「…これで来年も、入社希望の新卒は後を絶たないでしょう!」
慎吾先輩がケンゾーに笑顔で話しかけると、その目が私の隣にいる嶽丸に注がれる。
「…今年は特に、嶽丸くんの圧巻のカッコよさが際立っちゃったね。今回の動画、バズっちゃうんじゃないか?」
「…そう、ですね。…すでに再生回数、5桁です」
ケンゾーと慎吾先輩の話が耳に入り、私も目を見開いて驚いた。
「ねぇ!ちょっと聞いた?5桁の再生回数だってよ?…どうする?」
興奮気味に言う私に、たいして興味なさそうに、曖昧にうなずく嶽丸は近くの席に腰を下ろす。
「…ちょっとやり過ぎたかなぁ…会社とか突き止められて、出待ちとかされたら困るんだよなぁ」
「出待ちって会社に来ちゃうってこと?」
「そ。で…騒がれたりしたら、上司に呼び出し食らっちゃうわけ」
そうか…身バレしないように配慮しないと、嶽丸に迷惑をかけちゃうんだ。
私は慎吾先輩に嶽丸のプライバシーの保護を頼みに行こうと席を立とうとした。
「なに?どこ行くん?」
「え?慎吾先輩のとこ。嶽丸のプライバシーを厳重に守ってもらうようにって、言ってくるよ」
「…そんなのいいから、隣離れないで」
「なにその人見知りみたいな発言…人懐っこい大型犬嶽丸はどこ行った…?」
「…人見知りでも大型犬でもないけどな?女たちに狙われるのは勘弁して欲しいだけだわ」
狙われる…?
そっとあたりを見渡してみると、確かに大半の女子の視線が、チラチラとこちらに向いているのがわかる。
今回の打ち上げは、協力企業の担当者たちと各店からの出場者とヘルプスタッフ、そしてモデルたちといった人たちが集まっている。
…ざっくり見て…女子は8割。
そのほとんどが嶽丸を見ているのだから、狙われていると嶽丸が思うのもうなずけた。
「人懐っこい大型犬じゃなくて、俺は美亜にだけ慣れるポチだって、わかってる??」
「…そ、そうなの?」
ちょっと甘いポチ発言の嶽丸を見れば、さっきステージにいた時と変わらずカッコいいポチがそこにいる。
「霧島ディレクターがそばにいれば、俺に近づけないんだろ。…試しに離れてみる?俺もみくちゃにされるかも…」
そう言われると心配になって離れられなくなるんだけど…。
「でも…モテまくるのなんて、慣れてるんじゃないの?女の子は大好物なんでしょ?アプローチされたら…美味しい思いできるとか、思わないの?」
「あのな、人を肉食みたいに言うなよ?」
「…肉食じゃん」
「まぁ…そうだけど、しっかり選んで食う肉食なんだよ!」
言いながら、テーブルの下でギュッと手を握ってきたので、突然のことでビックリしてしまう。
「俺が食いたい肉は、美亜の肉だけだから」
テーブルの下で、手だけではなく膝もコツン…とくっつける嶽丸。
思わず嶽丸を見れば、その目には焦るほど私しか映ってなくて…
「…怖い…食われる」
「怖くない。優しく食う」
「……」
嶽丸の手が、スカート越しに膝を撫で始めたので…ちょっと焦る。
なんなん?!この2人の世界は…?
そこへ、グラスを手にしたゲンゾーがやってきた。