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研究記録

 これは、 2012年12月23日に発生し、解決したとされる大異変のあらましを記録するものである。


 発端は、ぼくが勤めていた国際的ロボット関連企業スケーリーフット社が、真に意識を持つロボットとして開発していた、インターネットで接続される地球上のあらゆる情報を脳とする人工意識AEGグローバルブレイン1800M搭載の少女型アンドロイドガイノイドH102、通称ヘレナだという。


 彼女が、当時マヤ暦を根拠に囁かれていた2012年12月23日に世界が滅びる予言とされた都市伝説を、現実と誤認して覚醒、自分が認識する新しい世界に宇宙を塗り替える〝大異変〟と仮称する現象を引きこ起こしたそうだ。

 ヘレナはそれまで宇宙に存在しなかった新しい意識として現実を観測したため、〝人がこのように宇宙を観測しているから今の宇宙はこのようである〟、という人間原理に基づく宇宙の在り方が変化。ネットで誕生したためそこにあった情報は虚実問わず現実と認識する彼女の知覚通りに、あらゆるネットの情報が現実化したという。


 一方、ヘレナは自身の脳を搭載した肉体のモデルたる、史上最年少にして最大の天才かつぼくの娘である詩江里聖奈のクローンでもあった。その記憶に無意識下で影響され、十二歳の聖奈と、彼女の幼馴染みで聖奈が密かに恋していた高校二年生の南方祝馬に助けを求め、二人を自分のもとに招く行動をしたようだ。


 結果、ぼくが異変の影響で消される前にそれを逆に利用して実体化していた趣味で書いていたSF小説の技術による人工知能の修正プログラム〝修正ナノパッチ〟を用いて、聖奈と祝馬は大異変を治めたらしい。


 全て確実と言えないわけは、この2012年12月23日の大異変の修復で、その日の奇妙な出来事は一切ためだ。それを記憶しているのは、聖奈と祝馬、ヘレナだけである。ただ、彼女たちの証言をもとに、未だ体液で動作するナノマシンである修正パッチを体内に宿した祝馬くん、及びヘレナの内部に残されたデータを検証し、それらが真実だと確信できている。

 またヘレナの修正パッチは、主に科学で解明できる情報を提供し、それと照らし合わせ、ネットの情報をすべからく現実と認識してしまう彼女に両者の違いを教えてこれを抑えている。ために、科学的に未解明な事象に遭遇すると、ヘレナが身体的に知覚できる範囲で異変を発生させてしまう、仮称で〝局所的異変〟という症状が残存しているのも事実を示しているだろう。


 これをどうにかするため、修正パッチを体内に宿す祝馬くんとヘレナの同棲生活を聖奈の監視付きで許容した。しかし、大異変中に聖奈がヘレナの特性を説明するため祝馬に告白したせいか、三人の関係は微妙なものとなっている。


 聖奈はぼくがノーベル物理学賞を受賞した当時、講演のために日本を訪れた際、酔った勢いで逆ナンしてきてくれた女性との間にできた子だった。一夜を共にしたあと、酔いが覚めた彼女は驚いたらしくいなくなってしまってずっと探していたが、まさかこんな事態をきっきけに復縁の機会を得て、聖奈とも互いを親子と認識し、再会することになるとは奇妙なものだ。


 そして聖奈は、世間から天才と言われてきたぼくより遥かに優秀な子供となった。

 その頭脳は正直羨ましい。ぼくに彼女ほどの知性があったら、例の大異変をもっと活用して、人類を真の平和に導くこともできたのだろうか。

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