「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様♪」
「お飲み物はいかがいたしましょうか」
秋葉原のとあるメイド喫茶で、黄色い声が飛び交う。
アタシの名前は
東北に住む狐の
同じ妖である倉ぼっこ、
さらに名付けて頂いた事で
至ったのです。
当初の目的はミツ様のお相手となり、結ばれる事で群れの
事でしたが……
ミツ様には裕子様という奥方(予定)が出来たので身を引きました。
幸いにも裕子様始め、
さらに彼女、加奈さんは妖を相手としてきた一族で、その扱いにも精通し、
人間社会で生きる
今はこのメイド喫茶で働いています。
アタシは外見こそ女性ですが、性別は男なので……
女性が接客するお店は大丈夫かとも思ったのですけれど、
『詩音ちゃんなら絶対バレないって!!』
『女性のお客さんも来るから!!』
『むしろそっちの方が人気出るからー!!』
と、なぜか店員の皆さんに押しまくられ―――
今では本当にアタシ目当てで、女性のお客様が来られるそうです。
ちょっと残念な事と言えば……アタシとしては化粧技術を彼女たちから
学びたいと思っていたのですが、
『詩音ちゃんはあまり化粧しなくていい!』
『ていうか、それ以上は反則!!』
『素材が一番のオシャレだという見本ですわー!!』
と、なぜかほとんどすっぴんで店に出されるので困惑しています。
でも困った事といえばそれくらいです。
「詩音様ー♪」
「お姉さまあぁあああ♪」
「いたいた! こっちに来てくださいましー!」
アタシを呼ぶ女性客の声が聞こえます。
ここはメイド喫茶で、様付けされるのはお客様の方なんですけど……
アタシは少し困った表情で、
「お帰りなさいませ、お嬢様♪」
すぐに接客スマイルに切り替えて対応すると―――
客席から獣の叫びのような歓声が響き渡った。