この世界の隣には、『狭間』と呼ばれる世界がある。
狭間には、『狭魔』と呼ばれるモンスターが出る。
狭魔を倒す、『魔狩』と呼ばれる人間がいる。
◇
秋葉先生は、背が高く巨乳の、保健体育の臨時の女教師である。腰に、革のベルトで纏めた鞭をさげる。
持ちあがったブラウスの裾からお臍が見えて、短パンから長い脚が伸びる。大人っぽい腰も太腿も、巨乳に負けず劣らずセクシーである。
「もう時間がないのよねぇ。入院中の村田先生がぁ、もうすぐ退院して復帰されるそうよぉ」
秋葉先生が、生徒に向ける教師の笑みで告げた。
「そりゃ良かったっす」
オレは、教師に向ける生徒の笑みで答えた。
オレは、遠見 勇斗。十四歳の中学生で、冴えないメガネ男子である。腰に廉価品の長剣をさげる、一応、駆け出しの魔狩である。
帰宅して着替えてきたから、普段着のTシャツジーパンスニーカーである。
「残念だけどぉ、臨時教師は終わりでぇ、せっかく仲良くなった皆とぉ、お別れなのぉ。私はぁ、ここは後任に任せて別の場所に行くように言われてるんだけどぉ」
秋葉先生が、忌々しげに続ける。
「私は、功績が欲しいの! それを、後任に横取りされるなんて、真っ平御免なの!」
魂の叫びだ。
オレは、恐る恐る手を挙げる。
「あ、あの、秋葉先生、ちょっと質問なんっすけど。それがどうして、こうなるっすか?」
「いい質問ねぇ、遠見君」
秋葉先生が、教師の笑みで答える。
「私ねぇ、教団での立場が危ういのよぉ。だからぁ、希少な『スコーパ』を引き込んでぇ、能力を認めさせたくてぇ。多少は強引にでもぉ、力づくでもぉ」
「勇斗みたいなザコじゃなくて、ランクSが目前のアタシの方が良くない? まぁ、このアタシに勝てたら、の話だけど」
桃花がオレの前に進み出た。
小さい胸と巨乳が睨み合う。
「う~ん、申し訳ないけどぉ、バイオレンス絢染に用はないのよねぇ。これから先の時代はぁ、力が強いだけの『ウォリア』に価値なんてないんだからぁ」
秋葉先生が悪意に満ちて笑いながら、手にある小石を放した。
「研究部門を信じるならぁ、ランクSだって殺せる『上禍』レベルらしいわよぉ」
小石が駐車場の床に落ちて、コツン、と硬く鳴った。
前触れもなく、空気が変わった。
◇
快晴みたいな白い世界に、黒い竹林が広がる。黒い竹林に紛れて、人の三倍くらいのサイズの、六本脚の虎の見た目の狭魔がウロつく。
脚が六本あるから虎じゃぁないか。牙がゴツいし角もある。黄色の毛皮に黒い縞模様だから虎っぽい。
オレは見える。この世界から狭間が見える、特殊能力持ちである。
狭間で、桃花が六本脚の虎狭魔と対峙する。
桃花が腰の革鞘から大剣を抜く間もなく、虎狭魔が襲いかかった。
後脚で跳び、前脚二本と中脚二本を、二重の×に振りおろした。
仰け反って避けようとした桃花のノースリーブシャツが破れた。胸の辺りが千々に引き裂かれて、舞い散った。
◇
桃花は強い。
まず、才能がある。最強の人に後継と呼ばれてる。
才能に慢心せず、技術を磨く。学校の勉強は嫌がるのに、剣術とか格闘技とかは自主的に勉強する。
肝が据わってる。強敵を前にしても、臆さず、狼狽えず、怯まず、逃げない。
そして何より、胸が小さい。人並みに胸があったら、虎狭魔の爪を避けきれなかった。胸を掻き裂かれて、致命傷になっていた。
桃花が、頭上を跳び越して背後に着地した虎狭魔へと振り向く。
「うぁー!」
振り向きざまに、大剣を腰の革鞘から抜き、虎狭魔へと斜めに振りおろした。
「りゃぁっ!」
大剣は虎狭魔の背中へと斬り込み、毛皮のさらに奥まで食い込んだ。
◇
小石が駐車場の床に落ちて、コツン、と硬く鳴った。パキンッ、と高い音で砕けた。
マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます
第22話 EP4-5 女の意地/END