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第120話・初仕事・詩音視点02


「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様♪」


「お飲み物はいかがいたしましょうか」


秋葉原のとあるメイド喫茶で、黄色い声が飛び交う。


アタシの名前は和泉詩音いずみ・しおん

東北に住む狐のあやかしで、野狐やこという群れの一員でした。


同じ妖である倉ぼっこ、川童かわこの導きでミツ様と出会い―――

さらに名付けて頂いた事で妖力ようりょくが格段に増し、主様の修行で覚醒へと

至ったのです。


当初の目的はミツ様のお相手となり、結ばれる事で群れの命脈めいみゃくを保つという

事でしたが……

ミツ様には裕子様という奥方(予定)が出来たので身を引きました。


幸いにも裕子様始め、弥月みつきさんという人間の女性とも仲良くなり、

さらに彼女、加奈さんは妖を相手としてきた一族で、その扱いにも精通し、


人間社会で生きるすべと身分をその兄・琉絆空るきあさんと用意してくれ、

今はこのメイド喫茶で働いています。


アタシは外見こそ女性ですが、性別は男なので……

女性が接客するお店は大丈夫かとも思ったのですけれど、


『詩音ちゃんなら絶対バレないって!!』

『女性のお客さんも来るから!!』

『むしろそっちの方が人気出るからー!!』


と、なぜか店員の皆さんに押しまくられ―――

今では本当にアタシ目当てで、女性のお客様が来られるそうです。


ちょっと残念な事と言えば……アタシとしては化粧技術を彼女たちから

学びたいと思っていたのですが、


『詩音ちゃんはあまり化粧しなくていい!』

『ていうか、それ以上は反則!!』

『素材が一番のオシャレだという見本ですわー!!』


と、なぜかほとんどすっぴんで店に出されるので困惑しています。

でも困った事といえばそれくらいです。


「詩音様ー♪」


「お姉さまあぁあああ♪」


「いたいた! こっちに来てくださいましー!」


アタシを呼ぶ女性客の声が聞こえます。

ここはメイド喫茶で、様付けされるのはお客様の方なんですけど……


アタシは少し困った表情で、


「お帰りなさいませ、お嬢様♪」


すぐに接客スマイルに切り替えて対応すると―――

客席から獣の叫びのような歓声が響き渡った。



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