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■5章 3人の職場

第121話・銀視点02


推古すいこさん、これはこっちの荷物で―――」


「ああ、任せるっぺよ」


取り引きに来た老舗旅館『源一げんいち』の従業員の指示に従い、

オラはトラックの荷台に次々と荷物を載せていく。


オラの名前は推古銀すいこ・ぎん

この地で長い年月、川童かわこと呼ばれたあやかしだ。


幼馴染のミツから名前を付けてもらった事で妖力ようりょくが増し……

さらにぬし様直々の修行を経て覚醒した。


同じく覚醒した理奈や詩音は、ミツと行動を共にして東京に

行っているべが―――

オラは留守番としてミツの家を守っている。


その間に来る『源一』の相手や、時々郵便で荷物も届くので……

それら雑務を引き受けている。


安武やすべさんの親戚だっけ?

 いやあでも助かっているよ、若い男手がいないからどうしても力仕事がねえ」


「これくらいお安い御用だべ。

 オラも居候だし、遠慮はいらないっぺよ」


実際、『源一』周辺でも過疎化と高齢化は進んでいるらしく、

外見上は若く見えるオラは、貴重な働き手として期待されているようだべ。


「しかしあっという間に終わっちまった。

 推古さん、何かやってたのかい? ずいぶんと力持ちだが」


「あはは、若いだけっぺよ。

 あとヒマだから、体力が余っているだけだっぺ」


談笑しながら最後の荷物を荷台に積み込む。


「もしよければ、週に何度か旅館に手伝いに来てくれないか?

 推古さんみたいなイケメンが来てくれりゃ、女性の従業員たちも

 喜んでくれるよ」


「あー、いや……オラもう彼女がいるだべ」


「あっちゃー、そりゃ女どもに取っちゃ気の毒な。

 すごい期待していたのに」


そこでオラは髪をかき分け、頭のてっぺんを見せて、


「でもオラこんなだべよ?」


「いっいや!! 見せなくていいから!!」


頭の皿がちょうどはげているように見えるので―――

場を和ます持ちネタとして利用していたが、


「それでも彼女いるんでしょ?」


「顔がいいモン、それくらい許容範囲だと思うよー」


苦笑しながら彼らは答える。


「まあミツに話を通してくれっぺ。

 オラは居候だから。


 断られる事は無いと思うべよ」


すっかり作業を終えた彼らが軽トラックで去るのを見送ると、

オラは家の中へと戻った。




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