新学期が始まる前、出来上がった衣装チェックをするために、女装アイドルグループとオタ芸グループ、衣装班が学校に集まった。
さっそく着替えると、教室に集まったクラスメイト達がどよめいた。
「いける。これはいけるぞ!」
「大沢さん、凄い!! この夏だけで、ここまでクオリティ上げられるもんなの!?」
「班の皆が手伝ってくれたからだよ」
谷川と東がテンション高めに褒め称えると、美羽は顔を引きつらせた。あいつ、自分だけが目立つの嫌がるからな。実際、衣装は美羽がほとんど手直したんだろうけど。
「滝が女に見える日が来るとは……筋肉ヤバいけど」
「若槻くん、ヤバくない? 一人になったら、襲われるレベルじゃない?」
「スカート丈が絶妙だな。踊ったら、見えるんじゃないか? トランクスとかやめろよ」
「そこは、あれだ。見せパンってやつを履けばいい」
「さすがに、ものが見えたらアウトだからな」
「若槻のが見えたりしたら、俺、泣くぞ……こんなに美少女なのに」
「誰が美少女だ。誰が!!」
咄嗟に言い返すと、谷川はあからさまに落胆し、その肩を東が頷きながら叩いた。なんなんだこいつらは。
「顔は大沢さんなのに……」
涙を流しかねない谷川に、ああそういうことかと納得する。美羽に恋人ができて、こいつらは失恋真っただ中だったな。
「お前らなぁ、俺を代替品にするな!」
呆れて言い放つと、クラスメイトがげらげら笑った。
「なあ、若槻」
「なんだよ。真面目な顔して」
「やっぱり、ついてんだよな?」
「は?」
「いやぁ、実は女ですってラブコメ展開は──」
「あるわけないだろう!!」
食い下がる谷川に、再びクラスメイトは大笑いだ。それで気をよくしたのか、調子に乗った谷川は、俺の胸を突いた。当然だが、そこに入ってるのは詰め物だ。
「こんなに、大沢そっくりなのに……おっぱいは偽物」
「当たり前だ。そんなもん、あってたまるか!」
「いい尻してるのに……」
「触るな、変態!!」
一発、殴ってやろうか。
顔を引きつらせていると、滝がぬっと顔を出して「おっぱいならあるぞ」と、自分の胸筋を指差した。
「違うー! 硬い筋肉じゃなくて、こう、柔らかい──」
「質のいい胸筋は柔らかい」
谷川の手を鷲掴み、真顔の滝がいう。そうして、恥ずかしげもなく──いや、男だから恥ずかしいとかないだろうけどさ──自分の胸筋に谷川の手を押し付けた。
「うぅっ……なんで柔らかいんだよーーー!!」
悲痛な声を上げながら、胸を揉むな、谷川。
クラス中が笑いに飲み込まれ、誰もが「腹いてーっ!」「やめろ、アホ!」「笑い死ぬ」と声を上げた。ただ、美羽だけは少し不満そうに「もう、滝くんったら」と呟いていた。まあ、確かに自分の恋人が、例え同性だとしても胸を揉まれたら複雑だよな。
「滝くんのおっぱい揉むの、禁止!」
「へっ……大沢さん!? いや、俺じゃなくって、滝が──」
「滝くんも、勝手に触らせないの。滝くんのおっぱいは、あたしのでしょ!」
「美羽ちゃん……ごめん」
なんか、爆弾発言が投下されたぞ。
クラスメイトがドン引きしてるが、二人はお構いなしで見つめ合ってるし。谷川と東には可哀想な光景だが、これは見事なバカップルの誕生だな。
誰かが拍手をし始め、我に返ったらしい美羽の顔が真っ赤になった。
まったく、クラスで目立ちたくないっていってたのは、誰だよ。
美羽の様子に呆れつつも、クラスメイトにからかわれながら祝福される二人を、少しだけ羨ましく感じた。
二人の様子に、淳之輔先生と自分を重ねる。それは、きっと叶わない。もしも、俺が女だったら──いや、女になりたいって訳じゃないけど。
ああやって、誰の前でも隠さず一緒に入られる二人が羨ましい。
「星ちゃん、どうしたの?」
「あー、いや……そろそろ衣装脱いでいいか?」
「まって、その前に写真撮らせて! 滝くんも並んで!!」
「私も撮りたい!」
「俺も!!」
次々にスマホを構えるクラスメイト。滝は美羽にいわれるままだし、委員長は乗り気だ。井口と成田は「お前ら、なにか奢れよ!」とかいいながら俺の手を引っ張った。
「目線こっちお願いしまーす」
「星ちゃん、顔強張りすぎ!」
「お前ら、もう少し色気出せー!」
「男に色気求めんな!!」
「星ちゃんのスマホにも送ってあげるからね!」
「いらねーって!」
げらげら笑い声が響き渡る中、次々にシャッターが切られた。