「なるほど……武田さんが新規に起こしたプロジェクト―――
そこのサポートに入って欲しい、と」
「はい。
私が承知していますので……
待遇はこれくらいを想定しておりますが、不服ならもう少し上げても」
俺は彼女が差し出した書類に目を通し、
「正直、いくら業界経験が長いとはいえ―――
これだけの条件を出すような能力が私にあるとは思えないのですが」
「いいえ! 一通りの仕事の流れを理解しておりますし、
あの時もいろいろと教えてくださいました!
安武さんの助言と働きがあったからこそ、今の私があるのです!
それに正直、安武さんがあのままあの会社にいても出世は
望めないと思います。
どうもあなたの事を、便利な雑用係にしか見ていない気がして」
何というか、彼女の中では俺の評価が高いらしい。
「しかし便利な雑用係と言いましても、実際そのようなものですし」
「そんな事はありません!
ある程度のトラブルを事前に予測し、どう対応したらいいのか
わかっている人材なんてほとんどいないのです!
出来れば安武さんには、私専属のサブリーダーとなって頂きたく」
ぐいぐいと迫る武田さんに押され俺は思わず身を引くが、
「ん?」
いつの間にか倉ぼっこと
それを見た彼女は心無しか真顔になり、
「……失礼ですが、その子たちとはどういうご関係でしょうか?」
関係も何もコイツらはただの
「僕は妻です!」
「アタシは愛人です!」
両側からの爆弾発言に思わず思考が一瞬停止する。
「え? え? そ、それって……」
「いや違いますからね!?
倉ぼっこはつい最近まで女とは思っていませんでしたし、
野狐は男ですから!!」
目を丸くしている武田さんに俺は何とか釈明するも、
「両方イケるって事ですか!? それってすごい激レア……!!」
「違います!! だから私はノーマルです!!」
こうして俺は社会的信用を守るため―――全力で弁解に時間を費やした。