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第34話

 週末。一馬達家族は動物園の帰りに駅まで歩いてた。

「やっぱりいなかったねー」

「そうだねえ」

 未来はピカチュウを見つけられなかったことを悔やんでいたが、妻の恵は笑っていた。

 一馬はいるわけないだろと思いながらもこういった体験が子供には必要なんだと考えてていた。現実というのはいつだって思い描いていた方向には向かわないものだ。

 ふと一馬が顔を上げると近くのビルで工事をしていた。足場が歩道の端を占領している。

(危ないな。ちゃんと組めてんのか?)

 今や工事の足場はロボットが組み立てることが当たり前だ。だがロボットを使うのはいつだって人間だった。費用の削減のために材料を減らしたり、早く組むために本来義務づけられているセーフ機能を解除したりする場合がある。

 一馬が心配しながら足場を見ていた時だった。突如として突風が吹き、見ていた足場がビルから離れる。

 一馬はハッとして前を向いた。妻はすぐそばにいた。だが娘の姿は見えない。目線を奥に向けると未来は一人で歩道を走っていた。楽しげに笑ってこちらへと振り向く。

 そこへ足場が落ちてきた。

 一馬は呆然として立ちすくむ。そして妻の悲鳴で我に返った。

「……未来。ああ……くそ! 嘘だろっ!」

 一馬は体から力が抜けるのを感じたが、それでも電脳義足のおかげで素早く娘の元に駆け寄った。センサーが察知したのか、遠くで救急車のサイレンが鳴っていた。

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