「さすがはチーム〈
「その呼びかた、きらいなんだけど」
「リエリー君、しがない大人からのアドバイスだ。好き嫌いは
肩を軽く叩き、ハリスがルヴリエイトに向かって歩いていく。
何だか、はぐらかされたような気がして、眉をひそめたリエリーは慣れない杖を突いて振り返った。
「それで、ジョン?」
「何、部下に手を上げたからだよ。君が毛嫌いしている副枝部長君が気に食わないことを宣ったものでね。つい、手が出てしまった。そのことは反省してるが、彼に謝るつもりはない。だから、解雇だよ」
「……つまり、話してはくれないってわけね」
「そういうことだ。彼は優秀だ。僕の後任にこれ以上の人材もいない」
「はあ?! ブロント……ヴァイスマスターがネクマス? まじ?」
「今はネクマス、だ。その斬新なニックネーム癖も、これからは時と場を見たほうがいいだろうね」
肩をすくめてこちらを振り返った元上官を、今度は『眉があがった顔』の絵文字を浮かべたルヴリエイトが咎める声音で呼び止めた。
「その様子なら、
「いや。さすがにそれは人としてダメじゃあないのかい。君のパートナーは、いつ何時でも僕の味方でいてくれた。僕がどれだけ無理難題を言ってもね。挨拶くらいはしないと」
「どうせ、そのついでに、あの人には話していくんでしょう?」
「頼むよ、ルヴリエイト君。引き際が肝心って言うじゃないか。僕にも潔い退場をさせてほしいんだが」
「……ええ、そうね。ごめんなさい。ちょっとビックリしちゃったみたい。アナタが言わないのは、ワタシたちのことを考えてだものね」
「ちょっとまってよ。ぜんっぜんよくないんだけど。あたしたちの……あたしのせいなんでしょ? あたしが〈エアー〉に言ってくる。ハリハリが辞めるんなら、あたしも辞める」
「――セオークのことはいいのか? たかだか枝部長が一人いなくなった程度で諦めるのか? その程度のことなのか、君の
「……っ」
言葉が、出てこなかった。
これが、ハリス流の励ましなのはわかる。自分の性格を知り尽くしているからこそ、あえて煽るような言葉を使ったのだろう。
それでも、リエリーは松葉杖を強く握りしめる以外にできる反応がなかった。
「さっきも言ったはずだ。自分で逃げ道を作るような子どもっぽい真似は、よすんだ。〈エアー〉に何と言うつもりだい。ジョン・ハリスを解雇するなら自分もレンジャーを辞職する? はっ! だったら辞めればいい。あっちの思う壺だ。最年少レジデントだから何だね。若い世代のレンジャーはこれからもっと増える。止められないさ。それにだ。君が〈バッズ〉を着けられるよう、セオークが駆けずり回ったんだよ。君も知っているね?」
「うん……」
「……ジョン。もういいわ」
「いいや、良くないとも。リエリー君の言ったとおり、全く良くない。なぜかって? これが大人の世界というやつだからだ。反吐が出る? 間違ってる? そうだとも! 全くくだらない世界だよ。だが君も、僕も、ルヴリエイト君も、皆、この世界で生きてるんだ。世界が間違ってると言うなら結構。ぜひ、君たちが変えてくれ」
「ジョン! やめて。アナタらしくもないわ」
「……僕ら大人は、君たちの世代にこんな世界しか残せなかった。そのことは申し訳ないと思ってる。だからリエリー君。君たちで変えてくれ。君たちにはその知恵も力も、何より責務があるんだ」
「なんの、責務?」
「より良い世界を築く責務だよ。大それたことをしてほしいんじゃない。君たちが、君たち自身らしく道を進めばいいんだ。責任感と覚悟、それだけあれば充分だとも。あとは君たちが思うように進め。その先に必ず、今よりもっと自由な世界が待っている――」
「――随分、小っ恥ずかしい台詞を吐いてくれますね。貴方とて、そのくだらない世界を今日まで存分に泳いできた一人ではありませんか。ジョナサン・ハリス
風の乱れに、気付かなかった。
そう思う間もなく、カシーゴ・シティを見下ろせる丘の側から、3機の黒光りする飛行艇が夕空に舞い上がった。
そして、その直前に枝部の方角から悠然と歩いてきた革靴が足を止めて言った。
「――ジョン・ハリス容疑者?」