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2章…第10話

「最後に。美味しいとこを持ってちゃうのは…イケメン嶽丸〜…come on!」


残るモデルは1人になり、司会者がもったいつけるように、嶽丸の名前を呼んだ。


それを合図に、衣装替えのためのカーテンをパッと翻して出ていったのは完全にアドリブ。


嶽丸は1人堂々とステージに立った。


さっきの女装とはまったく異なる、男としての魅力を前面に押し出すために…私が選んだのはスーツ。


実際…初めて見る嶽丸のスーツ姿は、予想以上にカッコいい。


光沢のある渋めな色合いのシルバー。歩くたび、服に陰影を作って、あえて抑えめな柄のネクタイと共に、大人のオトコの雰囲気を醸し出している。


長い足がゆっくり動いて、ステージの先まで行き、軽くポーズを取ってこちらに戻ってくる嶽丸。

合間にチラリと横顔を見せる事も忘れない。


ステージを見守るすべての女性が嶽丸に魅了されていたと思う。


ため息が出るほどカッコいい…


…嶽丸にモデルになってもらって本当に良かった…。


感動していたところへ…戻ってきた嶽丸が、そのまま私を抱きしめたから…キャーッ…っという黄色い声とどよめきが起こる。


なのにそんなことに驚きもせず、嶽丸は私の耳元に唇を寄せた。


「…終わったな。おつかれ美亜…」


いつもよりさらにカッコいい嶽丸に、私はちょっと硬直して赤くなる…


「…なんか、マジの恋人っすか?」


同じステージ上にいる谷村康介が、意味深な目で抱きしめられてる私を見るけど、そりゃそう思うよね。

でも、抱きしめてくれる嶽丸の腕が心地よすぎて押し返せない…



………


審査の結果、今年の優勝は谷村康介。


惜しみない拍手でその確かな技術を称え、ショーは終わりを迎える…はずだった。


「…今年はもう1組、特別賞に輝いた人がいます。それは…」


司会者がこちらを振り返って、パッと私と嶽丸を指さす。



「美亜…&嶽丸ペア!」



それはモデルとして最高にカッコよかった嶽丸への賞だと、私は嶽丸に向かって拍手した。


それなのに、嶽丸も私に向かって拍手をしてくれるから…


ちょっと恥ずかしいけど、ステージの上で泣いてしまった。


今年のヘアショーは、アーティストと運営、2つの役割をこなさなければならなくて…初めてのことに大いに戸惑った。


それに加え、和臣とのまさかの別れがあって、本当にこの日を迎えるまでしんどかったことを思い出す。


いつまでも続く拍手のなか、その音に紛れるように、私は嗚咽を漏らしてしまったんだ。



………


「今年も無事に、ヘアショーが終わりました!…乾杯っ!」



ケンゾーがグラスを掲げ、関係者が集まった打ち上げの会が始まった。



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