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第37話:番外編 ①大人になった私たち

【美玖side】


カップルを入れ替えることになったり、入れ替えたカップル同士で付き合うことになったり、と色々あった私たち。


その後も莉乃ちゃん、賢ちゃんカップルとの付き合いも続きつつ、私と有川くんは正式にカップルになった。


カップルになってからは、考えることもなくもう順調?なんて思ってはいたんだけど、有川くんのことを狙うライバルがあらわれたりとか、気持ちが上手く通じなくてすれ違ったり……。


そんな細かいことがありつつも、順調に交際をしていた。


そして、その後もお付き合いを続けて私たちは、高校を卒業した。


私は文系の大学に進むことになったのだけど、有川くんは医者になるという夢があるため、理系の大学へと進学した。


大学は別々になってしまったけれど、本音が言い合える今の私たちなら問題なく付き合いが続いていくのだと思っていた。


しかし、現実はそう上手くはいかなかった……。


「別れた!?」


私がアルバイトをしているバイト先のカフェで大きな声が響き渡る。

その声の主は莉乃ちゃんだった。


私たちは別々の大学に進学することになったんだけど、高校生のカップルチェンジが終わった後からとっても仲良くなった。


もともと友達のいなかった私は女子の友達と話せることが嬉しくて、恋の相談とかで二人で遊びに行くことも増えていた。


大学では別々になってしまったんだけど、アルバイトは同じところでやろう!という莉乃ちゃんの提案から、このカフェで二人とも働くことになった。


莉乃ちゃんはモデルの活動をしながら、大学に通ってこのカフェでもアルバイトをしている。


「どういうことよ、美玖ちゃん。潤と別れたって」

「うん……私もこうなっちゃうとは思わなかったんだけどね」


お客さんがあんまりいない隙を見て、私は別れた経緯を話し始めた。


今から1カ月前。

大学1年生になり、最初こそバタバタしたもののだんだん学校に慣れてきた私。


元々文系だったので、授業はありつつもそれが終われば自分の時間を確保出来た。


だからアルバイトもやってみようって思えたんだけど、有川くんは違った。


『潤くん、次っていつ会えるかな?』


なかなか会えない彼となんとか電話が通じて、浮かれてそんなことを聞いたのだけど……。


『うーん、授業と研究が忙しいんだ。すぐにテストがあるから勉強もしないといけないし……でもまぁ、どこか調整すれば……』


有川くん、そんなに忙しいんだ……。


文系と理系って全然忙しさが違うっていうもんね。


『うん、分かったよ!全然大丈夫だから頑張ってね』


私は彼の夢の邪魔をしないように、わがままを言わないようにした。


本当は会いたい。

もっと普通の大学生みたいに、ちょっと遠出をしてみたり、お泊りで旅行に行ってみたりしたい……。


でも有川くんは夢に向かって頑張っているから。


彼女が応援しないわけに、いかないもんね……。


そうやって我慢をしているうちに、どんどん会う日も電話の回数も減ってしまった。


メールも有川くんに気を遣わせないように、出来るだけ送らないようにして、電話も控えるようにして……。


そんなことをしたら、ほとんど連絡をとらない生活が続いてしまった。


もう1カ月も連絡してない。

こんなんで付き合ってるっていうのかな……。


私は自分に自信を無くすようになっていた。

有川くんは元々、誰かと付き合いたいわけじゃなかった。


でもそれを私のわがままを聞いて付き合ってくれていたんだもん。


忙しくなったら私なんかどうでもいいって思うよね……。


「はぁ……」


大学を出る時、深くため息をついているとサークルが同じ佐山くんが話しかけてきた。


「よっ、美玖。どした?」


佐山くんは私と同じテニスサークルに入っている男の子。

私も運動くらいはしないとと思って、一番興味のあったテニスサークルに入った。


そこで優しく声をかけてくれる人だった。


「なんか悩んでんの?最近浮かない顔してんじゃん」

「そうなんだよね……」


「俺で良ければ聞くけど」

「実はね……」


私は付き合ってる彼氏と全然連絡が取れていないことを話した。


「そっかぁ、会えないってツラいよな」


佐山くんも田舎から東京の大学に出てきていて、高校生の頃に付き合っていた彼女と今は縁距離恋愛している。


「俺も会いたいのに、会えないのがもどかしいんだよな」


私は……会える距離にいるんだけどね……。


家だってそんなに遠くないから、行こうと思えば行けるはずだ。


でもそれで、有川くんの邪魔になったらと思うと……心が痛いんだよね。


「本当に私でいいのかなって思っちゃう。有川くんは今、忙しいから本当は別れたいって思ってるんじゃないかなって……」


不安を口にすると佐山くんは言った。


「でもそれって全部美玖の想像だろ?話してみたら全然違うかもしんねぇじゃん。それはちゃんと相手に聞きに行った方がいいじゃねぇの?」


「そうだけど……話すのも迷惑かもしれないし」


「迷惑かもって言ってたら、何も出来ねぇじゃん。それにね、男はね彼女のしてくれることだったらなんでも嬉しいわけよ。わがままでも嬉しいし、独占欲とかちょっとメンドクサイことさえても可愛いなって思っちまうわけだよ」


