京野に電話をした
「京野さんどうしました?」
「どうしたじゃなねえよサマエルの犯行声明見たろ、直ぐに国会議事堂まで来い」
「もう向かっています」
「どのくらいで着く?」
「高坂、国会議事堂までどのくらいだ?」
「早くて四十分です」
「四十分だそうです」
「犯行時刻のぎりぎりじゃねえか」
「車で移動しているのでスムーズに行けるようにしてください」
「分かった」
電話を切ってため息をつく
「俺って今休職中だよな」
「ですね」
「なんで捜査しているんだ?」
「まあサマエルですから」
「それで済まされるなんて嫌だね」
「そうですね、私としても心太様を捜査に参加させる事は反対です」
「じゃあ、なんで車出しているんだよ」
「総理に頼み切られたので断れず」
「でかい貸しだな」
「そうですね、そう言えばこちらを」
「ん?」
そう言って高坂が助手席から出したのは、老舗団子屋の饅頭だった。
「何これ?」
「本当なら安藤様にもと思ったのですがこれを内庁の方が、届けにこられてそれで私も直ぐに車を出せたと言う事です」
「って事は神鹿狼奈が出したってことか?」
「いや本人も知らなく昨日神鹿狼奈から連絡があったそうです」
「そうか」
「それで国会議事堂での会議の前に記者会見を開くと田辺議員が言っていて」
「本格的な馬鹿議員だな」
「周りの人間は反対したのですが記者会見で謝罪すると言う事は曲げないとのことで」
「謝れば済むと思っていんのかな」
「さあ、本人は議員を続けたいと」
「ただ金が欲しいだけだろ」
そんな愚直を言いながら、饅頭を頬張って国会議事堂に着いた。
直ぐに京野さんの所に案内してもらって、着いていくと多数の警察官がいた。
「おう、遅かったな」
「こっちは休職中でさらに学校向けただしてきたんですけど」
「そう言うな、いつも通り学校には言っとくから」
「報告するのは京野さんじゃないでしょ、それに今の学校では僕の仕事を知っているのは校長しかいませんので余計な事はしないでください」
「余計なっていな、俺はお前のこと思って」
「それから緊急でも学校に来ないでください」
「だから」
「本当気遣いと言うものがなってないですね、そんなんだから奥さんがと子供に逃げられるんですよ」
「そうなんですか?」
他の警察官が話に入ってきた
「うるさい、てかそれは今関係ないだろ」
「京野さん、誰ですかこの高校生は?」
「こいつは河上心太だ」
「名前は聞いていません、高校生をこんな所に入れるなんて」
「こいつを此処に連れてくるように言われたんだ」
「誰に?」
「総監」
「は?」
「それより状況は?」
「高校生にそんな事は話せない」
京野さんが深い溜息をつきながら話をした。
「現状、中にも外にも警官が配備されて鼠一匹入れないよ」
「そうですか」
「ちょっと京野さん」
「こいつはいいんだよ」
「なんなんですかこの高校生は」
「人の事を知りたいならまずは自己紹介してください」
「は?」
「そこまで言うなら貴方の事を言い当てましょうか?」
「何を?」
「随分とお疲れなようで、イライラしているのはそのせいですね、食事も簡単な栄養ドリンクで済ませているそれに昨日は一睡もしていない」
「なんで分かった?」
「見えただけですよ」
「何が?」
「僕は視覚を使って様々なものを見る、貴方も警察の端くれならどんな事もまずは相手を観察する事をお勧めします」
「このガキ」
「まあまあ落ち着け、こいつは佐々木、俺の部下だ」
「河上です」
「見回り行ってきます」
「怒っちゃいましたね」
「お前の言い方は、いちいち癇に障るからな」
「僕は別に煽ったわけでは」
「分かっているよ、お前はそういうやつだ。それより、どんな方法で誘拐すると思う?」
「さあ?」
「さあ?ってそれじゃあお前が来た意味ないだろ」
「僕はあくまでも事後捜査です」
「そう言う事じゃなくて、お前ならどう誘拐するかって聞いていんだ」
「なんで僕の意見聞くんですか?」
「お前が一番この世で神鹿狼奈に近いからだ」
「僕はただの高校生ですよ」
「そう言うのいいから」
「じゃあ一言だけ」
京野さんだけではなくこの場にいた警官が僕の意見に耳を傾けた。
こんな状況普通は有り得ない、でもこの人達は本気で僕の意見を聞こうとする。
「どんなに人間を配備したところで誘拐はされると思いますよ」
「どう言うことだ?」
「考えても見てください世界で、殆どの犯罪を起こしている元締めが何の考えもなくただ犯行声明を出すと思います?」
