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私には刺繍の才能がない

 とても困った。


 マテオ様にプレゼントするハンカチに刺繍してるんだけど、破滅的なほどに上達しない自分の未熟さが怖い……。


「少し休憩しましょう」


 チラリとアイリスを見ると困ったような顔で見ていた。


 困るのも無理はない。


 だって、私……アイリスに刺繍を習って三日目なのに、破滅的だなんて……。


 刺繍の才能がないんだな。


 悲しい。


 まぁ、才能がないのは、わかりきってたことなのだけど。


「なんでマテオ様は私の刺繍入りハンカチが欲しいだなんて……」

「ソフィア様が一生懸命作ったものが欲しいのですよ」

「なんで?」

「そう言われますと、説明に困りますね。いつかソフィア様もわかる日がくると思いますよ」

「わかる日……かぁ」


 そんな日が来るとは思えないけど。


「こんなのあげたって喜ばないでしょ」


 私は深いため息をついた。

 ついさっき出来た刺繍を見ると、落ち込んでしまう。


 薔薇の刺繍したつもりが、雲の刺繍になっているんだ。


 しかも、ものすごく不安定な線で……。


 あれ? ノエルに渡した時よりも下手になってる。


 糸のほつれが目立つし、もはや刺繍と呼べるのか? と、疑問に思うレベルなのだけど。


 だからこそ、アイリスに頼んで教えて貰ってるのに。


 進歩しないってどういうこと!!?


 私は何を学んできたの??


「はぁ」


 学習出来てない自分が情けなくて泣きそう……。


「では、刺繍をやめて、違う贈り物を考えますか?」

「!? いいえ。やるわ!! 約束したんだもん」


 約束した。


 ……したんだから、約束を破りたくなんてない。


「アイリス、教えてくれる?」

「はい」


 アイリスも私には刺繍の才能がないと思ってるはず。

 それなのに、何度も教えてくれる。


 有難いし、申し訳ない。そう思っても途中でやめられない。


 投げ出したくないから。諦めたらそこで終わりだ。それは前世で学んだこと。


 なんの才能もない私は、今出来ることを精一杯頑張ることだと思うから。


「 ~~っ!?」


 指にチクッと痛みが走る。

 針が指に刺さったんだ。


 何回も針が刺さって、手がボロボロだ。


「……上手く出来るのかな」


 傷だらけの手を見ながら深いため息をつく。


「そうですね。ソフィア様の気持ちが込められてればマテオ様は嬉しいはずですよ」


『きっと上手く出来る』とは、言ってくれない……。


 それぐらい私の刺繍は破滅的だと言うことね。


 ダメ。落ち込むな。


 頑張らなきゃ。


 ーーそしてマテオ様が屋敷を離れる日、ギリギリに刺繍入りハンカチが出来上がった。



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