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第272話・『魔』との邂逅01


「はは、おこんばんは。まあそう身構えなくとも」


誰だろうか。雲外鏡うんがいきょうさんはやたら警戒しているようだけど。


「お知り合いですか?」


彼にたずねるが、ただ首を左右に振り、


「知り合いではないが知っている。まさか、そちらから現れるとは」


雲外鏡さんは警戒態勢を崩さず、そんな彼を無視するかのように

その青年は視線をこちらに向けて、


安武やすべさん―――はそちらですか?」


と、いきなり俺の名前を呼ぶ。しかし俺の方でも彼に見覚えは無い。


「そうですが、あなたは?」


「自己紹介が遅れましたなぁ。

 我が名は、山本五郎左衛門さんもと・ごろうざえもんと申します。

 どうぞよろしく」


飄々ひょうひょうとした様子で彼はペコリと頭を下げる。


聞いた事の無い名前だけど、ずいぶんと古風な……

だがやっぱり俺の知らない名前だ。


「妖怪? それとも別の何か―――」


「『』だ」


「マ?」


雲外鏡さんが先に答え、俺がそれに聞き返す。


「そうだねえ。妖怪や怪異の上位互換とでも言えばいいのかな?」


そう涼し気に話す山本という青年とは対照的に、彼の額にはうっすらと

汗がにじむ。


また人外かあ、と考えていると、


「その『魔』がいったいこちらに何の用があって」


「あー、そこまで警戒しなくていいって。

 われがその気ならもう終わっているよ、わかるだろう?」


そこで雲外鏡さんは大きくため息をつく。


「だいたいねえ……妖怪にしろ『魔』にしろ、今と昔じゃ力関係も異なる。

 現代の人間ときたら空も飛ぶわ、情報量もネットとやらで無限大。


 原爆クラスの破壊力を持つ妖怪も『魔』もおらん」


そこでようやく雲外鏡さんが身構えるのを止めて、手をだらんと下げる。


「あのー、それでご用件は?

 ていうか、何で俺の名前を知っているんでしょうか」


俺が改めて青年に問うと、


「お、そうそう。貴公の兄上からちょいとお話を」


「え!? まさかまたうちのバカ……もとい兄が何かご迷惑を」


「いやいや、そういう事ではないから。

 ただ興味のある御仁ごじんに会いに来たところ、これまた『候補』になりそうな

 御仁がいたのでなあ」


そこで俺は雲外鏡さんと顔を見合わせ、


「……候補とは?」


すると山本さんはいったん咳払いした後、


「―――2人とも、『魔』になってみる気は無いかね?」


その答えに、俺たちは再び顔を見合わせた。




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