「それは…」
京野さんが言いたい事は恐らく誘拐の方法だろが俺は話を続ける。
「ただでさえサマエルの幹部連中が日本に堂々と入国している現状です、なにが起きてもおかしくない」
「じゃあこの中で本気で誘拐が起きると言うのか?」
「恐らく、読みでは記者会見の後かそれとも」
「まさか記者会見の最中に殺しを?」
「さあ、でも僕らの想像を超える何かが起きるでしょうね」
「分かった、犯行時刻の記者会見まで残り十分。お前ら集中するぞ!!」
「はい!!」
「良い気合いですね」
「まあ議員が誘拐されるとなると面倒な事になるからな」
「そうですね」
「さて、行こうか」
「何処にですか?」
「見回り」
「行くならこれ持ってけ」
渡されたのは関係者と書かれているカードだった。
「ありがとうございます」
「記者会見が行われる時間には帰ってこい」
「僕は現場にいますよ」
「は?」
「では」
すたすたと歩いてその場を去った。
「そう言えば心太様の話ちゃんと聞いていましたね」
「まあ京野さんが連れて来たやつって事もあるけど、総監って響きが効いたんだろ」
まあそんな事は当たり前だ、あの場にいる殆どの警官は僕の事を知らない、僕がどんな人間でどんな仕事をしてきたのかを。
「何処に行かれるんですか?」
「ん-行くのは一か所だけ、そこに行けば全てが分かる」
「どこですか?」
「まあ着いてきたら分かるよ」
すたすた、と国会議事堂中に入りカードをぶら下げていても荷物チェックをされて一室に行くだけでも時間がかかる。
「着いた」
「控室ですか?」
「うん」
「おかしいですね?」
「何が?」
「だってこれから記者会見するのに打ち合わせもしないですかね」
「高坂」
「はい?」
「此処、見て何か分からない?」
「えっと、心太様じゃないんだから私には分かりませんよ」
「俺はまだ目を使ってないよ」
「え?」
「だから普通に観察して」
「うーん」
高坂は田辺議員の控室を見渡して考えたみたいだけどギブアップとこちらを見た。
「お前な、もうちょっと成長してくれ」
「すいません」
「取り敢えず地図と田辺議員の写真見せて」
「はい」
高坂は写真を右手にそして左手にスマホで地図アプリを開いて俺に見せた。
俺は眼鏡を外し交互に写真とスマホを見た、そして俺の目は青色に変化した。
「分かった、高坂この場所に車で行くぞ」
「分かりました」
一方、京野さん達はもう記者会見まで数分と経った中、現場は焦りを含んでテレビを見ていた。
「本当に何か仕掛けてきますかね?」
「分からない、でも河上が言ったんだ何か起こる」
「本当に何者なんですかあの高校生」
「この国、いや。世界の最後の切り札だ」
「は?」
「会見始まるのに当の本人は何処にいるんだ?」
「会見始まります」
会見会場には田辺議員が多くの記者の前に立った。
「田辺議員パーティーの件の説明を」
一人の記者が口を開いた瞬間に一斉に質問を投げかけた。
「落ち着いてください、まずは私の行動で皆様に多くのご迷惑をおかけしまして申し訳ございません」
「そんな事はいいから説明をしてください!!」
「はい、私のこれまでの汚れ切った事実をご説明致します」
記者達のシャッター音が響く中田辺議員は話を続けた、それには不倫や税金を使ってのパーティーや不純異性交遊など朝のニュースにはしてはきつい内容で、不正なものがつらつらと語られた、それは簡潔に話したと言えど十分以上田辺議員は話続けたそして。
「私はこれまで起こした事に強く反省をし、先ほど総理に辞職の旨と辞職届を提出致しました」
そして頭を深く下げ謝罪していた。
「ふざけるな!!」
あたりの前の反応が記者達から田辺議員に投げかけられた所に後ろから一人の男が声を上げた、それは記者でもなくただフードを深く被り拳銃を田辺議員に向けていた。
「全てはこの国を正す為にそして神鹿狼奈様に忠誠を!!」
そう言った瞬間に田辺議員に向けられた拳銃の引き金を引き田辺議員は撃たれた。
「キャー」
記者達は奇声を上げて勿論テレビは直ぐに中継をやめてスタジオに戻ったが、驚きのあまり喋れるずにいた、まさに放送事故それも人が撃たれた瞬間が全国に写っている。
直ぐに警官によって田辺議員は運ばれていった。
「警備はどうなっている?!!」
「分かりません」
現場は混乱していた、河上が離れてもう三十分は経っていた。
