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わたしのビタミン
わたしのビタミン
響ぴあの
文芸・その他ショートショート
2024年11月30日
公開日
2,138字
完結済
 栄養素を擬人化した小説です。食事は私たちにとって最も身近な存在だけれど、目に見えません。栄養のバランスを考えて食べましょうと幼少時から言われていますが、実際、どんな食べ物にどんな成分が入っているのかはわからないことも多いと思います。どれと一緒に食べると消化吸収率がいいのかなどをストーリーを交えながら紹介する内容と考えています。 意外と知らない雑学を入れながらのイケメン、かわいいキャラクターを通して、子供たちに食育を取り入れながら楽しんでもらいたいです。大人もダイエットや成人病など、食に気をつけなければいけないけれど、本当に正しい知識を知る機会はわりと少ないですね。さらに、専門的な本だと特に子供はイメージしづらいと思うのです。大人も真面目に専門書を読む人は一握りなのではないでしょうか。 教科書で文字として読むよりも、キャラクターで覚えたほうが絶対に面白いと思ったのです。  ビタミンが「俺を摂取しろ」と命令口調で言い、胸キュン。少女漫画のような展開を入れながら、学んでいく。そんな新しくも面白い物語を考えています。 例えば、カルシウム、ビタミン、必須アミノ酸、タンパク質、脂質などは目に見えません。だからこそ、形ある人間にする。心のある人間として読めば、身近に感じますよね。

第1話

ニキビや肌荒れに悩む中学生女子荒井美子(あらいみこ)の夢の中にイケメンビタミンが現れる。


ビタミンも種類が多いのだが、ニキビ、口内炎、肌荒れと言えば、ビタミンB2。ビタミンB2が夢の中に現れ、美子は夢の中で驚く。自分が理想としている顔立ちそのものの美男子が現れたからだ。


「俺のことはビーツーって呼んでよ。種族はビタミン。よろしくな」

手を差し出す。握手をする。すると、そのまま知らない空間へ引きこまれる。空間の色は虹色で現実ではないというイメージだ。でも、これは夢だからと割り切る。どうせ現実世界にはいないイケメン君が傍にいる。こんなに心地いいものはそうあるものではない。

「おまえ、肌荒れやニキビに悩んでるんだろ」

「そうなんだよね」


「おまえには、俺が足りていないのかもしれねーな」

 ぐっと顔を近づけて言われると、胸がきゅんとする。ビタミンだろうがなんだろうが、見た目は若い男子だ。そんな真面目な顔で足りないなんて言われたら――補給したくなっちゃうじゃない。


「のりや納豆や豚肉に俺は存在している。まぁ、手ごろなのはビタミン剤だったりするんだろうけれど、まだまだお前は中学生。つまり、発達途中だ。なるべく食物から俺を摂取しろ」


 命令口調で俺を摂取しろと言われると、胸が高鳴る。こんなにきゅんきゅんしているのに、本当に夢なのかな。あなたを食べろと言っているの? ドキドキが止まらない。クラスメイトにこんな男子いない。というか、今まで現実世界で会ったこともないよ。


「あとは、俺のダチを紹介するぞ。B6だ」

「ちゅーっす。ビタミンB6っす。ビーロクって呼んでね」

ビーツーよりもなんだか軽い性格のチャラそうなタイプだ。見た目も金髪でピアスがたくさんついている。髪はおしゃれに整えられている。ビーツーは黒髪の正統派イケメンだから対照的なイメージだ。


「肌荒れには俺の相棒、ビーロクが必須なんだよ」

 言い方が相変わらず俺様なビーツー。そして、終始笑顔のビタミンビーロク。


「君の肌を守るのは俺の役目。ずっと守るからさ」

 こういう台詞を簡単に言うビーロクはなんだか遊びなれていそうな印象。


「いわし、豚肉、バナナなんかに俺がいるから、俺のこと、摂取しちゃいなよ」


 どんだけ摂取してほしいんだろうと、こちらが赤面する。


「ビタミンCです。よろしくおねがいします」

 イケメンボイスが背後からする。スーツに身を包んだ礼儀正しいお兄様が登場。こちらもかっこいい。


「シー、って呼んでください。肌荒れ、しみ予防にはビタミンCがいいんです。ニキビ跡を消すメラニンの抑制作用やコラーゲンを生成して老化を予防しています。つまりあなたの味方です。ここにいる種族ビタミンは体内の見えないヒーローです。だから、いつでもあなた様をお守りします」

「こいつは、緑黄色野菜やいちごやみかんなんかにいるからさ。いつでも摂取してくれよな。摂り過ぎても、俺たちビタミンは水溶性だから、尿によって体外に排出されちまう。過剰に摂っても意味がねーと言うことだ」

ビーツーは意外と説明が丁寧で面倒見がいい。


 こんなにイケメンに囲まれたら私、どうしたらいいのだろう。誰を選べばいいんだろう。そんな選択肢を迫られていないのに勝手に悩む。みんなかっこいいヒーローだ。私の見方なんだ。心が温かくなる。


 一通り、彼らの体内での活躍を紹介してもらう。見たこともない世界だ。


 やっぱり、ビーツーが一番好きかな。そんな感情が芽生える。

「んじゃ、俺、結合して来るから」

「結合って?」

 合わさるってことだよね? どういうこと?


「B2はリン酸と結合することで、補酵素になるんだ。栄養素の分解、エネルギー代謝に欠かせない存在さ」


「ビーツー行こうか」

 かわいい女子が現れる。

「私、リン酸。これから、彼と結合するの。じゃあね」


 なすすべなく、立ち尽くす。

 私のビーツーがぁああああ。


「じゃあ、俺も行くわ。じゃあ俺もアミノ酸と合成して来るね。まったねぇ」

 無邪気に手を振る先には、アミノ酸らしき美人がいた。あの人と、ビーロクが……。唖然と立ち尽くす。


「ビタミンCはストレスから守るホルモンを作ることができるんです。だから、ストレスを感じたらシーのことを思い出してください」


 やっぱり、残ってくれるのは礼儀正しいシーだけなのね。私の、シー。


「僕も子供を作ってきます」

「ええええ? 何それ」

「ちょっとからかってみました。あなたがさびしそうな顔をしているから。語弊があるかもしれませんが、僕はタンパク質であるコラーゲンを作る役目があるんです。あとはビタミンEと協力して細胞を保護しているんですよ。だから、さびしそうなあなたを置いていくのは心苦しいですが、あなたの素敵な皮膚のためには僕の仕事が必要なんですよ。ビーツーもビーロクも全てはあなたのためにやっていることなんです。そんな悲しい顔をしないでくださいね。いつもあなたの中にいますから」


 シーが消える。みんなみんな私の前から消えちゃうんだ。涙が一粒流れる。


 目が覚めた。もう朝だ。今のは夢だった? でも、とっても具体的で記憶から消えない夢だった。きっと私の肌を今日も守ってくれているんだよね。


「ありがとう。これからもよろしくね」


 そう言うと、朝のスキンケアをするべく、洗面所に向かう。








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