「まったく笑っちゃいますよね?ごめんよってさ。銃を向けておきながら。ええ。そこにいた男は本当に見苦しいというか――」
昏仕儀タカカミは自嘲気味に六月の出来事を振り返っていた。
「俺が死ねばいいって思うでしょ?ギャンブルばっかりの畜生と目をキラキラさせた小さい子ども。生き残らせるとしたらどちらが良いか?答えは明白でしょうねぇ!!」
幼き子供を残酷な目に合わせたタカカミはテープを聞くであろう人達に向けて大声で答える。人類が滅んだ世界でそんなことに意味があるのかは不明だが。
「さて、先の話にはなりますが……果てには俺は何人も、何十万も……いえ、最終的には70億人以上の人間を死に至らしめて見せました。その中には多分世話になった人も……とても憎い人もいました。そうなったのも全てはこの儀式のせいです」
部屋の作業机に向かって座りながらタカカミは机上のテープレコーダーに向かって一人話を続けていた。『称えられし二十五の儀式』という所謂デスゲームに参加させられ、人を殺す事になったこと。自分が悪人側としての位置についた事。そして全てを失ったという事実。それらすべてを淡々と語る彼の姿はどこか虚ろであった。
その日、外から聞こえるのは風の音、雨音、そして雷。それ以外は何もなく静寂が昼も夜も彼を包んでいた。ギャンブルの時以外は。
「私もこのゲームが何なのかその全貌を把握できたわけではありません。ただ一つ言えるのはこのゲームは善人と悪人の戦いというにはいささかニュアンスがずれてる気がしてならないのです」
テープの残りは十分にあり、タカカミはそのまま話を続ける。
「特にそれが顕著に出たのが七月に四人目の相手と対峙した時でした。女性で年齢はおそらく十五から十八の間でセーラー服を着た所謂、女子高生です。この近くの高校の生徒と思われます」
話を淡々と進めていたその時、不意に手に力が入っていたのを彼は感じた。その手を見て彼はテープの録画機能を切った。
「……だめだ。これじゃあ結局何が言いたいのかわからない」
机の上で頭を抱える。彼の目的はテープレコーダーを通してカセットテープにこれまでの記録を残そうとすることだ。カセットテープを選んだ理由としては彼の趣味というのがもっともな答えであり、同時にカセットテープがその時代でもっとも長く記録されると信じていた。経年劣化を彼はある程度予想してそれを選んだのである。それでも彼は趣味としてカセットテープを選んだのは変わりない。
「……ここまでにしてそろそろ行くか」
席を立って彼は自室を後にした。行先は勿論パチ屋である。
「四番目のアイツはものっそいむかつく言動で……それであっさり死んじゃったからなあ。能力も何もないわな。風をブーブー吹かして空飛んでてさ……」
―—あんたが何者だか知らないけどさ。悪者なんでしょ?聞いたわよ。あのスズノカって女から。子供を殺したロクデナシなんでしょ!?ほんとにクズなんだよね!!この『殺人鬼』!!
「でも拳銃で体中ぶち抜かれてあっさり死んだ間抜けだよな!」
その時の光景を思い出し、げらげら笑いながら道を進む。
七月の戦いにおいて、タカカミは相手の学生を躊躇なく撃った。
原因は『殺人鬼』という単語。その言葉に彼は火山のように噴出した怒りを覚え、宙に浮いて高みの見物を決めていた彼女に数発の弾丸を打ち込んだ。結果として体中を打ち抜かれた彼女は風の力の制御を失い、そのまま落下。息が絶え絶えになって命乞いを始めた彼女にリボルバーへと弾丸を詰めながら歩み寄ったタカカミは無言で彼女に銃を向けた。やがて、その月の戦いは終わりを告げた。
結末にてカタルシスを得ていた戦いを思い出して悦に浸る彼。
しかしその足は止まる。
「何であいつがそっち側なんだよ……俺のほうがよっぽどそっち側にいるべきじゃないのかよ」
足を止めて空を見上げる。
空には目を凝らしてみると、かすかながらに何かが波紋のように広がって見せた。彼はそれを目で捉えるとため息を吐いた。
「まあいいか。誰も彼も消えたんだから」
ふとあたりを見渡すと着ていた蒼のコートが風に揺れる。風以外の音は何も聞こえない。
彼はその足を以前変わらずに動かして今日もパチ屋で時間を潰してみせるのである。
「今更だけど何も変わってない気がするんだよな。ホント。あのマンションに住んでからさ」
――ああ、そうだ。アパートに住んで一人暮らしをすると言っていたがそれなら支援してあげよう。場所もいいとこを用意していくらか渡そうじゃないか。その代わりもう彼らには近づかないでほしい。それでどうだ?悪い話じゃないだろ?簡単に満たせる条件だと思うぞ?
突如脳裏に言葉が走る。
「ああ。それでいいって俺は返したんだ。その選択肢の果てに、結果としてそれで向こうは俺を守ったんだよなぁ」
住んでいるマンション離れて数十分後。彼は歩いて目的地までついた。
実は能力を使えばほぼ瞬時に迎えるのだがそうしなかった。理由としては単に歩いて向かいたかったからである。
「どうせ変わらんさ。何も……。たとえそれとは違う選択肢を選んだとしてもな」
ドアをくぐり、いつものように適当にパチンコ台を選んで遊び始める。
彼はずっとそうしてギャンブルで身を削るように日々を過ごして。すべてが曲がったあの日から。自分の敵を皆殺しにしたあの日からもずっとこれは変わることはなかった。