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第82話 女装アイドルの衣装合わせは大賑わい

 新学期が始まる前、出来上がった衣装チェックをするために、女装アイドルグループとオタ芸グループ、衣装班が学校に集まった。


 さっそく着替えると、教室に集まったクラスメイト達がどよめいた。


「いける。これはいけるぞ!」

「大沢さん、凄い!! この夏だけで、ここまでクオリティ上げられるもんなの!?」

「班の皆が手伝ってくれたからだよ」


 谷川と東がテンション高めに褒め称えると、美羽は顔を引きつらせた。あいつ、自分だけが目立つの嫌がるからな。実際、衣装は美羽がほとんど手直したんだろうけど。


「滝が女に見える日が来るとは……筋肉ヤバいけど」

「若槻くん、ヤバくない? 一人になったら、襲われるレベルじゃない?」

「スカート丈が絶妙だな。踊ったら、見えるんじゃないか? トランクスとかやめろよ」

「そこは、あれだ。見せパンってやつを履けばいい」

「さすがに、ものが見えたらアウトだからな」

「若槻のが見えたりしたら、俺、泣くぞ……こんなに美少女なのに」

「誰が美少女だ。誰が!!」


 咄嗟に言い返すと、谷川はあからさまに落胆し、その肩を東が頷きながら叩いた。なんなんだこいつらは。


「顔は大沢さんなのに……」


 涙を流しかねない谷川に、ああそういうことかと納得する。美羽に恋人ができて、こいつらは失恋真っただ中だったな。


「お前らなぁ、俺を代替品にするな!」


 呆れて言い放つと、クラスメイトがげらげら笑った。


「なあ、若槻」

「なんだよ。真面目な顔して」

「やっぱり、ついてんだよな?」

「は?」

「いやぁ、実は女ですってラブコメ展開は──」

「あるわけないだろう!!」


 食い下がる谷川に、再びクラスメイトは大笑いだ。それで気をよくしたのか、調子に乗った谷川は、俺の胸を突いた。当然だが、そこに入ってるのは詰め物だ。


「こんなに、大沢そっくりなのに……おっぱいは偽物」

「当たり前だ。そんなもん、あってたまるか!」

「いい尻してるのに……」

「触るな、変態!!」


 一発、殴ってやろうか。

 顔を引きつらせていると、滝がぬっと顔を出して「おっぱいならあるぞ」と、自分の胸筋を指差した。


「違うー! 硬い筋肉じゃなくて、こう、柔らかい──」

「質のいい胸筋は柔らかい」


 谷川の手を鷲掴み、真顔の滝がいう。そうして、恥ずかしげもなく──いや、男だから恥ずかしいとかないだろうけどさ──自分の胸筋に谷川の手を押し付けた。


「うぅっ……なんで柔らかいんだよーーー!!」


 悲痛な声を上げながら、胸を揉むな、谷川。

 クラス中が笑いに飲み込まれ、誰もが「腹いてーっ!」「やめろ、アホ!」「笑い死ぬ」と声を上げた。ただ、美羽だけは少し不満そうに「もう、滝くんったら」と呟いていた。まあ、確かに自分の恋人が、例え同性だとしても胸を揉まれたら複雑だよな。


「滝くんのおっぱい揉むの、禁止!」

「へっ……大沢さん!? いや、俺じゃなくって、滝が──」

「滝くんも、勝手に触らせないの。滝くんのおっぱいは、あたしのでしょ!」

「美羽ちゃん……ごめん」


 なんか、爆弾発言が投下されたぞ。

 クラスメイトがドン引きしてるが、二人はお構いなしで見つめ合ってるし。谷川と東には可哀想な光景だが、これは見事なバカップルの誕生だな。

 誰かが拍手をし始め、我に返ったらしい美羽の顔が真っ赤になった。

 まったく、クラスで目立ちたくないっていってたのは、誰だよ。


 美羽の様子に呆れつつも、クラスメイトにからかわれながら祝福される二人を、少しだけ羨ましく感じた。

 二人の様子に、淳之輔先生と自分を重ねる。それは、きっと叶わない。もしも、俺が女だったら──いや、女になりたいって訳じゃないけど。

 ああやって、誰の前でも隠さず一緒に入られる二人が羨ましい。


「星ちゃん、どうしたの?」

「あー、いや……そろそろ衣装脱いでいいか?」

「まって、その前に写真撮らせて! 滝くんも並んで!!」

「私も撮りたい!」

「俺も!!」


 次々にスマホを構えるクラスメイト。滝は美羽にいわれるままだし、委員長は乗り気だ。井口と成田は「お前ら、なにか奢れよ!」とかいいながら俺の手を引っ張った。


「目線こっちお願いしまーす」

「星ちゃん、顔強張りすぎ!」

「お前ら、もう少し色気出せー!」

「男に色気求めんな!!」

「星ちゃんのスマホにも送ってあげるからね!」

「いらねーって!」


 げらげら笑い声が響き渡る中、次々にシャッターが切られた。

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