「ああもう、びっくりしたぁ~。
いきなり
「だからごめんってば」
メイド喫茶からの帰り、秋葉原駅構内で―――
「……確かにアレはバッドジョブ……
でも、お姉さまの男の方の声が聞けたから、それはグッドジョブ……!
あの美声、脳が溶ける……!
今日は絶対録音リピートしながら寝る……!」
「え? 録音なんていつの間に―――」
「な~に言ってるのよ。あの後詩音お姉さま、店内を巡りながら
挨拶してたじゃない。
そのチャンスを逃すようじゃまだまだね」
あたしが聞き返すと、ショートヘアーの細目の友だちが人差し指を
振り子のように揺らす。
確かにあの時、私があまりの綺麗さに目を見張ったのは事実。
でも質問してしまった原因はそれだけじゃない。
そして本当に質問したかったのも、性別の事じゃない。
本当はこう聞こうとしたのだ。
『その耳とシッポは?』と―――
まるで某カップ麺のCMのごとく、詩音さんには狐耳とシッポがあり……
耳はピコピコと、シッポはふさふさと揺れ、
寸前で質問内容を変え、あんな事になってしまったのだ。
「えっと、あそこコスプレもしているんだっけ?」
「ん? やっている日もあるんじゃないの?
確か和装とかアニメキャラとか」
「……ほう……それはぜひ、見ておかねば……
次の詩音お姉さまの勤務日は……?」
この反応を見るに、やはり水樹ちゃんや一花ちゃんには
見えていないんだろう。
でもなんだかなあ、私にそんな霊感とかそんなものあったかな?
いやそもそも詩音さんって何者なのか―――
一人でモヤモヤしたものをかかえつつ、私は2人と一緒に
電車に乗り込んだ。