今度はキララが、にゃんごろーをワクワクと見守る番だった。
見守られる側のにゃんごろーは、サラダ姫に熱い視線を浴びせている。
新しく届いた方のサラダだ。
マグじーじが、元々自分の分だった手つかずサラダを選んだので、新しくお届けされたサラダが、正式ににゃんごろーのお相手となった。
マグじーじはテーブルに身を乗り出し、長老に背中を向けて、背中と肘で自分のサラダを死守しながら、にゃんごろーをデレデレと見つめている。少々どころではなくお行儀が悪いが、誰も何も言わなかった。三杯目のサラダを狙う長老が、マグじーじの背中でバリバリと爪とぎをしているからだ。ネコーではなく、猫が飼い主のごはんを狙ってじゃれついているようにしか見えない。
さすがにこれは、他の利用客から苦情が来るのではとクロウは心配になったが、まったくの杞憂だった。よくよく確認してみれば、利用客は全員クルーだった。それも、マグじーじの部下である空猫クルーがほとんどだ。何があってもいいように、マグじーじが配下の空猫クルーで店内を固めたのかもしれないし、今日のランチ会場が青猫カフェだと知った空猫クルーたちが自主的に押し掛けたのかも知れなかった。空猫クルーは、大のネコー好きばかりなのだ。
利用客たちはみんな、ほんわかとした顔でネコーたちを鑑賞していた。ほのぼのとしたネコーショーを楽しみながら食事を楽しむつもりのようだ。
「にゃんごろーの、シャラダひめぇ! うふふふふ! いらっしゃーい! こんろこしょ、にゃんごろーが、しゃいごまで、ちゃべちぇあげりゅかりゃね! しょれれはー、しゃっしょく!」
にゃんごろーはフォークを片手にサラダ姫に改めてのご挨拶をすると、早速とばかりに気になっていたお野菜にフォークを突き刺した。
お口に招き入れる前に、にゃんごろーはフォークを目の前まで持ち上げて、突き刺さっているお野菜をしげしげと見つめる。
「ふぅむ。みちゃめは、トマトしょっくり。れも、まだ、あかちゃんのトマトにゃのに、すっかり、おちょなのおかおをしちぇいる……。こりぇは、いっちゃい、どうゆうこちょにゃのか。ちゃんと、かくにん、しにゃくちぇは…………あむっ!」
それは、半分にカットされたミニトマトだった。
トマトが大好きなにゃんごろーだが、ミニトマトを食べるのは初めて…………どころか、ミニトマトの存在すら知らなかったようだ。
「んっ、んっ、んっ……。ふぉっ!? トマトだ! えええー!? こんにゃに、ちぃしゃいのに、おちょにゃのトマトだぁ! ちいしゃいのに、しっかりものにょ、おあじがしゅる!」
「ふふ。ミニトマトっていうのよ? 小さくても、正真正めいのおとななの! そういう、体が小さいトマトなのよ。小さい中に、おいしさがぎゅっと詰まっているカンジがするわよね! わたしは、ミニトマトのほうが、好き!」
「ミニ……トマ……?」
「そう! ミニトマト!」
記念すべきミニトマトとの初体験を終えたにゃんごろーが、びっくり顔でお皿に残っている赤い宝石を見下ろしていると、キララが教えてくれた。お姉さんだから、ではなく、街に住んでいる子ネコーだからなのだろう。にゃんごろーよりも、食の経験が豊富なようだ。
にゃんごろーは、物知りのキララに「ほぉ~」と感心のため息をもらした。
それから、うっとり顔を天井に向けて、何やら夢を語り始める。
「ミニトマト……。しゅちぇき。ふちゅーのトマトは、いっこで、おにゃかいっぱいだけど。これにゃら、にゃんごろーも、いっぱいちゃべれりゅ……。にゃふふ。もりに、にゃんごろーのはちゃけをちゅくるときには、ミニトマトも、しょだちぇちゃいにゃぁ。そうしちゃら、いちゅれも、ちゃべほうらい。いっぱい、ちゃべれりゅ。おきゃわり、できちゃう。トマトのおかわり。にゃふ。にゃふふ」
「へええ! 森にミニトマトの畑かぁ。すてきな夢ね! ふふ、それにしても、にゃんごろーは食いしん坊さんなのねぇ?」
「にゃ!? ち、ちがうよ! みょう! キラリャまれ! ちょーろーは、くいしんぼーらけろ、にゃんごろーは、ちらうみょん! にゃんごろーは、おとーふな、こネコーにゃの!」
誰が聞いても食いしん坊満載の将来の夢なのだが、にゃんごろーはまたしても激しく否定した。「むむっ」としかめたお顔をキララに向けて、食いしん坊ではないことを毅然とした態度で主張する。
キララは、態度を豹変させたにゃんごろーへの驚きよりも、聞こえてきた言葉の不思議さの方が勝ったようで、コトリと首を傾げた。
「おとうふな……子ネコー?」
キララの隣では、キララと全く同じ顔をしたミフネが、同じように首を傾げてにゃんごろーのお顔を見つめている。
どうやら、にゃんごろーは、“おとーふ”になってしまったようだ。