「土日の昼飯って何食べることが多い?」
「家で、ですか? んー、パスタとか焼きそばとか、チャーハンかな?」
「うちと同じ感じだな」
「母さんがいない時はラーメンとか、冷凍食品とか」
「そうか。瑠星は料理しないんだ?」
「お湯を注ぐだけなら出来ます」
「じゃあ、パスタもいけるんじゃない?」
そういった先生の手が、棚に並んだパスタソースに伸びる。確かに、麺を茹でてからめるだけなら出来そうだ。けど、それも面倒そうだよな。洗い物も増えるし。
パスタソースがカゴに入れられたのを見て、すでに入れられている食品へと思わず視線を送る。キノコのパックに、サラダの袋、トマト──もしかして、お昼を作るつもりなのかな。お弁当とか冷凍食品を買っていくんだと思っていたんだけど。淳之輔先生って、マメなのだろうか。
「家にある飲み物、コーヒーくらいなんだけど、何か買っていこうか?」
「何でも平気です」
「そう? じゃあ……夏らしく麦茶とか買っていこうか」
買い物カゴへと、さらにベーコン、麦茶のボトルが入れられる。
そうして、会計を終えると、買い物袋はそこそこの大きさになった。それを持って、スーパーから五分くらい離れたところまで歩くと、アパートやマンションが目立つ住宅街に入った。
淳之輔先生の住んでるマンションはすぐだった。ごく普通の様相にほっとする。さすがに、大学生で高層マンションとかデザイナーズマンションに住んでるってことはないか。
蒸し暑い部屋に入り、先生はすぐエアコンを入れると「適当に座ってて」といってキッチンに立った。
ワンルームの部屋には、ベッドとテーブル、テレビにパソコンが整然と配置されている。テーブルの上には、教科書が積まれていた。いつも、ここで勉強しているのかな。
物珍しくきょろきょろしていると、テレビの横にゲーム機があるのに気付いた。
「先生、ゲームするの?」
「最近やってないけどな」
「そうなんだ。……あ、三國戦舞の新作」
「お、知ってる?」
「俺の親父が三国志好きで。このシリーズ、物心ついた頃から家でやってたんですよ」
「マジで? それじゃ、社会は世界史?」
「日本史です。世界史、範囲広すぎてえげつないって聞いたから」
「ははっ、間違いないな。あー、さっきの泉原は頭おかしくってさ。理系なのに世界史だったんだよ」
「えっ、マジですか?」
「結局、受験は地理だったみたいだけどな」
「……変な人ですね」
「そう、変な奴なんだよ」
キッチンで忙しなく動きながら笑う淳之輔先生をながめつはつ、テーブルに向かって座りなおした。だけど、ただ待つのも居心地が悪い。ちょっとは手伝った方が良いかな。
邪魔にならないよう近づいて、先生の手元を覗く。
いつの間にか、キノコやトマトが切られていた。秀才っていうのは、料理まで出来るのか。それとも、一人暮らしをしているから慣れているのかな。
「あの、なんか手伝えることありませんか?」
「ん? そうだな……じゃ、これお願い」
先生が指し示したのは、サラダの袋とシーチキン缶、それと塩昆布の袋。
「そこのボウルに入れて、混ぜといて。塩昆布は一つまみくらいな」
「シーチキンって、油切らないんですか?」
「旨味がもったいないから、そのままで良いよ」
いわれた通り、硝子のボウルに材料を入れて渡された箸で混ぜていると、横からさっと切られたミニトマトが入れられた。そうして、次は、すりこ木と袋に入ったナッツを渡される。
「何ですか?」
「袋の上から叩いて砕いといて」
そういいながら淳之輔先生は、フライパンでベーコンとキノコを炒め始めた。
ジュウジュウと焼ける音を響かせながら、空腹を刺激する美味しい匂いが充満していく。その中で、ナッツを砕いていると、フライパンに水と折られたパスタが入れられた。さらに、パスタソースまで入れている。
「えっ、鍋で茹でないんですか?」
「めんどいじゃん。二人分なら、これでちょうどいいから」
フライパンを放置した淳之輔先生は皿を用意し、グラスに氷を入れると麦茶を注いだ。そうして「運んだら待ってて」といいながら、まな板や包丁を手際よく洗い始めた。やっぱり手慣れてるな。一人暮らししたら、俺も出来るようになるのかな。
テーブルに戻って待っていると、しばらくして、先生がトマトソースのパスタが盛られた白い皿を両手に持ってきた。
目の前に置かれたパスタを見て「あ、ナッツ」と呟きをこぼしてしまった。まさか、あの砕いたナッツが、パスタのてっぺんに振りかけられるなんて思ってもいなかったから。
「意外と合うんだよ」
「うちでは、こんなお洒落なことしません」
「そう? 気に入ったら、お母さんに教えてやれば良いよ」
「そもそも、ナッツをわざわざ買うとかしないし」
「そうなのか。俺は好きだから、よく買うんだ」
フォークを差し出した淳之輔先生は、さて食べようというと手を合わせた。こうして、いただきますをするあたり、先生の育ちの良さが見える。そんなことを考えながら、俺も手を合わせた。