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第28話 魔法少女はショータイムがお好き!

 ピンチだった。


 まさしく、ヘビに睨まれたカエル状態。


 いや、睨んでいるのは、ヘビじゃなくてカエルなんだけど。

 睨んでいるっていうか。

 どこ見ているのか分からん感じなんだけど!


 でも、ピンチだった。


 だって。だってだよ?


 あのカエル。

 バランスボールくらいの大きさがあるんですけど!?

 川の中の、流れから顔を出している石の上に乗っかっている、たぶん妖魔なイボイボの大カエル。どこを見ているのかは分からんけれど、分かりたくないけれど、でも顔はこっちを向いている。


 あ、あああああ!

 アマガエルくらいは、平気だけれどさ。

 イボイボ付きのバランスボールは、ちょっと。

 丸のみされちゃうほどの大きさじゃないけど、そういう問題じゃない!

 顔をベロンとかされたら、されたら! それだけで、もう!

 ああああああああああ!


 逃げたい!

 でも、動けない!


 一緒に河原でカケラ探しをしていた紅桃とルナは、も少し上流の方にいる。お互いに姿は見える距離なんだけど、二人とも足元に夢中になっていて、あたしがここでヘビに……じゃなくて、カエルと見つめあう星空になっていることには気づいていない。カケラじゃなくて、ビー玉探しに夢中になっているのだ。

 回転するお城から逃げ出してきたあたしたちだけれど、結局また河原に戻ってきたのだ。もちろん、さっきとは違う河原だ。もっと、ずーっと下流の方。

 で、そこで、ついさっき。いろんな色のビー玉が、いっぱい落ちているのを発見してね。なんか、つい童心に帰っちゃってね。誰が一番集められるか、競争になっちゃってね。

 石と石の隙間からビー玉を拾い上げることに夢中になっているうちに、ちょっと二人とは離れちゃって。

 そんな時に、ふと川の流れの方を見たら、流れから顔を出している石の上に、問題のイボイボがいたのだ。

 見つめあっているのかどうかは、正直、微妙なんだけど。本当にあたしに気づいているのかも、正直、微妙なんだけど。

 でも、イボカエルの顔はあたしの方を向いていて。

 叫べば声が届く距離だし、二人を呼びたい。

 呼びたいけど!

 でも、叫んだら、カエルがビヨンってこっちにやって来たり、それか舌でベロンってされちゃうかもって思うと、怖くて叫べない!


 こ、このままでは、カエルと向かい合う魔法少女の彫像になってしまう!


 と、絶望しかけた時。

 空から何かがやって来た。


「煌めけー☆ プリズム・カード・アターック!」


 トランプのカードみたいなのが、空から何枚も降ってきて、カエルが乗っている石の上にカカカカカッと突き刺さる。

 カエルは。

 慌てず騒がず、カードが飛んできた空を見上げ、それから。

 何事もなかったかのような顔で、ボチャリと流れの中に飛び込み、スーッとどこかに泳ぎ去っていった。


 あたしは。

 ポカンとしながら、カエルの視線を追って、というわけじゃないけど。カードが飛んできた方に顔を上げて、絶句した。


「やっほー☆ マジカル・ウィッチ月見つきみちゃんだよ☆ あ、月見の“み”は、美しいの“美”じゃなくて、お月見の“見”だから! そこのところ、ヨロシク!」


 視線の先では、マジカルでウィッチなマジシャンが、バチッチリウインクを決めていた。

 空中を漂う、サドル付きの竹ぼうきに跨って。

 キラッ☆ とか、効果音が聞こえてきそうな完璧さで。


 ウィッチっていうか、マジシャンだった。

 竹ぼうきで空を飛んでるところは確かにウィッチかもだけど。

 衣装は、どこをどう見てもマジシャンだった。

 ちなみに、こんな感じだ。

 癖のある髪を、きゅっとポニーテールにまとめた頭の右寄りに、小さい水色のシルクハットがちょこんと載っていて、左側からは薄ピンクのうさ耳が生えている。

 白い半そでのシャツに、水色の蝶ネクタイ。ショートパンツとショートブーツも水色で、後ろの方だけひらひらって長くなっているベストはピンク色。お尻のあたりには、耳とおんなじピンク色のうさしっぽが付いていた。

 で。

 サドル付きの竹ぼうきに跨って空を飛んでいるのだ。


 これは。いつの時代の魔法少女なんだろう?


 混ぜるな危険!


 なんて思いながらも、あたしはぺこりと頭を下げる。

 名乗られたからには、こちらも名乗らねば。

 カエルがいなくなったことで、金縛りも解けたし。


「あ。初めまして。魔法少女の星空ほしぞらです。あの、ありがとう……ございました?」


 あと。一応、助けてもらったことになるのかもしれないので、お礼を言っておく。

 あたしが一人で勝手に固まっていただけで、もしかしたらカエルにはあたしを襲うつもりはなかったのかもしれないけれど。

 あたし的に、とにかく、助かったのは事実なのだ。


「気にしなくていいよー。カエル妖魔なんて、存在そのものが悪だからね! 当然のことをしたまでだよ! 本当は一匹残らず殲滅したいんだけどさ。下手に切り刻んで中身が飛び散ったら嫌だしー。ほら、雨が降った後の道路で、中身がはみ出た状態で道路に張り付いてるカエルって、最悪じゃない?」


 なんか、微妙に過激なことを言っているような!?

 さすがに、存在が悪とかまでは。せ、殲滅とかまでは。

 なるべく、あたしの前に現れないでいてくれれば、それでいいんですけど。

 返答に困って、あたしは無言で顔を引きつらせる。

 月見さんは、返事がないことを気にした様子もなく、ついーっとあたしの前まで竹ぼうきでやって来た。


「んー? 中学生くらいだよね? もしかして、月下げっかちゃんのところにいる子?」

「は、はい。あの、月下さんを知ってるんですか?」

「もっちろーん! ま、あの日本昔話風の家に引きこもっちゃってからは、全然会ってないんだけどね。で、どう? 元気でやってるの?」


 え?

 アジトに引きこもる前の月下さんを、知っている?


 ちょ。

 ちょっと、うずっときた。


「月下さんの近況を教えるので、代わりに馴れ初めを教えてください!」


 って、90度のお辞儀付きで、思い切って頼んでみたら。


「いいよー☆」


 マジカルでウィッチなお月見マジシャンは、軽い感じで答えてくれた。


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