あまりにも大量だったので、黄河の流れを遮ってしまった。
それを見渡して、安禄山は頷く。
「よし。一晩このままにする」
翌朝、雷梧が河を見に行くと、昨日浮かべた草木は見事に凍り付き、頑丈な浮橋となって対岸に繋がっている。
それを報告すると、安禄山はうっすらと笑った。
「進め」
大軍は、一気に黄河を越えた。
水面を歩いてくるとは相手も思わない。この奇襲で、霊昌はあっけなく降伏した。
その三日後、陳留という要衝地に到着。
ここで、安禄山は怒り狂った。
陳留城内に掲げられた高札に、安禄山が唐に背いた反逆者とされた事、長安に残していた長男・安慶宗が斬られたという事が記されていたのである。
「李隆基め、やりおったな! 息子を殺し、わしを逆賊と決めつけたか。今まで唐の辺境を守って来たのは、誰だと思っているのだ!」
李隆基とは、皇帝玄宗の本名である。
それを呼び捨てにして、安禄山は酒杯を床に叩きつけた。
「わしを甘く見るなよ。仇討ちは、今ここから始めてやる。――皆、もう我慢しなくていい。陳留の兵は全て殺せ。略奪も構わん!」
義軍だったはずの将兵たちは、この言葉で完全に箍が外れてしまった。雷梧は好きではなかったが、将兵の楽しみといえば、戦に勝った後の略奪なのである。
安禄山の許しが出た途端、彼らの欲望は剥き出しになった。抵抗する者は容赦なく殺され、城内は地獄絵図となったのである。
「どうしてだ。僕らは正義のために進んでいるはずなのに」
兵舎の窓から様子を見て、雷梧は慌てた。すでに自分の部隊も、略奪に加わっている。
「僕の隊だけでも止めないと。これでは賊と変わらない」
急いで鎧を着け、厩に走って闇鵬の手綱を解く。