「四つの技術?」
「はい。それらの能力者が次の敵になります」
「つか、順番あったの?悪人側は俺一人だけど俺以前の方はなんかあった?」
「いえ。悪人側にはありません。十二の悪はどれも方向性は違えど結局は仇名す者としては同じです。よってランダムです」
「へぇ。悪人側が平等って考え面白いな。振り切ってるのは最悪だが。だから何だって話だけどね」
九月、残暑の続く日々。次の儀式による戦いまであと二週間までだったその日。
自室のソファーで不機嫌そうにうなだれるタカカミの隣でスズノカが相も変わらず石のように無表情でじっと佇みながら説明を始める。
「何だ?四つの技術ってのは?」
「紙、電気、爆発、糸。この四つですね。主に人類を成長させた技術四つで構成されています」
「はぁ……あ。爆発ってなんだって思ったがノーベルから来てるのか?」
紙は記録や表記など多種多彩な現場で使われ、電気は人類の生活をより良くするためのエネルギー。爆発は画期的な発明から多くの採掘現場から戦場で使われるようになり人類にとって優秀な発明として位置づけられた。糸は紡げば服に装飾品と事欠かせない。スズノカ曰くこれら四つの技術をシステムは選抜して秘術として昇華させたとのこと。
「そして最後に立ちはだかるのがまた別の三人です。合わせて七人を倒せばあなたの勝ちです」
「……ずいぶん簡単に言ってくれるじゃねえか。えぇ?おい」
項垂れて居ながらも声で剣幕を持ってスズノカに突っかかるタカカミ。
「確かにそうですね」
だがそんな彼の権幕なんぞどこ吹く風。
「前の長く生き残ってた……鉄島だっけ?ソイツにもさ、こんな感じで説明してたのか?」
「はい」
「……そういや気になってたんだが、本当に俺より前の十一人。つまり悪人側の連中は鉄島一人の手でやられたのか?」
「間違いありません。それは事実です」
彼女の淡々とした返しにタカカミはどうしたもんかとため息を吐いた。
「ああそうだ。悪人側十一人の秘術について調べる事ってできるか?」
「可能ですが……なぜです?」
「気になったからだよ。俺より前の人間がどんな能力有していたのかってのがさ」
「わかりました。ではそれらの情報を閲覧可能にするようにしておきます」
スズノカはそういうと無表情のまま、目の前にノートを広げる。右手で宙に浮かんだノートに手をかざすとそこから光が発し、やがてタカカミが持っているはずのノートがいつの間にか近くに表れ、そして光が彼のノートへと収束していった。
「これで閲覧可能になりました」
「オーケー。じゃあ早速――」
ぱたりと落ちた自分のノートにタカカミは手を伸ばしてそのページを見たいと思いながら捲ると早速お目当ての情報を見つけた。
――
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――
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――
――
「これらを……一人でやったってのか?最初の奴が」
「はい。ところでなぜ自分よりも前の能力者を知ろうと考えたのですか?」
ノートを読みふけっている彼にスズノカが質問する。
「あ?興味本位だよ。もしかしたら何かわかるかもと思ってな」
「……あなたが持つ秘術、
「ああ。でも駄目だ。まあ当然っちゃあ当然だが」
ふと最後の一文を見る。妬心愚者に関する記述を。
――
「……聞いていいか?」
「どうしました?」
ノートに浮かぶ妬心愚者に関する説明文。それを見てタカカミはスズノカに問いかける。
「この秘術、なんかずれてるよな?こう……上手くは言えないけど」
「そうですね。この秘術は……『人間』のように異端だと思います」
「なんだ人間って?つか異端って?」
「なんでもないです。簡単に秘術の詳細は開示しませんよ?」
スズノカが目を細めてじっと見つめてくる。あーはいはいと言って彼は立ち上がる。
「まあいいさ。興味本位で見ただけだしな」
「ちなみにですが妬心愚者の秘術の詳細は分かっていらっしゃいますか?」
「え?ああもちろん。他人の秘術を制限付きではあるが模倣可能。その模倣には限りはない。だろ?後は……身体強化か。これってコピーした能力のストックがない時の保険だろ?」
「ええ。その説明は合っています」
「ただし模倣が可能なのは生者のみで死体に使ってもできない。そうだろ?」
「はい。死体からは何も学べませんので」
「……本当にそうか?」
「と言いますと?」
タカカミは首を傾けた。スズノカもまた首を傾げる。
「誰かの死から学べるって言うじゃん。秘術はともかく」
「そうですね。誰かを糧にして育つ。それはあり得ることですね」
「そうだよな。糧にするって考え……」
何かを思い出したのか途切れる言葉。次の瞬間――
「ああ苛立ってきたクソッ!!」
突如机を勢い良く叩く。タカカミのその行動にスズノカは驚いた。
「どうしたんです?」
「なんでもねえ、腹立ったからギャンブル行ってくる」
舌を撃ちながら彼は財布に金を乱雑に詰め、支度を整えて部屋のドアを勢いよく開ける。その時に彼は無意識の内に睨んでいた。部屋にいたスズノカを。
「すぐに出ますから――」
瞬間的なテレポート。それを見てタカカミはドアのカギを閉めていつも通りに足を例の場所へと向け始める。足音を強くしながら速足で。
――何が特待生だ!人殺しめ!
――人殺し!ここから消えろ!!
――お前のせいで俺の人生めちゃくちゃだ!
「……うるせぇ」
脳裏に響くその声にタカカミは苛立ちを隠せないでいた。
(ああ……もう十年近く経とうとしているのに消えねぇのかクソが)
博打までの道中、彼の険しい顔は通行人の視線を逸らすほどだった。
ちなみにこの日のギャンブルはというと勝ったほうである。
――六十五パーセント制限ってなんなのさ
当時のある制限に疑問といら立ちを隠せずにはいたが。
それさえなければもっと勝てたとタカカミは後に語る。