朝。モニタに人工の朝日による木漏れ日がリヴィアの顔を照らす。
リヴィアがアンジの寝顔を眺めていると、アンジも目覚め、激しく動揺している。
昨夜はソファに移動した。戦場の夢をみて、起きたら半裸のリヴィアが隣にいた。
アンジは狼狽しながらもリヴィアに対して服を着ろと促した。
リヴィアに服を着てもらわないとアンジが朝食どころでは無い。
意識してもらうためにもこのままの姿でいたかったが、仕方なく服を着るリヴィアだった。
アンジを翻弄して楽しんでいる節さえある。
朝食はハムサンドに紅茶。手が込んでいる。
「これも美味しそうだ。朝は手抜きでいいんだぞ」
「そんなことをいったらすぐ手抜きになります」
くすっと笑いながら、自分も食事を摂るリヴィア。
二人は軽く会話をしながら、朝食を終えた。
「そろそろ仕事の説明を受けようか。接待されすぎだ」
「仕事の前に。――重要なお話がある。これはあなた自身に関わること」
「聞こうか」
アンジはリヴィアの変化を聞き逃さなかった。声は真剣で、初対面の時に近い。
二人はリビングに移動し、リヴィアが切り出した。
「まずはアンジに説明と謝罪をしないといけません。グレイキャットはアンジのノウハウを盗んで成立したものです」
「なんのことだ? 俺にはろくな学がない。盗まれるようなノウハウもないぞ。リヴィウに聞いていないのか」
「そのリヴィウから聞いたものから、グレイキャットは成立している。この場所を含めて」
「どういうことだ?」
アンジにはリヴィアの真意がわからない。
「グレイキャットは傭兵業としても有名になっているけれど、所属している隊員は私を含めて十名もいません。あとは技術者が兵器開発して生産は委託が多いのです。その原資となったものがあなたのノウハウなのです」
「俺にノウハウなんてものはないが……」
「ありますよ。とびっきりのものが。――アンジの愛機だったラクシャス。リヴィウを助けるためにモレイヴィア城塞都市に没収されてしまった
「ん? ああ。遺宝漁りは副業だったからな」
「宇宙艦落下地帯は太陽圏政府によって侵入禁止地区に指定されています。発見された宇宙艦はたとえ稼働していなくても今やオーバーテクノロジーの遺物。それだけで紛争の火種となる代物です」
「そうだ。侵入禁止地域には入ってはいない」
「そこであなたは考えました。侵入地域区域の周辺。――大物ではなく、戦闘中に地上へ落下した兵器や、以前の紛争。第一次と第二次の太陽圏戦争の残骸を回収して、機兵を整備していた。重要部品は温存し、不要な品だけ売り払っていて生計を立てていたんですよね」
「スクラップでも今はもう作れない素材なら追加装甲に転用できるからな。光学兵器や電熱化学兵器の部品も貴重品だ。衰退した現行技術では無理がある」
「自分用に組み上げた有翼衝撃重機兵ラクシャスは、あなたが集めたテクノロジーの結晶だったはず」
「結晶とは大げさだな。スクラップの寄せ集めだ。外連味が強い名前だろ。煌星は地球時代の東欧地域の影響力が強いからな。フーサリアやハザーもそのうちの一つ。俺は故郷にある羅刹という悪鬼の種類から機体を命名した。その名に相応しく、酷いもんだったが」
「リヴィウを護る為にあえて
「青二才ゆえの過ち......っと。リヴィウを護ったことには後悔していないからな。その覚悟って意味で…… その」
過ちと口にし、リヴィアが泣きそうになる様子をみて、慌てて制止する。
「私もリヴィウのことになると感情が表にでてしまって。その…… ごめんなさい」
「俺が悪かった。ああ。リヴィアの言う通りだ。俺はリヴィウを護るためなら羅刹になる。そういう意志で名付けた機体だったよ」
「アンジを嗤うものは私が排除します」
物理的に排除しかねない勢いのリヴィア。声には一切の容赦がない。
「大丈夫だ。もう機体もないしさ。ラクシャス、か。懐かしいな。あいつは拾ったパーツのなかでもっとも状態が良い物を使ってリストアした機体でね。動くかどうか不安だったがリアクターを交換してやったらすぐ動いたよ。同型機が大量に埋まっていて運が良かった。裏技みたいなもんだし同業者は俺以外にもいたさ」
アンジは苦笑する。
「アンジは歴史が好きでしたね。私達の歴史は火星と金星への宇宙植民を果たした西暦三千年を機に太陽圏暦になりました。しかし、それは太陽風が届く範囲の惑星を巻き込んだ、宇宙戦争に繋がるのです」
「太陽圏歴666年の第一太陽圏戦争だな。その時代の遺物は封印指定されていない。とっくに埋もれているからな。太陽圏歴999年に勃発した第二次太陽圏戦争時代の残骸は取り合いだから運次第。権力者が欲する最先端の技術があった。もう俺たちの理解が及ばないほどに。あの大虐殺がすべてを変えた。そうだろ?」
おさらいするかのようにリヴィウに語った。リヴィアとは認識をすりあわせる必要がある。
大虐殺。太陽圏歴999年に起きた事件が語られようとしていた。