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2章…12話

「疲れたろ?準備に1ヶ月以上か?」


「そうだね…あっという間だったけど、今年はいろいろあって…」


「ステージで泣いてたのはそういうことか」


「バレてた?…なんか恥ずかしい」



家に帰ってきて、お風呂が沸くまでの間…と言って、マッサージをしてくれる嶽丸。


肩から腕までの凝りがほぐれてとても気持ちがいい…!



「…なんか私ばっかりごめん…」


「何が?」


「マッサージ…嶽丸も疲れてるでしょ?」


「うーん。俺の場合は疲れてるっていうか、溜まってる」


「…はぁ?」


「だからお礼にマッサージしてくれるなら、ソコを頼みたい!」



あ〜あ…やっぱり言うことが嶽丸だよ。


ちょっと呆れて無言でいれば、そんな私に気づいてるのかそうではないのか、嶽丸がのんびり口を開く。



「俺が美亜にマッサージするのは、いわゆる口実だな。…どこでもいいから触りたいからしてることだ」


…だから気にするな…って明るく笑うけど、どう反応したらいいか普通に迷うよ?



ついさっき、ステージを威風堂々と歩いていた嶽丸を思い出す。

あの時、怖いくらいカッコよかった人と、2人でここにいるなんて…ウソみたい。


軽〜く芸能人を見てる気すらして、そんな自分の色眼鏡が恐ろしい。



こんなにカッコいいくせに、平気でどエロ発言してくるのが嶽丸なんだから…しっかりしろ、自分。


…黙ってれば文句のつけようがないイケメンなのになぁ…




「明日、本当に行くの?」


ヘアショーが終わったら休みを取るという嶽丸との約束を守り、明日から3日間の有休を取っている私。


詳細は教えてくれないけど、嶽丸が旅行の計画を立ててくれているはず。


…なんだけど、細かい話はなにも聞いてないので確認してみた。



「もちろん行くぞ。明日、朝早く出発するから、今日はエッチできない」


「わ、わかってるよ!そんなこと、期待してないしっ!」


もぅっ!言うことがイチイチ嶽丸でムカつく!


プリっと怒ってみれば、ヘラリとした笑顔を浮かべたまま、嶽丸はマッサージしていた腕を急に引っ張ってきた。そして、その腕のなかに私を閉じ込める。


「2人っきりで…のんびりしような」


しようって…するってこと?

勘ぐってしまう私は、ここでもまた返事に困ってしまう。


でもきっと、嶽丸に仕掛けられたら拒否なんてできなくて、すごい高みにまで連れていかれるんだ…


なんて、アダルトに考えるのは、やっぱり私も嶽丸に相当かぶれているせいなのかもしれない。




ピロピロ…♪と、お風呂が沸いたと知らせるメロディ。


「ほいっ!風呂沸いたから入っておいで!」


嶽丸が私を閉じ込めた腕を開くから…なんとなく名残惜しい気持ちになってしまって。

ホント私も、しょうもない。



……………


翌朝は快晴!

梅雨明け後だけど、夏休み直前の平日のせいか、道路が混んでいなくて助かる。



「この感じだと、向こうもすいてそうだな」


「それで…これから私はどこに連れていかれるの?」


「んー…どこだと思う?」


まだ教えてくれないのか…と思いながら顔を見上げると、ちょうど信号で停まった嶽丸にキスをされた。


チュっと音がして…少し恥ずかしい。


「自然豊かなとこよ〜?…人が少なかったら、青かんもし放題!」


「青かんって…え、?!」


意味がわかって焦る…!

外で…ってことだ。

ったく…!昨日からイチイチ変なことばっかり言うのやめてほしい…。


顔を赤くして仏頂面をしてみれば、嶽丸がそんな私を見て笑う。


その後も、何でもスケベに話を変換させる嶽丸に、呆れたり怒ったりするのを通り越して笑ってしまう。


これはある意味才能で、これが嶽丸の話術なのかも…とさえ思った。



「お待ち~到着したよん」


嶽丸が車が乗り入れたのは、海が見える場所にあるグランピング施設。



「わぁ…なにこれ?」



足元は、カーペットみたいな一面の緑。

大きな木があちこちに立っている広大な草原のような場所だ。


キャンピングカーやコテージなどが立ち並ぶ宿泊施設が見えて、私たちが泊まるのはテントらしい。


「気持ちいいとこだね!」


車は泊まるテントのすぐそばに置けて、テントから繋がる日除けの下には、BBQが出来るようにテーブルと椅子がセットされている。


荷物を置きながら、興味深々でにテント内も見てみると、そこにはWベッドがひとつ…。


ちょっとあたりを見渡してみると、他のテントはシングルベッドが2つ、というところが多い。


ちゃんとダブルベッドを指定するところが、嶽丸だな…ってつくづく思った。


「受付の売店でBBQセットを頼めるみたいだぞ。美亜は何にする?」


そんなダブルベッドに座って案内を読む嶽丸。


「何にするって、BBQセットって1種類じゃないの?」


「いや、いろいろあるみたいだぞ?…見てみ?」


手招きされて近づいてみれば、急に手を引かれてあっという間に膝に座らせられてしまった…!


「ちょ…いきなり近いって…!しかも!BBQ1択じゃん!」


メニューを指差して文句を言ってみれば、ニヤリと笑う嶽丸の悪い笑顔がすぐそこ。


「他にもいろいろあるとか言うから…!」


文句を言ってみれば、いつもの余裕ある表情で笑われて、そんな嶽丸の笑顔には、私はめっぽう弱いと実感させられる…!



「肉の種類がいろいろあるだろ?鶏とか牛とかさ?海老とかサザエなんかもあるじゃーん!」


「…ん?」


あぁそういうことかともう一度メニューを見ると…嶽丸がぎゅうっと腕に力を込めて、耳に唇を寄せて言う。


「俺は全種類の肉を食う。あと美亜肉も追加で」


コショコショ耳がこそばゆくて…背中がゾク…っとする。


「…耳元で言うことじゃないでしょっ!離れろ…っ!」


ゾクゾクしながらも、くすぐったくて笑ってしまう。…そうなるとどこを触られてもくすぐったい!


きゃあきゃあと笑っていれば、もう一度耳元に唇をつけて、嶽丸の低い声がささやいた。



「美亜…愛してるよ」



…え。


さすがにそんな直球な言葉、言われたことがないし、なによそれ…今ふざけてたんじゃないの…?


思わず体をよじって嶽丸を見つめると、意外なほど真剣なまなざしに出会って焦った瞬間…



唇を塞がれた。


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