「…オーナー、こんなところにいたんですか?」
必死に手を振る私に気づき、慎吾先輩も私たちと同じテーブルについてくれた。
若干空気が緩んだ気がして…ホッとする。
「嶽丸くんにどうしたらモテるか聞いてたんだよ」
すると慎吾先輩、私に突然爆弾を投下してきた。
「そうだ…俺も聞きたかった!美亜は嶽丸くんと付き合ってるのか?」
「…え?」
酔ってすわった目線を向けてくるケンゾー。
どう言ったらいいだろう。
付き合ってないなんて言ったら、ケンゾーの変なアプローチが始まるかもしれないし…それは遠慮したい。
付き合ってるなんて言ったら、自分からセフレ認定したのに、嶽丸になんだコイツって思われる。
「ええっと、その…」なんてモゾモゾしていれば、まるで簡単なことのように、嶽丸が返事をした。
「今は、俺が美亜を全力で口説いてるところです」
「へぇ…そうなんですか?…さっきステージでは、完全に恋人っぽかったけどね?」
慎吾先輩…なんだか楽しそう。
するとケンゾーが、少し姿勢を正しながら言う。
「じゃあ俺は…それを全力で阻止しようかなぁ…」
「おいおい?!なんだよ美亜…お前モテ期来てるじゃん?」
ケンゾーの宣戦布告とも取れる言葉を聞いて、慎吾先輩は更に楽しそうだ。
「いや…その、どういうことでしょう…?」
困る…。
嶽丸はともかく、ケンゾーからのアプローチって、それは…私を女性として見てるってこと?
わぁ〜…仕事がやりづらくなる、としか思わない。
そこでハッと思いついた。
「あの…オーナーに憧れてるスタッフ、たくさんいるの知ってます?」
それこそ私よりずっと若くてピチピチで、可愛い女性スタイリストたち。
銀座店だけでなく、他の店舗にだって、ケンゾーのファンは多い。
「…そうなのか?」
「はい!名前を出すのは避けますが、実際ケンゾーはカッコいいし仕事ができるしお金持ちだって…皆言ってますよ?!」
「ケンゾーが金持ち…」
あ…!本人にケンゾー呼びしてしまった…と、気づいたときにはもう遅い。
「す、すいません…。ケンゾーなんて呼び捨て…」
「いいよ」
「…は?」
「美亜にだけは許す。これからはケンゾーって呼んで」
えー………。
今までの私の努力っていったい…。
そこで大きなため息が聞こえて、私はふと顔を上げた。
「そろそろ行くか」
仏頂面の嶽丸だった。
…とりあえずここは、帰ったほうがいいかも。
私は立ち上がる嶽丸に続いて、何か言いたそうなケンゾーを無視し、笑い出しそうな慎吾先輩に目で挨拶して、店を出た。
それにしても…
ケンゾーが私に特別な思いを抱いているというのは、間違いなさそうだ…