「ククク……そんなところに逃げても無駄だぞ」
無数のモニターが並ぶある一室。その男は椅子に座って不敵に笑いながら一人の男の行方を眺めていた。
「さて……この能力とこの場所ならアイツを倒せるはずだ」
ノートを片手に彼の行方を見る者。秘術、
「こっちの方が異世界転移よりも遥かに面白いじゃないか」
その手から光の玉を放つ。光が彼の手元から離れ、彼は先に部屋のドアまで歩いて開き、更に数個の光の玉を部屋のあった階層に撒いた。
(最初は屋上からのスタート。そして二つ降りて今ここにいるのが五階。監視室に入れたのはでかいな)
ビルの屋上から一つ降りて六階、五階と進んでいき、彼は監視室と呼ばれる部屋にいた。
「ここからなら攻撃がある程度融通が利くからな」
彼の秘術は光の爆弾を生成することが可能である。さらに爆弾に調整が可能であり、爆発の威力、タイマー、移動など細かい調整ができる。先ほどエレベーターに爆弾を二つ設置し、一つは特に爆発をさせないように。二つ目が本丸で爆発して相手をしとめるようにするという作戦で爆弾を仕掛けた。
「失敗はしたが……ここからなら各階の様子が見れる。これとノートの書き込みで一気にやってやるよ!」
彼の秘術はノートを通すことでさらなる力を発揮させることが可能だった。それは遠隔調整と呼ぶべき代物で具体的には爆弾が一つ生成されたとしてその爆弾をノートから操って調整ができる。敵が離れた場所にいたのなら爆発の威力を本来よりも大きくしたり、タイマーの時間や移動距離を操るのも可能だ。最初の爆発攻撃はそれをしなかったのは魔力を節約するためで現在彼の魔力は五十パーセント近くまでに減っていた。
「へへ。地雷を仕掛けてやるゲーム得意だったからな。引き籠ってた甲斐があったってもんよ。これで勝ちだ」
薬崎は仕掛けを施し終えてモニター前の椅子に戻り、勝算のある戦いであると確信を持っていた。
「力を手に入れたら何すっかなー?そうだまずババアからぶっとばしてやろ。クソ妹ばかりひいきしやがってさホントによ!」
モニター前の机を勢いよく叩く。そして画面向こうの現れたタカカミを睨むように見つめる。
「さっさとくたばれよ?悪人さんよ」
ため息を大きく吐いた。無数の画面の一つの中にいるタカカミは辺りを見渡していた。
五階の内階段と複数のオフィスが入っているであろう五階を繋ぐドアの前に立つ。ドアを何にも考えずに開けようとしていたその時――
(待て。ドアの向こうに……いやこのドアに仕掛けがあったとしたら?)
ぴたりとその手は止まる。タカカミにはまだ相手の能力は正直よくわかっていなかった。
(最初の爆発……今の状況……何もしてこない相手。魔力の温存という線なら頷ける。だけど爆発の力で罠を張っててもしこれ以上何もできないとしたら?)
相手の出方について何度も慎重に思考を重ねる。何せ相手は爆発の秘術を使う者。最初の爆発を見るに一撃でも食らえばひとたまりもないのは確かなのだ。
(俺の手札でどうにかするとしても……ああもうビビってる場合か?!)
時間制限の存在を思い出す。三時間以内に決着がつかない場合は両者死亡となって儀式は終了する。
「スー……ハァァァ……」
再度、タカカミはドアノブに手を伸ばす。
(どうせ死ぬんだ。だったら死にに行って、というより死中に活を求めるしかねえ!!)
そして勢いよく開き、五階のオフィス等が入っている空間に飛び込んだ。
(…………セーフか?)
周囲に銃口を向ける。しかし光も見えなければ何かが待ち構えている様子もなかった。
(だけど人の気配がする。ということは――)
近くの五階の見取り図を見つけて早速確認すると――
「ビンゴだ」
口から言葉が漏れた。お目当ての監視室はタカカミが今いる内階段近くから離れた個所にあった。図上だと内階段は右上にあり、監視室は左下に存在していた。
(監視室にいるのならさっきの遠隔攻撃も可能だろう。能力を使うにあたって相手を見ている必要があるのなら)
――何が使えて、どこまでできるのか?
『何が』の部分には爆発の能力が当てはまる。どこまでという箇所が彼にはいまだにわからなかった。相手を見ても見なくても爆発
もし最初の攻撃が相手を見ずに可能であるのならお手上げというのがタカカミの当時の意見だった。
(二回目が来ないうちに何とか相手を見つけて始末しないとな)
振り返って廊下の向こうを見る。二つの光の玉が真っすぐにタカカミに向かって飛んできていた。
(来た……そこにいるってことだな)
銃を手にしてそれぞれの光に向けて発砲する。飛んだ二つの銃弾はそれぞれ光に命中。そのまま廊下の中心で爆発した。
「こっちがダメなら……!」
正面の通路が爆発によって穴が開いて脆くなり、渡るのが難しいと判断したタカカミは右の通路から曲がって監視室を目指すことにした。走って左に曲がり後は一直線を走る。
「ここか……!」
というよりかは走れてしまったと言うべきだった。爆発による攻撃は二回目以降なくその間の何もしてこない時間がやはり不気味であった。
(落ち着け。慎重に行くことを忘れるな……!)
爆発の光景を思い浮かべながらドアノブを掴む。そして勢いよくドアを開き、銃を一発放った。これは運が良ければ命中して終わるかもという発想と銃声によってある程度の威嚇を込めた一発である。
――いた。このまま一気に!
壁一面に規則正しく並んだモニターの群れの前に敵はいた。一人の男がそこに座っていた。