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戦の前には嫉妬あり2

「でー、なんで、わざわざ昼時狙ってくるんだよー!」


「うるさいぞ、童子!せっかく、来てやったのに!」


「うるさいのは、張飛の方だっ!!」


あれから、中庭の植え込みの茂みに隠れ、孔明の様子を伺っていた、関羽と張飛を引き連れて、徐庶じょしょは、なぜか孔明の屋敷を訪れていた。


「いやー、しかし、侍女殿が、黄夫人で、童子が、女童子だったとは、驚いた。で、なんで、お前、肉切り包丁握ってるのだ?」


徐庶の疑問に、卓を共にする月英が、笑いながら答えた。


「さすがに、ここは街、ですからねぇ。色々な悪党がおりますもの、身を守るために。だって、私たちは、か弱き乙女ですから」


ほほほは、と、月英と童子は、作り笑う。


「はあ、なにやら、かれこれの事があったようで……」


徐庶が呟く。


「で?単に、タダ飯狙い、という訳でもないのでしょ?」


月英の指摘に、一同は、口を濁した。


菜児さいじや、裏方へ催促してちょうだいな。腹が減った野獣に睨まれては、たまりませんからねぇ」


「はい、奥様」


童子は、裏方へ食事の用意の催促へ向かった。


「お待たせして、すみません。人が多くなった分、小回りが利かなくて……村にいた方がよかったわ」


月英が愚痴る。


「ん?ちょっと、待った。奥方よ、菜児とは、だれじゃ?」


「童子のことですよ。あの子にも、名前がありますもの」


ほおー、と、張飛が声を上げた。


「いや、しかし、あの村の生活とは、随分と異なって……」


徐庶が、部屋をキョロキョロと見回している。


うん、と、関羽も同意した。


「……ですわよねぇー、わたくしは、けっこう、あの、いおり生活気に入っていたんですけど、何より、均様という、名料理人がいらしたし……」


はあー、と、月英は、息を吐く。


いつもながらの、その妖艶な仕草に、皆、そわそわし、目を泳がした。


「あーー、た、たしかに、あの、漬け物は旨かった!」


張飛が、思い出したように言った。


「あーー!あれね、あんたが、火吹きなんぞ、するから、備蓄用の、白菜の漬け物が、おじゃん!まったく、なんてことをしてくれたのか!」


続けざまに、月英が攻め立てる。


わからないのは、徐庶だけで、というのは?と、事の次第を聞きたがった。


「ええ、もう、この、野人二人が現れてからは、静かな生活が、乱されっぱなし、菜児は、怒りのあまり、鎌を手放さなかったし、もうねぇー」


酔っ払った、張飛が、余興で火吹きを行った。松明たいまつに酒を吹き掛け、火柱を上げたが、それが、張飛の髭に燃え移り、とっさに、保存用に置いてあった漬け物壺の中身を、月英がぶちまけ、消火した。


頭から、白菜の漬け物を被った張飛は、旨い、旨いと、その白菜にかぶりつき、もう、場は混乱を極めた。


「ははは!なんだ!お二人も、人の事はいえませんねぇ!」


徐庶は、大笑いしている。


「……って、ことは、うちの旦那様について、この、野獣二人は、納得していない、と、いうことですね?」


月英の一言に、徐庶は、さらに笑った。


「ええ、そうなんですよ、劉備様を取られたと……」


「なんだ、ちいせぇ、男達だなあー」


童子こと、菜児が、スープを運んで来た。


「おお!干し肉入りじゃ!こりゃー、豪勢じゃ!!」


張飛が飛び付いた。


「しかし、あの、庵から、出てきたとたんに、この、上流の暮らしぶりとは、諸葛亮は一体……」


関羽が、怪訝な顔をする。


「あー、これは、かなりうっぷんが、たまっているということですね?徐庶様」


「はあ、私では、どうにもこうにも、しかし、今のうちになんとか、しておかないと仲間割れになりますから……」


徐庶は、干し肉入りのスープに、喜んでいる関羽と張飛を眺めながら、肩をすくめた。

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