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第132話 フラワー対策会議

『フラワー汚染、断固お断り!』


 という、強い姿勢を絶対に崩さないぞ!――――なんて、意気込んでいたあたしでしたが。

 特に何もしなくても、試食会はなしの方向で話は勝手に進んでいった……。


「この花を、食べる…………。この花は、食用花として育てたわけではないから、却下で。花は、愛でてこそ。まあ、もっと量産できたら、考えてもいい。もしくは、私以外の人が育てた花なら、育てた人の自由にすればいい。とりあえず、ここの花たちは観賞用ということで」

「そうか。残念だ」

「あ、ルナ、それ食べちゃダメー! フラワーがダメだって!」


 魔法少女が、フラワーがカケラから育てたお花を食べたらどうなっちゃうのか検証したい、という魔女さんの恐ろしい提案は、あたしが断固としてお断りするまでもなく、お花を育てた張本人であるフラワーによって却下されちゃったのだ。

 そして、提案者である魔女さんの方も、意外とあっさり引き下がる。

 これには、お断りしたフラワーも驚いたらしく、軽く目を見開いていた。

 あたしはといえば、ルナがお月様みたいな実の方へ手を伸ばしかけているのを発見して、慌てて止めに入る。ルナは、「えー!?」って顔をしながらも、素直にあきらめてくれて、引き下げた指をくわえながら、残念そうに実を見つめている。よかった。思いとどまってくれて。

 食いしん坊なルナだけど、さすがに生産者がダメって言ってるものは我慢してくれるようだ。

 フラワーが断ってくれて、本当に助かった。


「ふうん? 意外ね。カケラを提供したのはあなただし、もっと食い下がるかと思ったけれど」

「私は、カケラを集めていただけにすぎない。元々、私のものというわけではない」


 ルナの様子も気になるけど、二人の会話もちょっと気になる。

 てゆーか、魔女さん。誰のものでもないものを拾って集めていたなら、それは集めた魔女さんのものってことでいいんじゃないのかなぁ?

 あたしたちにカケラ集めを頼んだりまでして、あんなに集めていたのに。瓶がいっぱいになるくらいまで集めていたのに、なんか、すっごいあっさり手放してたよね? ちょっと、あっさりしすぎじゃない?

 それとも、フラワーにあげたのはほんの一部で、まだ他にもカケラを隠し持っているんだろうか。んんー、でも世界のカケラかもしれないものが、そんなにいっぱいあるっていうのも、なんだかちょっと怖いような?

 この世界、大丈夫なの?

 そこいら辺も含めて、もう少し詳しく聞いてほしいなあ。

 と、思ったんだけど。

 そうはいかないのが、フラワーなんだよねー……。


「そう。じゃあ、これで話は終わり。さあ、夜咲花よるさくはな。アジトへ帰って、さっそく錬金魔法による花の種作りを始めてほしい。もし、何か、必要なものがあれば、私が集めてくる」

「ふ、ふぇ? え、えーと、とりあえず、アジトに残っている素材でも何とかなるかな。終わったら、何かもっと集めてきてほしいけど。それよりも、出来れば、そのカケラから育った花とか葉っぱとか茎とかでも種を作ってみたいんだけど。他の素材と、何か違いがあるのか、いろいろ試してみたい!」

「分かった。そういうことなら、一セットずつ提供してもいい。それで、量産できるなら、一部を食用に回してもいい」

「やったー! じゃあ、さっそく回収して、早く帰ろう!」


 魔女さんへの興味はあっさり、さっぱり、しっとり失くしちゃって、夜咲花と盛り上がり始めたー!

 でもって、二人で仲良く、釣り鐘型の花ととお月様の実っぽいヤツを根元から掘り起こして、フラワーの花魔法の空飛ぶ絨毯で、二人だけでさっさとアジトへ帰っちゃうしー!?

 何事――!!??

 マイペースすぎる!

 自由がすぎる!

 自分の欲望だけに素直すぎる!!


