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第145話 雲に乗ってお空をお散歩♪

 みんなが真相に気がつく前にと、クロウは断られるであろうことを承知で、マグじーじに一つの解決策を提案した。


「あ、なんなら。椅子を動かした後、俺がちびネコーの席に座って、マグさんは俺の席に座ったらどうですかね? ほら、俺はもう、サラダを食べ終わっているし」


 誤魔化そうと焦るあまり、少し早口になってしまった。そのせいで、かえって真相に気づかれてしまったようだ。もふぁネコーと食いしん坊子ネコー以外の座っている組の視線が、こぞってクロウに向けられた。どの視線も「こいつが犯人だったか」と言っている。己の失敗を悟って、クロウは気まずそうに視線を彷徨わせた。

 だが、クロウの背後にいるマグじーじは、感動の涙をこらえるのに精一杯で、クロウの不自然さには気づかなかったようだ。マグじーじはグスリと鼻を啜り上げると、予想した通りクロウの申し出を断った。


「いや、それには及ばんよ。ルドルとは、長い付き合いじゃからの。腹ペコ・ルドルと攻防しながらの食事も慣れっこよ。にゃんごろーは、今後の参考に、ワシの華麗なルドルさばきをよーく見ておくといいわい」

「ちょーろーを、しゃばきゅ?」

「あー、うまいこと長老さんの相手をしながら、自分の飯を食べるってことだ。そのやり方を勉強しろって言ってるんだよ」

「にゃ、にゃるほろ! ちょーろーを、しゃばきゅ! しょーゆうこちょか!」


 華麗な長老さばきの意味が分からなかったようでコテリと首を倒した子ネコーだったが、クロウの解説により納得がいったようだ。にゃんごろーは憂いが晴れたお顔で、ポムとお手々を叩いて頷いた。

 マグじーじは「華麗な」と言っていたが、実際には泥仕合になるのだろうなと予測しながらも、クロウは余計なことは言わずにいた。どうせ、この食いしん坊な子ネコーは、食事が始まれば目の前の料理に夢中で、隣で泥仕合が繰り広げられていることには気づきもしないはずなのだ。マグじーじの食事は忙しないものになるだろうが、それについても特に言及はしなかった。長老に料理を掠め取られてもいいから、子ネコーの隣がいいのだろうなと、容易に予想できたからだ。実際、長老の相手をすることに慣れているというのも本当なのだろうし、仲良しふたり組のことは、仲良しふたり組に任せることにして、クロウは子ネコーの方へ声をかけた。


「ほれ、椅子、持ち上げるから、落ちないようにじっとしてろよ?」

「はい!」

「よっ! あ、軽い。ホントに雲みてーだな」

「ふわぁ……。ういちゃぁ。まほーで、のびりゅのちょは、まちゃ、ちがっちゃかんじれ、ちゃのしー!」


 雲の椅子は、見た目通りの軽さだった。自在に伸びたり縮んだりする仕掛けを思えば意外な気もするが、これがネコーの魔法というものなのだろう。感心していると、はしゃいだ声が聞こえてきて、クロウは思わず口元を綻ばせた。こうも喜ばれては、悪い気はしない。

 じっとしていろと言うクロウの忠告に模範的なお返事をしたくせに、ふわりと浮き上がる感覚が楽しいようで、にゃんごろーは短いお手々をわちゃわちゃと動かした。


「だから、じっとしていろって……まあ、いいか。動かすぞー?」

「はーい! ふぉ?…………ふぉ♪ ふぉ♪ ふぉ♪」


 呆れ顔のクロウは、同じ忠告を途中まで口にしかけて、やっぱりやめた。椅子から転げ落ちるほど激しい動きではなかったし、短いお手々をわちゃわちゃさせたところで、運搬の妨げにはならなそうだったからだ。

 仕方ないなと笑いながら、にゃんごろーごと持ち上げた雲の椅子をゆっくりと隣のテーブルまで動かしてやると、雲上の子ネコーからリズミカルな歓声が上がる。気をよくしたクロウは、最後に椅子を頭上まで持ち上げて、少しだけ上下に動かしてやってから、ゆっくりと床に降ろして着地させた。


「ひゃぁあああああ! ちゃ、ちゃのしぃいいい! くもにのっちぇ、おしょらをおしゃんぽ、しちぇるみちゃいらっちゃぁ~ん!」

「く、雲に乗って、お空をおさんぽ……。い、いいなぁー……」


 クロウからの思わぬ大サービスに、おとならしい態度を貫こうという誓いをすっかり忘れて、子ネコー魂を迸らせるにゃんごろー。

 小さな背中を丸めて、喜びにもふ毛を震わせている子ネコーを見下ろして「フッ」と零したクロウの笑みは、もう一人の子ネコーの震える声に掻き消された。「お?」と声の方へ目線を動かすと、サラダを食べ終えた看板娘ネコーが、うずうずしたお顔でにゃんごろーを見つめている。


 どうやらキララも、空中散歩を体験してみたいようだ。


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