――○○分前。カシーゴ・シティ某所。
「――隊長ぉ。あれってぇ……」
「ああ。カスタムモデルのスヴレーヌ3機、おそらくは要人仕様。昼間から堂々と飛行しているということは、彼らもそれだけ必死……いや、あるいは見せしめか?」
「見せしめってぇ、機体の音だけで意味がわかるのぉ、隊長ぐらいだと思いますけどぉ」
「そういう貴女も理解しているが?」
カシーゴ・シティ名物のハイパートレイン。超高層ビルを結び付けるように敷設されたその空中線路の遙か下層には、観光名物でもある
そんな旧式の高架橋の一角で、
二名の周囲には、およそ形容しがたい光景が広がっていた。
二桁を優に超すだろう、漆黒灰の巨躯、その散らばった無数の“欠けら”。
常人であれば、凄惨にすぎる光景に卒倒するか、正気を失うところだ。
だが、
最後に浴びた血潮を、拭うことすらせずに、フルフェイス内の通信機で『隊長』と呼ばれたアーマー姿が、おもむろに片手を掲げた。
「こちらヴェナート・アルファ。全ターゲットの生命無力化を確認。これよりデルタによるクリーンアップを開始する。シグマ、カッパ、エプシロン。周囲の封鎖は?」
『こちらカッパ。封鎖継続中です。接近する市民およびレンジャーの反応なし』
『拙者エプシロン、左様にご報告申し上げる候』
『シグマ、人っ子一人、オオカミの子一匹なし』
「了解。クリーンアップ完了後、各自〈DEN〉に帰投、ブリーフィングをおこなう」
『アルファ、状況、悪い? 緊急時以外、
「我々のミッションは全て順調だ。だが警戒すべき事象を目にした。全員の意見を聞かせてほしい」
返る、一分の疑いもない返答。
その頼もしさを感じつつ、この現場の最後の指示を出しかけた隊長の、フルフェイス内に【VOICE ONLY】の文字が浮かび上がった。
(……やはり)
確信を現実に格上げし、隊長はチームの回線と同時に、通信相手の役職を呼んだ。
「長官」
『カシーゴレンジャーネクサスマスターが逮捕された。今、〈エアー〉の執行部が向かっている。ヴァイスマスターも暴行の疑いで〈エアー〉に拘束されている。内通者によるものと見て間違いない』
「……保護に向かいますか」
『まさか。協力者を失ったことは残念だが、君たちの任務に変更はない。これは忠告だよ、〈
「全員が聞いております、長官」
『素晴らしい。君たちは今、活動拠点を失ったに等しい。彼なき今、レンジャーとの協働はリスクが大きすぎる』
「では……?」
『君たちのフェイク〈バッズ〉は既に消去した。以降、カシーゴ・シティ市民として作戦実行の時に備えるように。――以上だ』
「
『貴君らの活躍に期待している』
そうして終了した通信と、一面を覆う強烈な冷気が、同時に押し寄せる。
「終わりぃ、隊長」
「ご苦労、イプシロン。帰投する」
「はぁ~ぃ」
横に並び、歩き出すフルアーマー姿の二名。
その一人が一歩、強く地面を蹴った。
直後、二名の背後で一面の氷が砕け散った。