 お口をパクパクしながら、お花絨毯が闇空の向こうへ飛んで行くのを見上げていたら、一足お先に衝撃から立ち直った月見サンが、ほっぺをポリポリしながら魔女さんに尋ねてくれた。


「えっとぉー。そもそも、カケラをフラワーに渡したのって、あたしたちで実験的なことをしたかったからなんだよねぇ? 食べたいってわけじゃ全然ないし、むしろ断固お断り!――――なんだけどさー。あれって、あなたが持っていた全財産ならぬ、全カケラじゃなかったの? 本当に、よかったの?」

「確かに、あれが私の全カケラだったが、構わない。今後、私の元へカケラが集まれば、それも君たちに渡そう。花の数が増えれば、今後、何も知らずに花を口にする妖魔や魔法少女が現れるだろう。結果は、別段、急がないし、その時その場に居合わせなくても、私には観測が可能だからな。特に問題ない」

「な、なるほどー…………」


 月見サンは、引きつった笑顔を浮かべて魔女さんに頷くと、未練がましく月見サンが水やりをして咲かせた方の花と実を人差し指でツンツンしているルナの元へ行き、優しく言い聞かせる。


「ルナちゃーん。それを食べるのは、我慢しようねー! それは、フラワーが大事にしているお花だからさ! 勝手に食べたら、フラワーが泣いちゃうし! その代わりー、新しいカケラが見つかったら、今度はルナちゃんがカケラ蒔きして、育ったお花はルナちゃんが食べていいからさ!」

「う……分かった。これは、我慢する。フラワーの育てたお花だもんね…………うん! ルナ、ちょっとカケラ探しに行ってくる! みんなは、先に帰っててー!」


 ルナは素直に言い聞かされて、月見サンの思惑通り、自分だけの食用花を咲かせるべく、カケラ探しに飛び立って行ってしまった。

 …………まあ、その内、帰ってくるだろう。


「すぐに見つかればいいけどよ。見つからなかったら、あいつ、さ。誰も見ていないときに、こっそりつまみ食いとかしないよな?」

「…………帰ってきたら、その度に言い聞かせる、とか? でも、アジトに帰る前に、先にここへ寄ってつまみ食いしちゃたら、意味ないかー…………」

「とりあえず、柵でも作って囲っておく? 少しは、効果がある…………かも?」


 ルナを見送った後、あたしたちは花壇の周りに集まって、今後のルナ対策について相談を始める。

 ちなみに、心春は「仲間のことを思い合う、これも愛ですね! 美しいです!!」とか叫びながら、脳内だけどこかへ旅立っていったようなので放置してます。

 あと、月下げっかさんは、やっぱり絶賛考え込み中で、月華つきはなはあたしたちの中へ混ざって来てはいるけれど、話には入って来てないです。一応、話を聞いてはいるみたい。たぶん。


「あー、柵はいいかもね! ルナちゃんはともかく、偶々ここへ立ち寄った、他の魔法少女には少しは抑制の効果があるかも! 華月かげつの時に、アジトの場所とか宣伝してまわってたからさー。今後、新しい子がやって来ることがあるかもしれないし!」

「あー、じゃあ。看板も一緒に立てとくか? 『私有地』とか書いてあったら、普通は勝手には手を出さないだろ?」

「それか、『この花壇の花を食べたら、呪われます!』とか!」

「さすがに、それはひどいんじゃない?」


 ルナ対策の方は、そうそうに行き詰って、話はメンバー以外の魔法少女対策へと移っていく。


「まあ、でもねー。フラワー製の花とか食べたらさー、フラワーに汚染されてさー。結果的に、呪いにかかったのと同じ状況になっちゃうんじゃないかなー、とは思うんだよねー。結果的に、間違ってないというかー。看板に偽りなしというかー」

「あ、あー…………」

「フラワーだもんねー」

「…………まあ、なんか。そういう雰囲気を常に醸し出してはいるわよね…………」


 そうなんだよねー。

 結局はさー、フラワーがフラワーなところが問題なんだよねー。

 闇底フラワー問題。それとも、魔法少女フラワー問題?

 とまあ、そんな感じで。

 何の解決にもなっていないけれど、なんとなく「フラワーだからしょうがない」的に話がまとまって。とりあえず、あたしたちもアジトへ戻ろうかって雰囲気になった、その時。


 思ってもみない人物から、何の脈絡もなく衝撃的な発言がもたらされた。


「私、旅に出ようかと思うの」


 提案でも、相談でもなく。

 きっぱりと決意表明をしたその人は、さっきまで、ずっと一人で何かを考え込んでいた、月下さんだった。


 夜咲花みたいに、妖魔が怖いとかいうわけでもないのに、よほどの理由がなければ、頑なにアジトを出ようとしなかった――――。


 淡黄色いワンピースが似合う、美しい花。

 月下さん――――月下美人げっかびじんだった。



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