「最後に。美味しいとこを持ってちゃうのは…イケメン嶽丸〜…come on!」
残るモデルは1人になり、司会者がもったいつけるように、嶽丸の名前を呼んだ。
それを合図に、衣装替えのためのカーテンをパッと翻して出ていったのは完全にアドリブ。
嶽丸は1人堂々とステージに立った。
さっきの女装とはまったく異なる、男としての魅力を前面に押し出すために…私が選んだのはスーツ。
実際…初めて見る嶽丸のスーツ姿は、予想以上にカッコいい。
光沢のある渋めな色合いのシルバー。歩くたび、服に陰影を作って、あえて抑えめな柄のネクタイと共に、大人のオトコの雰囲気を醸し出している。
長い足がゆっくり動いて、ステージの先まで行き、軽くポーズを取ってこちらに戻ってくる嶽丸。
合間にチラリと横顔を見せる事も忘れない。
ステージを見守るすべての女性が嶽丸に魅了されていたと思う。
ため息が出るほどカッコいい…
…嶽丸にモデルになってもらって本当に良かった…。
感動していたところへ…戻ってきた嶽丸が、そのまま私を抱きしめたから…キャーッ…っという黄色い声とどよめきが起こる。
なのにそんなことに驚きもせず、嶽丸は私の耳元に唇を寄せた。
「…終わったな。おつかれ美亜…」
いつもよりさらにカッコいい嶽丸に、私はちょっと硬直して赤くなる…
「…なんか、マジの恋人っすか?」
同じステージ上にいる谷村康介が、意味深な目で抱きしめられてる私を見るけど、そりゃそう思うよね。
でも、抱きしめてくれる嶽丸の腕が心地よすぎて押し返せない…
………
審査の結果、今年の優勝は谷村康介。
惜しみない拍手でその確かな技術を称え、ショーは終わりを迎える…はずだった。
「…今年はもう1組、特別賞に輝いた人がいます。それは…」
司会者がこちらを振り返って、パッと私と嶽丸を指さす。
「美亜…&嶽丸ペア!」
それはモデルとして最高にカッコよかった嶽丸への賞だと、私は嶽丸に向かって拍手した。
それなのに、嶽丸も私に向かって拍手をしてくれるから…
ちょっと恥ずかしいけど、ステージの上で泣いてしまった。
今年のヘアショーは、アーティストと運営、2つの役割をこなさなければならなくて…初めてのことに大いに戸惑った。
それに加え、和臣とのまさかの別れがあって、本当にこの日を迎えるまでしんどかったことを思い出す。
いつまでも続く拍手のなか、その音に紛れるように、私は嗚咽を漏らしてしまったんだ。
………
「今年も無事に、ヘアショーが終わりました!…乾杯っ!」
ケンゾーがグラスを掲げ、関係者が集まった打ち上げの会が始まった。