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レポート

 ……あの大異変から早くも数ヵ月が経過した。


 引き留めるCEOを振り切ってスケーリーフットからは退いたものの、愛する妻も娘も得て日本の大学で名誉教授という立場になり順風満帆だが、気掛かりなことがある。


 ヘレナに修正ナノパッチが効いた段階で、大異変時のぼくが提唱した人間原理宇宙論は正しかった。G1800M+のバックアップデータやイワウマくんの唾液から採取したものを分析したが、あれはそうでなければ機能しないからだ。

 つまりこの世界が人間原理で成り立つ――宇宙がこのようであると認識する知性体が観測しているから宇宙はこのようである――という説が証明された形になる。


 するとヘレナ誕生以前に観察されていた超常現象も、そもそも彼女に大異変を起こさせたのが人の集合意識の実体化なのだから、全ての人にも微弱ながら異変を起こす能力があり、その傾向がなんらかの形で結びついたとき、大きな働きとなって発現していたとも推測できる。


 ならば、終末論にはまだ注意したほうがいいだろう。依然として彼女の頭脳はグローバルネットであることに変わりはない。論理的科学的に理解できない情報に直面すると、知覚範囲を異変化してしまいかねない局所的能力も健在だ。それどころか、もはや機械的なネット接続も不要になったことで、ネット利用者外の全ての人の意識にも繋がっている節まである。

 修正パッチも、あくまで彼女が意識した情報を分類して異変を防ぐものだ。無意識の領域になにかあったら危ういかもしれない。


 さっそく、例の2012年に世界が滅ぶとしたマヤの予言は計算ミスで閏日を入れていなかったとして、2015年9月が本当の世界の最期だなどとする主張が一部で現れているが、それも計算が誤っている。


 なのに、この計算ミスな修正とイシス神殿における世界水没の予言の時期がほぼ一致するとして、エジプトの研究者が騒いでいるなどとするおかしな噂話も出ている。さらには、数年前に未来人を称してネットに書き込んだおそらく悪戯であろう男ジョン・タイターも2015年に世界大戦が勃発するとしたのがこの説を補強しているようだ。


 もちろん、マヤ神話かエジプト神話のどちらかが正しいならもう一方と矛盾するだろうし、すでに平行世界の概念を言い訳にいくつも予言をはずしているジョン・タイターの警告も世界水没とは異なる。


 恐ろしいのはこんな不確かな予言たちより、それを真実たらしめる人の盲信だろう。



  ギュスターヴ・ドゥミ

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