佐山くんは鼻をポリポリとかきながら言う。


彼女さんのこと思い出してるんだろうな。


「わがまま行っても、いいのかな」

「ああ!当然よ」


胸を張って言った佐山くんは、はっと何か思いついたように言った。


「じゃあさ、勇気出せるように相手になにかプレゼントでも買って帰ろうぜ」

「それ、いいかも……」


有川くんに渡すんだって思ったら、私も自信がつくかもしれない。


こうして私と佐山くんは近くのショッピングモールに向かった。


最初は佐山くんが買いたいものを見に雑貨屋さんに。


佐山くんは彼女にキラキラしたネックレスをプレゼントするみたいだった。


「美玖は?」

「有川くんは、こういうのあんまりしないから……お菓子でも作ろうかなって思ってる」


「それめっちゃいいじゃん!」


有川くんは最初こそ甘いものが苦手だと言ってたものの、私と一緒にいるようになってから甘いものを食べることが増えてきた。


勉強のあいまに食べると、頭がすっきりするとも言っていたからクッキーとか焼いてもいいかも。


私たちはふたりで食品コーナーに向かった。


クッキーの材料と、ラッピングできそうなものを買うと、有川くんに会えるのが楽しみになった。


クッキーなら少し差し入れのつもりって言って会える口実になるもんね。


買い物を終えた私たちは駅まで一緒に帰って、その日は別れた。


夜、家に行ってすぐにクッキーを作り始めた私。

クッキーは高校生の頃に作った以来だったから、作るのが楽しかった。


こうやってわくわくするのも久しぶりかもしれない。

潤くんに会えない寂しさをずっと押し込むようにしてたから、今はなんだか嬉しいや。


こうして、クッキーが完成した。


連絡すると潤くんが時間を作ろうとして負担になってしまうかもしれないと思った私は、直接有川くんの学校に行くことにした。


校門の外で有川くんが出てくるのを待っている。


潤くん、どのくらいでくるかな……。


いつも学校を出るのは19時くらいになっちゃうって言ってたからそのくらいに来たけど、もう帰ってたりする……!?


ドキドキとソワソワが同時にやってくる。


そしてもう数分待っていたいた時。

ついに潤がやってきた。


彼はひとり校門から出てきた。


「あ、有川くん……!」


私が声をかけると、潤くんはビックリした顔をする。


いつも潤くんって呼んでるのに、緊張して苗字になっちゃった!


彼は校門から出ると、ピタリと止まった。


なんだか久しぶりに潤くんの顔を見た気がする。


忙しいと言っていた通り、目にクマがあってちょむと辛そうだった。


「あ、あのね。今日はちょっと渡したいものがあって……来ちゃったの」


緊張気味に言うけれど、潤くんとの距離はなんだか遠くて緊張してしまう。


どうしよう。もしかして潤くん、勝手に学校きたの怒ってる……?


「渡したいものってなに?」


潤くんがたずねる。

私は、彼にクッキーを差し出した。


「これ……」


そう言ってキレイにラッピングしたクッキーを差し出す。


しかし、何も反応がなくて、私は緊張を誤魔化すようにしゃべり続けた。


「あ、あの……昨日ね。クッキー作ってみようと思って買い物して、作ってみたの。潤くん喜んでくれたなって……突然来て申し訳ないんだけど……」


まとまらない言葉を、ぽろぽろと繋げていた時、潤くんは言った。


「……いらない」

「えっ」


「いらないから」


私はその場でフリーズした。


いらない……。


「用事はそれだけ?僕忙しいから帰るよ」


そして私の横を通り過ぎると、そのまま帰り道を歩き出してしまった。

有川くんの背中を見つめて、ぎゅっと唇を噛みしめる私。


そっか……それが有川くんの答えなんだね。


有川くんは、もう私なんていらないんだ……。


研究で忙しくなったから、きっと私という存在が邪魔になったんだろう。


じゃないと、そんな迷惑そうな顔しないもんね……。


泣きながら帰った帰り道。

私は有川くんと分かれることを決めた。


このまま一緒にいても私たちは上手くいかない。

だってそもそも潤くんが私を求めていないから。


元々潤くんは私と付き合うごっこをしていただけ?

それで、他に大事なものが出来たら私はいらないのかな?


