総会は予定通りに三日目の本会議を終えた。
三日目には特に何の事件も発生せず、ほぼほぼ例年通りの会議となっていた。
二日目には展望台の崩落というハプニングこそあったものの、会議棟には一切の被害がなく、怪我人等も皆無。加えて凪による事情説明や、事後の対応も迅速であったためだ。初日と二日目に行われた展示の評判もよく、参加していた国内企業の殆どが、新規顧客という確かな成果を手にした。これにより国内のダンジョン産業は、より一層の飛躍を遂げることとなるだろう。
結果として、今回の総会は間違いなく成功と呼べるものとなった。
その裏側で起こっていたあれこれについては、当然ながら表に出る筈もない。強いて言えば、紙袋を被った不審な二人組が会場内で目撃されたくらいだろうか。とはいえまさか天下の九奈白家令嬢が、そんな意味不明な行動に出ているなどと、一体誰に想像出来るだろう。その些細な報告は、総会成功のニュースに隠れてひっそりと消え去った。
そのついで、皇グループのトップが退任するというニュースもあった。
しかしそれもまた、多くの一般人にとってはどうでもよい話である。結局大した話題にもならず、やはりすぐに忘れられていった。
そして総会終了から数日後。
凪が参加するということもあり、近頃は総会関係の仕事でバタバタとしていた白凪館であったが、今ではすっかり普段と変わらぬ日常を取り戻していた。
二日目にはやむを得ずマイクを手にしたりもした凪だが、元より彼女は一企業のトップとして参加したに過ぎず、九奈白家を代表していたわけではない。多少は父の仕事を手伝ったりもしたが、所詮はその程度でしかない。凪は総会での疲れを癒やすかのように、のんびりとしたひとときを
そう、凪が居るのは
総会が終わってからというもの、凪は居間で寛ぐことが増えていた。これには
凪が
白凪館の居間には、大きなグランドピアノが設置されている。金額にして三千万円をゆうに超える、某有名メーカーの最高級ピアノだ。
紅茶をゆっくりと口に含みつつ、心地よいピアノの音色に耳を傾ける凪。弾いているのは勿論
惜しむらくは、この演奏を聴いている者が凪一人ということだろうか。
他の三人のメイド達は現在、買い出しなどの理由で各々外出している。ある意味独り占めの状況だったが、出来れば他の三人にも聴かせたかったと、凪はそう感じていた。
そうして演奏が終わった後、凪は呆れたかのように口を開いた。
「……貴女、本当になんでも出来るのね」
「なんでもというわけでは……あとはヴァイオリンとカスタネット、タンバリン芸くらいが精々です」
「楽器に優劣をつけるつもりはないけれど、落差が凄いわね……タンバリン芸?」
「カラオケなんかで盛り上がりますよ。行ったことないですけど」
などと怪しいセリフを吐きつつ、
美しく洗練されたその動きは、自称パーフェクトメイドに相応しい優雅さといえるだろう。少なくとも、戦闘を生業にしている者の動きとは思えなかった。
そうして居間に静寂が訪れる。紅茶を飲む凪と、それを微笑みながら見守る
そんな静寂の中、
先日林の中で見せたものと全く同じ、酷く真面目な表情で。何か空気が変わったような、そんな気がした。
「実は、お嬢様にお話があるんです」
「……何かしら? 珍しく真面目な顔をして、なんだかちょっと怖いわね」
眉を顰め、凪が手にしたティーカップを静かに置く。
そういえば確かに、今日の
「実は私――――お嬢様に隠していることがあるんです」
「……誰だって隠し事のひとつやふたつ、あるのが普通だと思うけれど? というより、今更じゃないかしら? 私はもう、貴女の上司とだって直接会っているのよ?」
それは
しかし、
「いえ、お嬢様が今想像しているものとは別の事です。そして本来はきっと、話す必要のないことです」
「……? 話が見えないわね。話す必要がない隠し事を、わざわざ打ち明けようというのかしら?」
「……気づいておられないかもしれませんが、私はお嬢様に救って頂いたんです。そんなお嬢様に嘘をついたまま、
凪の心臓がどきりと跳ね、その切れ長の瞳が見開かれる。
嘘をついていた? 否、そんなことはどうでもいい。それよりも、このメイドはその後になんと言った?
「貴女……今、なんて……」
突然の事に耳を疑い、珍しく動揺を露わにする凪。
しかし