空からふわりと舞い降りる。それはまるで天からの使いのように。どこまでも清らかな乳白色の輝きが祈りを捧げるかのように静かに落ちてくる。
「あ、ニルヴァちゃん」
「…………にこ~」
「今日も退屈そうだね~」
「…………にこ~」
「……つまんないの」
時折みかけるこのメルトペンギンを見るといつもイジワルしたくなる。いつも祈るみたいな仕草をして静かに静かに過ごしてる。溶けてしまうまで。私たちが一体何に祈るっていうの?神様?それともニンゲン?それで何が変わるの?私たちは溶けては落ちてまた溶けることしかできない。ならもっと弾けた方がいいじゃない。永遠みたいな時間そうしてただ静かにしてるだけなんて……私だったらおかしくなっちゃう。だからこの子を見ると……連れ出したくなるんだ。
「ね、今日こそ一緒に遊ぼうよ」
「…………にこ~」
「だからそれなによ……ちゃんと話しなさいよ」
「…………にこ~」
「あ~もうムカつく!なんで話してくれないの!」
「……あ、ソウちゃん。おはよ~」
「え?あ、うん。おはよ……」
「…………にこ~」
「あ、戻っちゃった」
「………今日もいい天気だねぇ」
「あんたもしかして……話すのが遅いだけ?」
「…………にこ~」
「もうそれはいいから!」
「………えっと、多分、そうだよね」
「はぁ……もっと早く話せないの?」
「…………にこ~」
「あぁ~イライラする!あんたちょっときなさい!」
私はニルヴァちゃんを引っ張っていった。
「あんたね、多分ゆっくりしすぎなのよ!これに乗りなさい!」
「……わ!……わわわ~!」
私は外を走る車の上にニルヴァちゃんを乗せた。
「いえ~い!とばせとばせ~!」
「あわ……あわわわ……… !」
「あっれあれ~?ニルヴァちゃ~ん?さっきより喋るペース早くな~い?」
「お……おろ……おろして……」
「そう!それだよ!そのスピード!なんでさっきはできなかったのかなぁ~」
「いじめ……ないで……」
「え……いじめって……」
「やめて……こわい……」
「う……わかったわよ!いくわよ!」
私はニルヴァちゃんを連れて車の上から降りた。
「ぶる……ぶるぶる……ぶる……」
「……どうだったかしら?」
「ソウちゃん……いや……」
「喋れるようになったじゃな~い!」
「私は……静かに……のんびりしたいだけなのに……どうしてこんなに……ひどいことするの……」
「え……もしかして本気で嫌がってる……?」
「当たり前だよ……怖かったんだよ……」
「……ごめん。……でもっ!ニルヴァちゃんはちょっと退屈そうだったし……いい刺激になるかなって……」
「そんなの頼んでないよ……っ!ひどいよ……っ!」
「……なによ……いつも無視してたのはあんたの方じゃない!私だって!本当はあなたと遊びたかったのよ!構って欲しかったのに!」
「……ソウちゃん……」
「……ごめんなさい。私たち、合わないみたい。もうあなたのところには来ないわ」
「待って!」
「なに?」
「……私も……ごめんなさい……そんなふうに思ってくれてたと……知らなくて……」
「いいのよ。私がしつこかっただけだから。……さようなら」
「………やだよぉ~……」
「なっ!なんでまた泣くのよ!」
「ほんとはソウちゃんと……仲良くなりたいよぉ~……」
「えっ……」
「ぐす……私……のろまだから……みんな返事をする前に……どこか行っちゃうのに…\ソウちゃんだけは待っててくれた……。嬉しかった……」
「……でも私がひどいことしちゃったからびっくりしちゃったのね」
「うぅ……慣れてなくて……でも嬉しかったから……友達にはなりたいよ……」
「……わかった!確かに私もやりすぎたわ!だから……今度は私があんたに合わせる番!」
「え……」
「今回は溶けるまであんたの隣にいてあげるわ!」
「いいのぉ……?」
「もちろん!その代わり!次会うときは散歩して話すくらいの折り合いはつけましょ!」
「……うんっ!」
そして私はニルヴァちゃんと一緒に静かに祈るような姿勢でのんびりとした。
「……ソウちゃん。こうしてると……心がほわ~ってしてこない…?」
「……う、う~ん……まぁ……うん。もっとこう……ぶわぁ~って飛び回りたい気持ちも湧いてくるけどね……」
「やっぱり……私たち正反対……でもいいよね。もう友達なんだもん」
「ん!それは間違いない!」
「ソウちゃんには退屈でも……私には怖くても……たまにはこうしてお互いの好きなことしよう?」
「約束ね!」
そうして私たちはゆっくりゆっくり溶けていった。また出会って、一緒に散歩する日を夢見ながら。