もう学校を卒業して離れたから、それで終わりなのかな。


悲しくて、苦しい……。

最初から潤くんは私なんて見てくれていなかった。


それから潤くんにはメッセージを送ることにした。


悩みに悩んで送った文章は、短いもので……。


【別れよう。今までありがとう】


それだけだった。

そして有川くんからの返事を待っていると、その返事はすぐにきた。


【分かった】


彼からのメッセージはただそれだけだった。


「それ、だけ……っ」


そっか、そうだよね。

有川くんにとっては私は対して大事じゃなかったもんね。


こんなあっけなく関係って終わっちゃうんだ……。


付き合うのは大変だったのに。

遠回りして、たくさん悩んで答えを出したのに、こんなにも簡単に崩れてしまうんだね。


「苦しいよ……」


好きな人と別れるのってこんなに苦しいんだ。


私、こんな気持ちになるなんて知らなかったよ……。


それから1週間は毎日潤くんのことを思い出して泣いていた。


思い出も整理することが出来ず、そのまま家にある写真や、潤くんからのプレゼントを見る度に涙がにじんでしまった。


そんな話をし終えると、莉乃ちゃんは大きな声で言った。


「潤のやつ……許せない!そんな態度……私がガツンと言ってやるわよ!」

「い、いいの……それが有川くんの求めていることだと思うから」


「だからって……」


莉乃ちゃんは私の代わりに怒ってくれた。


しかし、そのうちにお客さんが来てしまって私たちは仕事をすることにした。


それから数時間後──。


「ふぅ~終わった」


お店を閉めてから片づけをして、カギをしめた私たち。


今日の遅番は私と莉乃ちゃんだけで、私は莉乃ちゃんと一緒に帰りながらさっきの続きを話していた。


「なんでふたりが別れることになっちゃうんだろう……」


莉乃ちゃんは寂しそうに言う。


「しょうがないよ。大学生になっても続いてるカップルって稀だって聞くし。私たちは上手くいかなかったんだと思う……」


「確かにねぇ、何かと時間が合わなくなったりはするのよねぇ」


莉乃ちゃんはきっと賢ちゃんのことを考えているんだろうな。


賢ちゃんと莉乃ちゃんも違う大学に進学することになった。


莉乃ちゃんは、モデル活動もあるし賢ちゃんは週に3日活動があるフットサルサークルに入ったなんて言ってたから、デートする時間とか確保するのは大変だよね。


「潤もさ、クッキーいらないなんてどうして言ったんだろう」

「それは私への愛が冷めてたからだと思う……」


うう、自分で言うのはもっとツラいよ……。


でもきっとそうだ。

潤くんのあの時の目……すごく冷たくて冷め切った目だった。


「本当にそうかな?なんか結構前にあった時、潤の待ち受け美玖ちゃんだった気がするのよね」


「それは何かの見間違いかと……」


有川くんがそんなことするわけないよ。


付き合ってる時でさえそんなことしていなかったし……。


「でも美玖ちゃんはそれでいいの?」


莉乃ちゃんの言葉に私は考えて答えを出した。


「……う、ん」


私は静かに答える。


「有川くんが、別れたいって思ってるなら……私は邪魔になっちゃうから、それでいいんだ」


だって決意したから。

彼の邪魔になるくらいなら、私が我慢してお別れするのが一番いいの。


私の言葉に、莉乃ちゃんは立ち止まった。


「美玖ちゃんのそういうところ、よくないと思う」

「えっ」


「美玖ちゃんが優しい子だってことは分かるよ。でもさぁ、ずっと自分の気持ちを押し殺してたら、大事なものも本当に自分の前からいなくなっちゃうよ?」

「莉乃、ちゃん……?」


莉乃ちゃんからの厳しい言葉に私は唇をかみしめる。


「どうしてハッキリ言わないの?嫌だって!なんで急に冷たい態度とるのってしっかり聞かないでお別れしちゃうの……?潤が100パーセント悪いけど、美玖ちゃんだってよくないよ」


ズキン、と心が痛みだす。

ずっと我慢していた気持ちが涙とともにこぼれていく。


「だって……っ、怖いから。もういらないって直接言われるの……怖いんだもん」


ぽたりと目から涙がこぼれて地面に落ちる。


「莉乃ちゃんは、分からないよ……。だってずっと賢ちゃんとラブラブだもん!賢ちゃんは察してくれるし、莉乃ちゃんは言葉に出来る。だからふたりとも、進路が変わっても上手く行ってるし、もっと信頼しあえる関係を築いてる……そんな莉乃ちゃんに私たちのことなんか、分かるわけない……っ!」


いつの間にこんなに感情がたまっていたんだろう。


はじめて人の前でこんなに大きな声を出したかもしれない。


驚いた顔をする莉乃ちゃんの顔を見て、私ははっと我に返った。


「ご、ごめん……」


莉乃ちゃんのことを傷つけた。

こんなの、ただ莉乃ちゃんにあたってるだけだ。


なんでこんなことしちゃうんだろう……。


私はその場にいられなくなり、莉乃ちゃんに背中を向けて走り去った。


「美玖ちゃん……!」


本当はこんなの、望んでいなかった。

潤くんとずっと一緒にいたかったし、彼を支えるような彼女でいたかった……。


それなのに、どうしてこうなっちゃうんだろう……。





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