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2章…第6話

仕事を終えていつも通り家に帰って、玄関を開けながら「ただいま」と声をかけたのに。


続く廊下は真っ暗…

ほのかに香るホワイトムスクが、開け放たれた嶽丸の部屋のドアから香って、彼が留守にしていることに気づく。


「遊びに…行ったのかな」


嶽丸が何の連絡もせずに出かけるのは初めてのこと。なんとなく感じる胸騒ぎのような寂しいのような、複雑な気持ち。


ポトリとバッグをソファに置いて、いつも嶽丸が料理しているキッチンを見る。

今日は当然、明かりも消えて誰もいない。


とたんに、食欲も失せる。


「…どこに行ったんだろう」


そう考えるのは、引き受けてもらったヘアショーのモデルとして、イメージやコンセプトを擦り合わせたいからと考えてみた。


確かにそれを話そうとしていたのは確か。


でも、ふさいでしまうような気持ちは、それだけじゃないと…素直な私が心のどこかで教えてる。



お風呂に入ってワインを飲みながら、食事とも言えないようなものをつまんで、眠くなるのを待つ。


嶽丸がいればすぐにウトウトするのに…いつの間にか私は、この部屋が広すぎると感じるようになっていた。


いつもよりかなり早い時間だけど、そろそろ寝ることにする。そして…たまには自分の部屋で寝ようと思いついた。


…もし、嶽丸のベッドで寝て…朝まで帰ってこなかったら。

今の私は、きっとすごく寂しく思うだろう。


…でも、無理はしない。


私は嶽丸の部屋に脱いであるTシャツを手にして、自分のベッドに戻った。


Tシャツは、ほのかなホワイトムスクと嶽丸だけがまとう香りがする…

いつからこの香りに安心するようになったのか考えながら…


この香りがなくなったら…私はやっていけるのか不安になった。


そんな自分の思いに身震いがする。


「私に、そんなことを考える資格はない」


私は悪い子だから…家族をバラバラにした、悪い子なんだから。



ガチャンっ…と音がしたのはその時。


続いて「美亜ー愛してるぞー」という、THE酔っぱらいの声。


そっと覗くと、嶽丸が玄関先で仰向けに寝ている。

ずいぶん酔っ払ってるみたいだ…。


「ちょっと嶽丸、どうしたの?」


らしくない酔い方をする嶽丸に聞いてみれば、甘い目線を投げながら私に手を伸ばす。



「遊んできた…!仲良くしてる女の子と…」


「そ、そうなんだ。それで、こんなに飲んでるの?」


「んー…酔ってヤると気持ちいいんだよな。いつもの3倍増し!」


「あ、遊ぶって…そっちのこと?」


思わず伸ばされた手から逃れようとした。


「あー…何で避けるんだよ?俺に遊べって言ったの、美亜だろ?」


デヘヘ…と笑う酔っぱらいの笑顔も、嶽丸だと全然汚なくない。

逆にすごくエロくて、危険…。

ちゃんと見れないかも。


「そ…そうだったね!じゃあ、スッキリしたところで、今日は広々したベッドで寝て?!」


近くに水のペットボトルだけ置いて、私は自分の部屋に戻ろうとした。



「待てよ…」


パッと手首を捕まれて引き寄せられる。


「美亜ともしたい…まだ満足してない…」


抱きしめる手がやけに色っぽく背中を撫でるので、私は強引にその手を振りほどいた。


「…それはさすがに嫌…」



「…じゃあ、触るだけ…」


いきなりきわどい場所に届く手に、ひゃあ…っと、変な声を上げてしまう。



「…美亜」



大胆な刺激に顔を赤くする私を、嶽丸が妖しい目で見つめる。

ゴクリと喉仏が動いて、その目がだんだん苦しそうになっていくのを、高められる快感の中で見ていた。



「ふふ…俺の指で、イきそうになってる」


「…あ…やめ…て、たけ…まる」



他の女の子とそういうことしてきた直後に触られるのはさすがに嫌だ。

…でも、お互いに縛り合わない関係なら、嶽丸を責めることはできない。



いつか偶然会った赤い車の女性が頭に浮かぶ…

あの子にも、こんなことしてるの?

そういえば、キスしてた。

何でもないことみたいに…されるがままになってた。



「…やっぱムリ…我慢できない」



見たことないほど男の顔になった嶽丸から初めて…すべての余裕が消えた気がした。


体がふわりと浮いて、次の瞬間背中に当たるのは、嶽丸のベッドのシーツ。


…他の子と交わった後に抱かれるなんて嫌だ…と言いながら、自分自身も待ち望んでしまう淫らな気持ちに泣きたくなる…


片手で私を逃さないように抱きしめ、片手で準備をして容赦なく入ってきた瞬間…私は自分でも驚くような叫声をあげてしまった。




………


誰とも、シてないから…

美亜だけだから…


愛してる…美亜…

俺だけの美亜…



私の上で余裕なく動く嶽丸が、妖艶な声で耳元でささやいた言葉は…


夢?それとも現実?



目を覚ますと、隣に嶽丸はいない。

窓の外が明るいから、もう朝になったんだなってわかるけど、昨日のことは…


体を起こすと、そこは嶽丸のベッドで、昨日のことは現実だったと理解した。



「…起きたか?ほら朝飯。今日はたまご雑炊だよ〜ん?」


「…そんなことより!」


「…あーハイ」


「セフレって関係なら仕方ないかもしれないけど、他の子との後、日にちも空けないでされるのは嫌だ」


「…ん」


ちょっと口をとがらせて、少し不満そうな顔はムカつく!…けど可愛い。


「もしかしてさぁ、ヤキモチ妬いてない?」


「え…?」


「俺は美亜に、俺以外に癒されるなって言ってるんだから、俺もそうしようか?」


そう言われてちょっと嬉しくなって…引き寄せられた腕に逆らえず、その胸におさまってしまう。


ホントチョロいって…自分でも呆れながら。


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