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第36話:【素直じゃない、は可愛い!?】

【莉乃side】 


「だーから!そうだって言ったでしょ?」

「聞いてねぇし、意味わからねぇし」


付き合って2週間の私たち。

さぞ仲良しでラブラブかと思いきや相変わらずケンカしてばかりだ。


付き合ってから手を繋ぐでもなし、キスするでもなしでケンカばっかり。


こんなんで付き合ってるって言えるんだろうか……。


「あんまカリカリすんなよ」

「別にしたくてしてるんじゃないし」


「あーっそ。本当可愛くねぇな。付き合ったらもうちょい素直になるかと思ったのによー」


素直にさせないのは自分じゃない……。


そもそも言い合いの原因は、今日の朝のこと──。


もともと家の方向が違う私たちは、帰りは一緒に帰るものの朝は一緒に行っていなかった。

先に来ていた私はふいに教室から窓の外を眺めていたら……。


その時、賢人を見つけた。


「賢人……」


そう言って手を振ろうとした時、可愛らしい女の子がやってきて賢人の腕を組んだ。


な、なにあれ……。


ゆっくりと手を下げる私。

賢人もすごい楽しそうに笑ってる……。


一緒にいるだけならまだ、いい。……けどあんなに楽しそうに笑うなんて……。


私の心の中は、モヤモヤで包まれた。


そんなことがあって、私は昼休み「一緒にご飯を食べる気はない」とメールしたら、賢人が教室までやって来てあの会話だ。


そりゃ、私が可愛くないからこういうムードがなくなっちゃうのも分かる。


でも彼女がいるのに、あんなに楽しそうに話すことないでしょ!


場所を移動しようと言われ、仕方なく誰もいない屋上に向かう。

すると賢人は言った。


「なあ、てかなんでそんな機嫌悪りぃの?」

「別に」


「俺なんかした?」

「心当たりないわけ?」


「ないから聞いてんだろ」


険悪な雰囲気。

自分も本当に可愛くない。


こんなんだったら、いつか賢人が愛想尽かして私から離れてしまうかもしれない。


「なぁ、教えてよ。莉乃」


ちょっと眉を下げてそんなことを聞いてくる賢人。


──きゅん。


なんか、かわいい……。

不覚にも胸がときめいてしまった。


「朝……っ女の子と楽しそうに歩いてた」

「え、まじ?」


すると賢人は焦った様子で私に聞いてきた。


「つか見てた?話の内容は聞いてねぇよな?」

「聞いてないけど……」


「よかった~聞かれてたらまじどうしようかと思ったわ」


何……それ。

私に聞かれたくない秘密の話でもしてたってこと?


けっきょく、そうなんじゃん!賢人だって可愛い子の方が好きなんじゃん!


日ごろ溜まっていたイライラはこれをきっかけに爆発した。


「ふーん、そんなにその子といい感じだったんなら、その子と付き合えばいいじゃん!どうせ私になんか、賢人キスもして来ないんだし?」


イライラして、我慢できなくて嫌味を言い放つと彼は眉をひそめ、声のトーンを下げて言ってきた。


「あ?お前、それ本気で言ってんの?」


賢人は本気で怒る時、静かに怒る。


「そ、そうだよ!」

「自分がビビってくるクセに?」


ずいっと一歩、近づいてくる彼に後ずさりけれど、私はすぐにフェンスに追い詰められてしまった。


「ビビってないし!」

「よく言うよな、俺がキスしようとしたら避けるくせに。それ、お前が言っちゃうわけ?」


ぐっと近づいて来た彼の顔はもうすぐ先にあって目を逸らすことが出来ない。


「じゃあ、俺がしたいって思ってること、全部していいんだ?」


ぐっとあごを持ち上げられる。

かと思ったら賢人の唇が上から降ってきた。


「んぅ……っ!んっ」


それはいつものような優しいキスじゃない。

角度を変えてくり返される濃厚なキスだった。


「……んんぅ、けん……っと」


彼の胸を押し返してもビクともしない。

私の抵抗は無意味だ。


「ん……っ、や、だ」


すると突然ぱっと離されて私は解放された。


「ごほっ、ごほ……っ」


必死で酸素を取り込む私に余裕のある表情で私をみてくる賢人。


「俺は平気でお前にこういうことしたいと思ってるから」


──キーンコーンカーンコーン。


賢人から告げられたと同時になったチャイム。


私はその瞬間、彼から逃げだした。


──ドキ、ドキ、ドキ。


あんなことされるなんて思わなかった。


切なそうな表情と、賢人の艶っぽい顔が頭から離れない。


私は走って教室につく戻ると、机につくなり頭を伏せた。


あんなに真剣な顔……。


きっと彼も彼なりに、私のこと考えてくれていたんだろう。


『それ、お前が言っちゃうわけ?』


確かに、キスを反射的に避けてしまうのは私の癖になっていた。


その度に賢人が今日はやめとくかってやめてくれていたんだよね。

でも……別にしたくないからとかじゃなくて……。


……恥ずかしかった……だけだもん。


授業が終わり、私は賢人のクラスに向かった。


しっかり説明しなきゃって、せっかく付き合えたのにこのままじゃダメになっちゃうって思ったから。


今日は自分の気持ちをちゃんと伝えて謝ろうと思ってる。


賢人の教室に向かうと、教室の中には賢人と、その友達がいた。


どうしよう……。

どうやって話にいこう。


友達といる時に声をかけるのは邪魔しちゃうかな?


