ある記者による取材メモより
――その一報は、大々的にカシーゴ・シティ市民へ伝えられるはずだった。
北米合州国において、知名度と活躍で群を抜くカシーゴ威療士枝部。
そのトップとナンバーツーの電撃逮捕は、地元市民はもちろん、全米の報道を埋め尽くすのに申し分ないネタであるはずだった。
だが実際、その真実を知る者は、ごく少数の関係者に限られることとなる。
世界威士会とカシーゴ威療士枝部による連名で発表された公式プレリリースは、極めてシンプルな文言に留まった。
『星暦9月2日、一身上の事由により、ネクサスマスターであるジョナサン・ハリス氏が辞任を発表。同日、健康上の理由により、同ヴァイスマスターであるハルゲイサ・ブロント氏も辞任を希望。両名によるこれまでの貢献を鑑み、世界威士会は同氏らの要望を受理した。後任には、同ネクサス所属レンジャーであるラクス・ロドラ氏、およびカニス・フライ氏の就任を予定』
そしてプレリリース発表の直前、世界威士会長の署名入り書簡がカシーゴの全威療士宛てに送信された。
後年、同会長の死去に伴う取材により明らかとなる書簡の一部には、次のように記されていた。
『……よってレンジャー諸君らには、職務の変わらぬ邁進を期待する。なお、前任者への配慮として、彼らと接触、ならびに情報提供の疑いがある者は、当会による捜査対象に該当することを……』
――この日以降、ハリスとブロントの名が世間の耳に上るまで、十数年の時間を要することになる。