北米合州国の北東部、五大湖と呼ばれる海のような面積を持つ巨大な湖の一つ、チミガン湖に面した全米屈指の大都街カシーゴ・シティ。
ビジネス街として発展を遂げてきたこの街は、他の大都街に比べ、街並みが“整っている”と評されることが多い。
大都街にしては、夜闇を照らし上げるネオンに乏しく、如何にも実用性重視の趣が強い超高層ビル群はひっそりと夜景に沈んで、目立たない。
目に付く物と言えば、そのビル群の間を縫ってうねる、
今、その地上を這う静脈――ウェスト・マディソン・ストリートを、愛用のキックグライダーで爆走しながら、リエリー・セオークは、胸にわだかまるモヤモヤをどうにか処理しようと、深呼吸を繰り返していた。
(落ちつけ、あたし!)
これが救命活動だったなら、と縁起でもないことが頭をよぎるくらいには、気持ちが昂ぶっていた。もし、救命活動だったなら、瞬時に頭が冷え、感情をコントロールできる。どうやら他の
が、当然、そう都合よく
スーパーマーケットが建つ交差点を、ほとんど減速せずに右折すると、対向車線の運転手が抗議の
(規則、規則って、なに! それで命を救えなかったら、意味ないし)
いつしか苛立ちの矛先は、威療士に関わる無数の規則に向いていた。
ルールが必要なのは理解できる。それぞれが勝手にやりたいようにやっていたら、救える命も救えない。
だからといって、意味があるとは到底、思えない規則があまりに多い。そういうルールの理由を訊いたところで、大抵、「そういう決まりでね」としか答えてくれない。そういうのが、リエリーは大嫌いだった。
「……おなか、空いた」
怒りはエネルギーを消費する。ただでさえ、朝から救命活動に奔走し、合間にエナジーバーを囓ったくらいなのだ。腹が抗議の音を上げるのも無理はない。
グライダーの速度を落とし、深呼吸すると、濃厚な香りが鼻腔を満たした。
「ラーメン屋だ!」
途端、空腹の警報が全身に鳴り響き、もう一歩も動きたくなくなる。
それでもすぐさま店先へ駆って行かないのは、威療士としての習慣からだ。こんなときでも脳が勝手にカロリー計算を弾き、ラーメンを摂取した場合に必要な追加トレーニング量を無慈悲に伝えてくる。トレーニングは嫌いではないが、その分、時間が取られ、救命活動に出る頻度が減るかもしれないと思うと、それだけで充分な抑止力にはなっていた。
――と、リエリーの傍を何か白い物体が高速で追い越していくと、モダンなそのラーメン屋の中に吸い込まれていった。
「……は? なんで?」
自分の動体視力は、ハッキリとその物体の正体を捉えていた。だからこそ、意味が呑みこめず、疑問が口を衝く。
それを裏付けるように、コンソールが着信を報せてくる。予想しつつ、メッセージを開封すると、湯気を上げるドンブリとツーショットを決めている、乳白色の