タイミングを見失って、賢人が一人になる機会をうかがっていると、彼の友達は言った。


「てかお前らまたケンカしたの?莉乃ちゃんとやっと付き合えたんじゃねーの?」

「そうだけど……アイツ素直じゃねーもん」


賢人、やっぱりさっきのこと怒ってるかな……。


きっと怒ってるよね。

勝手に帰ったし……。


「正直さ、莉乃ちゃん可愛いけど俺だったらもうちょっと女の子っぽい方がいいかなぁ~気強いしさ、素直じゃないと彼女としてはねぇ……」


──ズキン。

賢人の友達の言葉にうつむく私。


友達として、ならまだ素直じゃなくてもいい。


でも……賢人の彼女になった今もそんなことしてたらきっと彼だって、朝みたいな可愛い女の子のところに行ってしまうに決まってる。


私……いつか賢人に捨てられちゃうのかな。

じわっと涙が浮かんできた時、彼は言った。


「でもさぁ、俺さ……可愛く見えんだよなあ、すげぇ。なんか気強いとこも、素直になれないところも全部、コイツ可愛いなって思っちまうんだよ」


えっ……。


私はばっと顔をあげる。


「そりゃさ、素直になってもらいたいから、意地悪とかすんだけどさ、なんだろう、分かんねぇとにかく可愛いーの、うちの莉乃ちゃん」


賢……人!?


恥ずかしくて、でも意味が分からなくて顔を赤くしてフリーズしていると、後からやってきた彼の友達が言う。


「それ、本人の前で言ってくれる?」


その瞬間、ガラっと教室のドアを開いて賢人を呼び出す。


「あ、あの……」

「莉乃ちゃん全部聞いてたぞ。ここから先はどうぞふたりで」


って今、賢人と会うのは恥ずかしすぎるんですけど……!


するとさっき私のことを気が強いと言っていた人が言う。


「ごめんね、俺莉乃ちゃんのこと見えちゃってさ、莉乃ちゃんけなす気は無かったんだけど、賢人の気持ち試すためにさ」


「おい……っおま!」


「じゃあなー!後はふたりでごゆっくり~」


確かに、賢人の友達はこっち向いてたし、私が来たことに気がついてたんだ……。


バクバクと心臓が音を立てる。

すると彼は気まずそうに言った。


「まぁ、入れば……?」

「あ、あの……」


教室にはふたりきり。

ダメだ。恥ずかしくて言葉が出てこない。


「聞いてたろ?」


賢人は頭をかきながら言う。


「あれ、俺の全部。お前が可愛くて仕方ねーってことだから、んな顔すんなって」


そんな顔って……。


「泣きそうじゃん、お前」


私に近づいて来て涙を拭う賢人。

だって、嬉しかったから。


こんなに素直じゃない私も、受け入れてくれるのが本当に嬉しかったから。


「好き……っ」

「本当に?」


「賢人のこと、大好きだもん」

「ふっは、やっぱお前可愛いな」


賢人は私の頭をポンポンと撫でた。


「賢人って好きな人にはキスとか、すぐしてくるタイプだって思ったの……でも全然してくれないから、もしかしたらって……」


「そりゃ、したいって思うよ。でも好きな女が怖がってんのに無理やりなんて出きるわけねーだろ」


「賢人……」


賢人がぎゅっと私を包みこむ。

その温もりでこんなに愛されていたんだって気がついた。


「つか朝のだって、お前の話だったんだからな……」

「え?」


小さい声で拗ねたような口調でつぶやく賢人。


「一緒にいた子、お前のことモデルやってる時から好きで尊敬してるっつって褒めまくるから俺も嬉しくて……」


「な……っ、そ、そうだったの!?」


「そうだよ」


「でも腕組んでるように見えたけど……」


「はぁ!?腕なんか組んでねぇよ。あの子が莉乃に一目惚れした時のポーズをやってただけだろ。触れられてねぇし、触ってもねぇよ」


な、なんだ……。

遠くから見てたから私……勘違いしちゃってたんだ。


「だいたいお前のいないとこで俺が、お前のこと好きだって話してんの、めちゃくちゃ恥ずかしいだろ?だから話したくなかったの」


それであの時、聞いてないかって言ったんだ……。


「それなのに莉乃ちゃん拗ねちゃうし?」

「ご、ごめん……」


そんなこと考えもしなかった。


ずっと自信がなかったからかな。

可愛くない自分に……。


「まっ、いいけど。その代わり、今日は莉乃ちゃんからキスしてもらうか」

「えっ、そ、それは恥ずかし……」


「勝手に勘違いして怒ったのに、なにもねぇの?」

「さっきごめんって言った!」


「そっ、じゃあいいけど」


賢人がすくっと立ち上がると、そのまま背中を向けてしまう。


ヤバい……賢人が行っちゃう!


──グイッー。


私は彼の手を引っ張ると、こっちを向かせる。


そして……。


──ちゅっ。


賢人を引き寄せて自分の唇を押しあてた。


素直にならないと。

可愛くないと思われて賢人に嫌われるのは嫌だもん。


恥ずかしいのを我慢して彼にキスをする。


「す、き……だから」


そして真っ赤な顔して伝えれば、彼は驚いた顔をした。


「……っ、バーカ、それは反則だろ。断られると思って油断した……っ」


可愛い……。

賢人も照れてる。


賢人でもこんなに照れることってあるんだ。


「見んなよ、顔」


──ぎゅうー。


私は自分から賢人を抱きしめる。


「へへ、賢人あつい」


素直になったら、彼のかわいい姿が見られた。


間違えたり、ケンカすることもある。

だけど、そういう時はちゃんとごめんって謝って仲直りをすればいい。


その恋はもともとワケありだったから、いくらやり直せるの──。



―ENDー





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