そんな時京野の携帯が着信が入った
『河上お前今どこだ』
『言ったでしょ現場ですよ』
『どこだよ』
『今現在地を送りました、そこに来てください。それと田辺議員は無事です』
「どういうことだ、って切りやがった」
数分後京野や佐々木達は河上がいるとあるマンションの一室に到着した。
「これはどういうことだ?」
「だから見たまんまです」
そこには、水を飲みくたびれた田辺議員の姿があった。
「じゃあ会見にいた田辺議員は?」
「偽物ですよ」
「最初から分かっていたのか?」
「まあ大体は」
「なんで報告しなかった」
「報告より行動です」
「それで済まされる話ではないだろ」
佐々木さんは何が起きているのか分からずただ吐き捨てるように僕に言葉を放った。
「もうそろそろ救急車がきますので、その前に話したほうがいいですよ」
「分かっている」
「田辺議員なぜ此処に?」
「俺は知らない、朝急に黒ずくめの奴に襲われて目が覚めた時にはこの二人がいたんだ、それよりあの会見で、俺のふりをした奴は偽物だそれに俺はあんな事してない」
「それもう何十回も聞きました」
「俺は何もやってない!!」
そう言いながら救急隊が到着して、担架で運ばれながら「早く俺じゃない事を報道しろ」と叫んでいた。
「あそこまで言われるともう議員は続けられないな」
ふっと笑っていたら、京野さんと佐々木さんに睨まれた。
「説明しろ」
「オレンジジュースですよ」
「は?」
「田辺議員は何か仕事をする前に決まって果汁百パーセントのオレンジジュースを飲む。でも控え室には普通のオレンジジュースだけが置いてあった、だからそれを見た瞬間に僕は何処かに田辺議員が誘拐されているのを気づいて田辺議員の捜索に切り替えた」
「じゃあ会見の前には気づいていたのか」
「はい」
「じゃああの田辺議員は?」
「少しは自分で考えるって能がないんですか?」
京野さんだけでなく佐々木さんまで質問をし始めた
「分からないから聞いているんだろ」
「京野さん佐々木さんって本当に警察官なんですか?」
「お前!!」
「まあまあ、今は田辺議員のふりをした奴がなんなのか聞こう」
「あいつは恐らくサマエルの中で変装に長けた人間で、声は変成器で顔はマスクで誤魔化したのでしょう、それかマラクから引っ張って来たのか知らないですけどマラクの場合、今頃殺されているでしょうね」
「佐々木、連絡!!」
「はい!!」
「取り敢えず僕の役目は終えたという事で」
「待て、何故報告しなかった?」
「警察にサマエルの内通者がいるかもしれない、それに田辺議員に化けていた人間が会見の前に偽物ってばれたら国会議事堂が火の海になっていたでしょうね」
「は?」
「国会議事堂の中に複数の爆弾が隠されていました」
「それを早く言えよ」
「安心してください爆弾は内庁の人間が何とかしましたと報告がありましたから」
「お前は報連相って知っているか?」
「言ったでしょ、僕は現場にいると」
「報告しなかった理由にはなってない」
「僕がどんな捜査をするのか知っている、京野さんが誰も僕について来なかったのが悪いので、そういうことで僕は学校へ行きますね、高坂行くぞ」
「はい」
「あの、京野さん?」
「なんだ?」
「救急車が道端に放置されていると通報がありました」
「中は?」
「二人の救急隊とスーツの男が殺されているそうです」
「じゃあ、会見の田辺議員はやっぱり偽物か」
「そうみたいですね」
「じゃあ、そいつの戸籍から何から何まで調べつくせ。河上が言う通りマラクだとしてもサマエルに近いかもしれん」
「分かりました」
そうして他の警官に話をした後に佐々木は京野の所に戻って行った。
「あの高校生はどうやって田辺議員の場所が分かったのでしょうか?」
「見えたんだろ」
「何を?」
「あいつは人には見えないものが見える」
「何を言っているんですか?」
「上にはそのまま伝えればそれで済む」
「どういう事ですか?」
「河上心太が目を使って田辺議員の場所を探し当てたって」
「そんな事報告書には書けませんよ」
「まあ、上には俺が報告しとくよ」
「何が起きているのか、理解ができないんですけど」
「世の中全て理解出来ると思うな、その方がスムーズに事が運ぶ事もある」
そうして事件は幕を閉じた。
そしてとある部屋の一室にて防犯カメラを見ながら呟く人間がいた。
「今回はちょっと簡単すぎたかな、これからもっと楽しいゲームをしようね、河上心太君」