九奈白市内の、中央通りから少し外れた細い路地。
新しいもので満ち溢れた市内に於いて、そこだけが時代に取り残されたかのような、どこか落ち着いた雰囲気のあるレトロな喫茶店にて。
「まさか、
「他にも、出向かねばならない用事がありましたので」
というより、
(こういう人ほど、プライベートでは
そんな
「別に普通ですよ。休みの日は専ら家で映画鑑賞か、公園でジョギングです」
「……エスパーかな?」
「あなたの考えそうなことくらい、すぐに分かります」
小さくため息を吐き出し、
そうして一息ついたところで、
これが
『音を消す』能力ではなく、『音を操る』能力だ。今のように周囲から音を奪うことも出来るし、小さな物音を増幅することも出来る。音を離れた場所から発生させることも出来る。酷く応用の利く、
「さて……話というのは、先日の誘拐犯についてです」
「流石、仕事が早い」
今日の席は
内容はもちろん、先日の一件についてである。いつもであれば通話で済ませるところを、何故か
「まず男の方ですが……名前は
「へー」
「へー、ではありません。もう少し探索者のランクにも興味を持って下さい」
「いやぁ、あんまりアテにならないですよアレ。ボ……私に言わせれば、こないだの
「大凡の戦力を測るには、十分役に立つと思いますけどね」
探索者の順位とは、単純な戦闘能力だけで決められているわけではない。魔物の討伐数は当然評価対象に入っているが、その他の様々な要素も加味されるのだ。例えば索敵能力であったり、後方支援能力であったり。ダンジョンに関する知識全般やパーティの指揮能力、果ては探索実績までもが含まれる。そういった部分を鑑みれば、
事実、
「女性の方は黒沼と名乗っていたようですが、もちろん偽名でした。そして二人共、他国の犯罪組織の構成員です」
「……ですか。ま、そうですよね」
「
「それはそれは。苦労した甲斐がありましたね」
「苦労……してました? イヤホン越しでしたけど、とてもそうは見えませんでしたよ」
実際のところ、あの時の
39位の探索者というのは、紛れもなく超一流だ。順位と強さがイコールではないといっても、全くの無関係ではない。仮に今回戦ったのが
「まぁ、これ以上の細かい話は必要ないでしょう。重要な事はただ一点、『これで終わりではない』ということだけです。今回の一件で
「ぬぇー……」
重めの会話内容に反して、にっこり笑顔でそう告げる
「さて……事件については以上です。それとは別に、
「え……なんです?
「いえ、別に悪い話ではありませんよ」
そう言って
高級感のある漆黒のカードには、探索者協会の紋章と『Ⅰ』の文字が刻印されている。
「忘れ物ですよ。大事なものなんですから、ちゃんと管理して下さい」
「ん、あぁ……そういえば見ないなーとは思ってました」
テーブルの上に置かれたカード――探索者証を、
「はぁ……今の言葉を世の探索者達が聞いたら、一体どう思うやら」
「今のところはダンジョンに入る予定もないですしねー……あ、そういえば実習があるって言ってたな……どうしましょう?」
「偽装用のカードを手配しておきます。実習とやらには間に合うでしょう」
「ありがたや~」
頼りになる
こうして全ての話を終え、
「では、私はこれで。何かあればすぐに連絡を」
そう言い残して店を出る
「……これで終わりではない、かぁ」
先のことへと考えを巡らせ、口をとがらせる
しかし今の彼には、任務が始まった当初とは違う感情が芽生え始めていた。
「でもま、なんだかんだで今の生活も結構楽しくなってきたし……うん、なんとかなるでしょ! よし、張り切っていこー!」
一人決意を新たにし、眼の前のパフェを片付け始める
――――なんだかんだと言っても、結局アイツは最後までやるさ
いつぞや隆臣が口にしていた台詞だ。
奇しくも、というべきだろうか。隆臣のその予言は見事に的中していた。そんな風に言われていたことなど、