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なにがおかしい
なにがおかしい
fgi2411301049Ch
現実世界現代ドラマ
2024年11月30日
公開日
1,504字
完結済
人生を笑う話です。笑われるかも。

第1話

 笑い。

 それを俺に聞くの? 笑える話を、俺に?

 なんでもいいから話せって?

 時間がない、ふうん、なんで?

 理由を説明している暇もない。へえ、そうなの。

 そんなに急ぐの?

 ああ、急ぎなのか。それじゃ仕方ないな。

 言うよ。ま、言うけどさ。

 でも期待しないでくれ。真面目な俺に、笑い話は無理だから。

 んまあ、俺の人生は笑えるらしい。

 その生い立ちからして、大笑いなんだとさ。

 誰に言われたかって? 告白した相手だよ。

 最初から面白いって。

 面白がらせるつもりで喋ったんじゃない。

 同情を引こうと思ったんだ。

 そこから愛情が湧いてくるんじゃないかと、ね。

 たとえば俺の父親は、誰なのか知らない。

 そこから劇的でいいらしい。

 母親もいけるそうだ。

 俺を産んだとき、母親は故郷を逃げ出していた。

 生まれ故郷は戦争や災害で荒れ果ていて、とてもじゃないが住める場所じゃなかったから。

 ましてや、子育てなんかできるはずがないって感じ。

 それで自分が生きるため、そして俺を生かすために、母親は旅立った。

 そして、たどり着いた新天地で俺を捨てた。

 確かに第三者の目からは笑えるよな。

 捨てるくらいなら最初から産まなきゃいいのにさって思うもの。

 まあ、母親も子供だったんだろうな。

 実際、まだ子供だったようだ。そう、十歳を越えたくらいだったと聞いている。

 それでも、たった一人で、母親は故国を離れた。

 その長い旅の途中で、俺は生まれた。

 旅の終着は、この国。まあ、贅沢をしなきゃ、生きていける。ここなら、俺一人でも育つだろって母親は思ったのかもしれないな。自分の人生もある。

 でも、そんなことは俺と一緒に置いてあった手紙には書いていなかった。自分の悲惨な人生の話だけを、拙い文字で書いていた。そして俺を置いてけぼりにした施設の人に顔も見せず、消えた。

 何だか分からないよな、何を考えていたんだか。自分を同情して欲しかったのかな、俺の母親は。

 こんな話を、俺が告白した相手は面白がってくれた。

 お前はどうだ? 本当に面白いか?

 え、施設での暮らしは悲惨だったかって?

 そうでもないよ。毎日毎日、笑って暮らしてた。だけど、今になると、そんなにおかしいってわけでもないな。何か知らんけど、あの頃は何かあると笑ってた。あそこには笑える奴が多かったよ。

 たとえば――え、今の話はアウトなの? 投稿できない?

 なんで?

 そっか……じゃ、仕方ないな。

 独り立ちしてからの苦労話はどうかな?

 前に話したかもしれないけど、あの一件――これも駄目か。そうか。

 でも、それじゃ何も話せないぞ。どうやら俺が面白いことと世間様が面白がることは違うらしいな。

 それでも最初は、俺もそうじゃなかった。今のパートナーと一緒にいるようになってからだよ。感性が変わったのかな。

 今のパートナーについて話せって?

 プライバシーはないのか(笑い)。ま、いいや。

 可哀想な奴だよ。パートナーとの死別を繰り返している。俺の前に五人か六人の葬式を出しているはずだ。皆、身寄りのない奴ばかりでね。病気になって死んだのも同じだ。

 パートナーは働いていないけど、金に困っていない。保険金が下りてね。俺が死んだらラッキーセブンだよ。だけど、そうはならなかったな。遺産は大切に使わせてもらうよ。

 さ、話は済んだ。今の話が笑えるとは思えないが、これで約束は果たした。次は、お前が交換条件を守る番だ。いいな。

 早くしろ、時間はないぞ。

 足を持って。穴の中に落としたら、上から土を掛けろ。

 締切が近いんだろ? てきぱき動けよ。

 埋めた場所がバレないよう、手で土をならせ。

 こんなところかな。

 AM11:59だったよな締切。間に合うんじゃねえか。

 23:59だと思ってノンビリしていたお前、今になると笑えるなあ。

 おかしくないか?

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