「そろそろ時間かな」
俺は料理―――と言っても、鍋に具材をブチ込む程度のものだが、
その作業をしながら、夕食の支度をしていた。
「しかし、どの野菜も魚も肉も美味しいべな。
さすが老舗旅館の食材だべ」
褐色肌の青年が、味見をしながら感想を口にする。
「そういえば銀、旅館に手伝いに来てくれって言われているんだっけ?」
老舗旅館『
何でも男手が欲しいという事で誘われているらしい。
「ああ。ミツさえよければ行こうと思っているんだべ。
オラもここだけじゃなく、社会勉強は必要だと思って」
「俺は別に反対しないぞ?
理奈も詩音も職に就いたし、やりたいのならどんどんやってみるべきだ」
「ミツならそう言うと思っていたべ。
じゃあ、来月あたりから行ってみるべか」
そこへ加奈さんがやって来て、
「あ、銀様。私も手伝いましたのに」
「鍋物だからそんなに手間はかからないっぺよ。
じゃあ、そろそろ他の3人を呼んで来て欲しいっぺ」
そして裕子さん、理奈、詩音の3人と一緒に下りてきた。
「おー、理奈の仕事はそんな感じだべか」
「ミツとゆーちゃん、加奈ちゃんと一緒の仕事場だからねー。
ある意味一番安心だし」
鍋をつつきながら6人で食卓を囲む。
ちなみに
昼食後にトレーラーハウスへ行って不在だ。
「僕はそんな事情で大丈夫だけど、しーちゃんはどう?」
倉ぼっこが
「男性相手の接客と聞いていたのですが、アタシ目当ての女性客が多くなって
困惑しています。
まあ、空き時間にショッピングとか同僚の方々に付き合って頂いて
おりますので、充実してはいますけど」
複雑な表情の『彼』を前に、他の女性陣はうんうんとうなずく。
男装の麗人の逆バージョンといったところだろうか。
まあ仕事に不満が無いのならそれが一番だろう。
「でも詩音さん、秋葉原で働いているんでしょう?
理奈さんや
いっそ私と一緒の生活スタイルにしてみますか?
私なら東京に一人暮らし用のマンションがありますから」
あ、なるほど。
何も全部俺の行動スケジュールに合わせる必要は無い。
裕子さんと一緒に行動すれば東京にいる時間も長くなるし―――
何なら詩音だけ、東京の彼女の家で留守番も可能となる。
「そうですね……
同僚やお客様からも、なるべく勤務日数を増やして欲しいと
言われていますし。
いずれお言葉に甘えるかも知れません」
そして鍋の具材はすっかりなくなるまで話は続き、
「じゃあシメはうどんにするかー」
その言葉に、待ってましたと言わんばかりに女性陣から歓声が上がった。